「奨学金は借金」はひと昔前の話 早稲田は独自150種、すべてが給付型

2023/08/26

■特集:受験・進学にまつわるお金

大学の学費のために奨学金を受けると、長い期間返済期間が続くなど、借りたお金を返すために苦労するイメージがあるようです。でも今は、返済義務のない独自の給付型奨学金制度を設けている大学が少なくありません。行きたい大学にどんな給付型の奨学金があるのか、親子でよく調べることが大切です。(写真=Getty Images)

「奨学金は借金」はひと昔前の話

奨学金は「借りると返すのが大変」というイメージがあるかもしれません。2022年に奨学金の情報サイト「ガクシー」が大学生とその保護者1941人に行った意識調査では、「借金なので怖い」と敬遠している人が41.0%(複数回答可)。「家計の負担を軽減できてうれしい」と捉えている人も21.7%いるものの、「制度が複雑で理解が難しい」が3割以上、「よくわからないから怖い」が2割近くいて、マイナスイメージを持つ人が少なくないようです。

(奨学金の情報サイト「ガクシー」の「奨学金に対する実態調査2022」をもとに編集部が作成)

実際のところはどうなのでしょうか。奨学金といえば、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金が以前からよく知られていますが、20年に給付型奨学金が拡充されました。国による高等教育の修学支援新制度で、入学金・授業料等減免と給付型奨学金がセットになったものです。支援の対象となるのは、主に住民税非課税とそれに準ずる世帯(年収の目安380万円未満)ですが、24年からは中間所得者層の多子世帯や、理工農系で学ぶ学生がいる世帯への支援が拡大される予定です。

一方、同機構が大学などを対象に行った「令和元年度奨学事業に関する実態調査」によると、調査に協力した大学・短期大学・高等専門学校・専修学校3828校の約4割にあたる1521校が、独自の奨学金制度を設けています。しかも、その8割以上が返済不要な給付型と回答しています。給付型奨学金のある大学が多いことがわかります。

早稲田大学の奨学金はまとめて申請

例えば、早稲田大学の場合は、独自の奨学金が約150種類あり、そのすべてが給付型です。日本学生支援機構や民間団体など学外の奨学金との併用ができるのも特徴です。

「約150種類といっても、出願資格や給付額などの条件は様々です。しかし、学生自身が一つひとつに目を通して、条件に当てはまりそうなものに申請するわけではありません。ウェブの登録フォームに必要事項を入力し、所得証明書などをそろえるだけで、学内の奨学金も学外の奨学金もまとめて申請できる仕組みにしています」と早稲田大学奨学課の竹迫寿さんは言います。

例えば、「校友会給付奨学金」は、早稲田大学の卒業生の寄付により運営されている奨学金です。ホームカミングデーのような校友会の行事にボランティアとして参加することを条件に、家計状況をもとに選考が行われ、学部生35人に年額40万円が給付されます。

また、「社会科学部卒業生奨学金」は、同学部の卒業生の寄付を中心とする奨学金で、同学部の学生に限定して、年額40万円を給付します。「増山瑞比古ラグビー蹴球部奨学金」のように、ラグビー蹴球部の学生に限って支給するものもあります。大学側は申請者の情報を点数化し、制度に振り分けて受給者を決定していきます。民間奨学財団の奨学金を希望する者に対しては、大学宛てに推薦依頼のあった奨学財団奨学金の条件に当てはまる学生に対して、申請案内を行っていきます。

早稲田大学の奨学金申請フォーム(提供=早稲田大学)

慶應義塾大学は世帯年収1200万円までに拡充 年間最大90万円を毎年給付

他大学の奨学金も、実にさまざまです。慶應義塾大学も、独自の奨学金が110種類以上あります。「学問のすゝめ奨学金」では、2024年度には世帯年収の上限を1000万円から1200万円未満へと引き上げました。首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)以外の高校出身者550人以上を対象に、年額60万~90万円を4~6年かけて給付しています。さらに多くの世帯が対象になるため、事前によく調べておくことが大切です。また立命館大学の「西園寺記念奨学金」は、1期ごとに成績優秀な学生に15万円または30万円を給付します

最近増えているのが、高校3年時に申請しておく「予約型」と呼ばれる奨学金です。受験を決めた時点で申請しておくことが前提ですが、入試に合格し入学することで採用が決まります。例えば、早稲田大学の「めざせ!都の西北奨学金」では、1都3県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)以外の世帯年収1000未満の受験生1200人を対象に、年額45万~70万円を4年間にわたって支給することを約束しています。日本学生支援機構の貸与型、給付型のいずれの奨学金についても高校時代に予約の申請をすることが可能です。

複数の奨学金を同時に受給が可能 大学窓口での説明に感謝

大学独自の奨学金を活用している早稲田大学教育学部2年生に話を聞きました。

高校卒業と同時に父親が定年退職して世帯年収が半減したため、入学直後に両親から『奨学金をもらったらどうか』と言われました。奨学課でもらった資料を見ながら申請したのですが、1年目は父が退職直後ということもあって不採用でした。日本学生支援機構の無利子の貸与型奨学金(月5万4000円)だけで切り盛りし、2年の時に校友会給付奨学金に応募して、年間40万円を給付してもらえることになりました。今は奨学金をすべて学費に充てつつ、自分の生活費はアルバイトでまかなうことで、不自由なく学生生活を過ごせて感謝しています。申請書類を用意するのは少しエネルギーが必要でしたが、大学の奨学金の窓口に行ってみるまで、複数の奨学金を併給できるとは知らなかったので、行ってよかったです」

奨学金は情報戦 親子でよく話し合って

早稲田大学奨学課の竹迫さんはこう話します。

奨学金は情報収集が大切です。何もしなければ情報は手に入りにくいですが、意識して調べれば、利用できるものが見つかることもあります。そのために大事なのが、親子の会話です。家計の状況についてよく話し合っている家庭ほど、奨学金を希望する理由をきちんと書いているなど、情報収集や申請がうまくいっているように思います。また、日本学生支援機構をはじめ4年生まで継続可能な奨学金は、受給を継続できるか否か単位修得状況や成績などによる判定がありますが、家計の状況をしっかり把握している学生は、しっかりと継続ができるような成績を収めている印象です」

リクルートなどが「進路の話をするときに保護者がよく使う言葉」を高校生に聞いた調査では、「自分の好きなこと、やりたいことをやりなさい」は全体の60%近くあるのに対し、「お金の心配はするな」は約15%、「お金がない、経済的に厳しい」は約10%でした。お金について、多くの家庭ではあまり話し合っていない様子がうかがえます。「我が家が利用できる奨学金はないだろう」などと決めつけず、大学進学のお金についても親子で話し合っておくことが、奨学金の上手な活用につながりそうです。

※一般社団法人全国高等学校PTA連合会・(株)リクルート調べ「高校生と保護者の進路に関する意識調査2021」を元に編集部で作成

(文=竹倉玲子)

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