奨学金、返済不要型も意外と多い 1.6万種類、自分がもらえるものを探すには?

2023/08/08

■大学受験・進学にまつわるお金

大学生の2人に1人が利用している奨学金制度。貸与型が知られていますが、返済不要の給付型も少なくありません。どんなものがあるのか、国内の奨学金情報を検索できるウェブサイト「ガクシー」の責任者に詳しく聞きました。給付型奨学金への申し込み方や採用されるポイント、注意点などを紹介します。(写真=Getty Images)

日本学生支援機構以外に知られていない多くの奨学金制度

大学の学費や生活費をまかなうために、大きな助けとなるのが奨学金です。奨学金というとお金を借りる「貸与型」をイメージする人が多いかもしれませんが、返済不要の給付型や、特待生や学業成績優秀者、学費の支払いが経済的に困難な家庭を対象とした学費減免制度などもあります。

日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、奨学金は現在、約半数の学生が受け取っています。日本の給与水準が上がらない一方で、大学の授業料は増額傾向にあり、少子化にもかかわらず、奨学金受給者の数は増加傾向にあります。

(資料=ガクシー提供)

国内の奨学金情報を検索できるウェブサイト「ガクシー」のマーケティング責任者、大工原靖宜さんは、「日本学生支援機構以外の奨学金制度については、知らない学生や保護者がほとんどです」と話します。

実際には3千を超える団体が、約1万6千種類の奨学金制度を設けています。また、財団や企業が提供する給付型の奨学金には所得制限がないものや、対象人数が多くて金額も大きいものが少なくありません

例えば、公益財団法人キーエンス財団の2023年度給付型奨学金は約600人を対象に、月10万円、4年間総額で480万円を給付します(住んでいる地域は限定しない、他の給付型との併用不可)。一般財団法人守谷育英会育英奨学金は約70人程度を対象に1人あたり月12万円、総額576万円を給付しています(東京都在住に限る、他の給付型との併用可能)。

(資料=ガクシー提供)

スマホから応募できる奨学金もある

「企業などが実施している、月5万~6万円規模の奨学金も多いです。プロフィールを書いたり、アンケートに答えたりするだけで申し込めるものもあります。また、金額の大小にかかわらず、ネットから応募できる奨学金も増えてきています

財団や企業が提供する奨学金情報は、これまで広報する手段が限られ、必要な人の目に届きにくかったといいます。そこでガクシーでは日本のあらゆる奨学金情報を掲載し、学生が自分に合った奨学金を検索できるようにしました。奨学金の中にはサイト上で直接申し込めるものもあります。ガクシー経由で奨学金に応募した学生は、2021年8~12月の1453人から、23年1~6月の9514人へと急増しています(いずれもガクシー調べ)。

奨学金を活用して、留学と大学院進学を実現

これまで17件ほどの給付型奨学金を受けてきたという学生に話を聞きました。現在、理系の私立大学の大学院博士課程に在籍している内藤健さん(仮名)です。内藤さんが奨学金の利用を始めたのは大学2年の時。家計が急変し、卒業の見通しが立たなくなってしまったことがきっかけです。学費と生活費を工面するためにアルバイトを増やしましたが、学業に支障をきたし始め、この状況を打破したいと思って給付型の奨学金に応募しました

最初に申し込んだのは、通っている大学の奨学金(約50万円×2回)です。この奨学金のおかげでアルバイトを最小限に抑えることができ、その分を勉強に振り向けることができました。学部4年の時には、研究内容が評価され、学会で発表しました。

内藤さんは学部3年の終わり頃から、海外での就労問題に興味を持ち、特に研究者が海外でどのように活躍しているのかを知りたいと思うようになりました。そこで、文部科学省と企業が主催する「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」への参加を申請し、採用されました。奨学金の約200万円を受け、学部卒業後に専攻する分野の研究が最も盛んな米国の大学に留学しました。大学の研究機関や民間企業に滞在し、研究者がどのように働いているかをそれぞれの立場から間近で見ることができました。

「分野の垣根を越えて従業員が毎日楽しそうに勤務する姿を見て、視野が広がりました。留学してよかったと思います」と振り返ります。

大学院での研究が評価され、貸与型奨学金の返還も免除に

この留学を通じて米国の大学院に出願できるレベルまで英語力が向上したことが、日本の大学院に進学後、2度目の留学につながりました。この留学時には、「イノアック国際教育振興財団奨学金」に申請し、約110万円の給付を受けました。また、大学院の学費を補うために「中董(なかとう)奨学会」からの給付(約100万円)も受けています。

このほか、内藤さんは大学院進学の際にJASSOの奨学金(貸与型)を借りていました。この奨学金は大学院修了時の成績と業績(学会発表や投稿論文、特許といった成果)によっては返還が免除されます。内藤さんは、学会誌に投稿した論文が評価されたことなどから、返還を全額免除されました

「さまざまな給付型の奨学金を受給したことで、借金を抱えることなくやりたいことに挑戦できています」と内藤さんは言います。

応募期間の限定に注意

給付型奨学金では、気を付ける点があります。「応募期間が限定されていることです特に財団の給付型奨学金は年に1回、春に募集をして終わり、ということが多いので、見逃さないように注意してください」と大工原さんは言います。

奨学生に選ばれるポイントは、奨学金制度を設立している団体や企業が「支援したい」と思える人物であることです。

給付型奨学金の選考は、就活の選考方法に似ています。小論文の提出が必要だったり、プレゼンテーションや面接が審査に加わったりする場合もあるので、団体や企業のサイトをよく読んだうえで、対策を考えることが大事です」

前出の内藤さんは、奨学金を得るための対策を次のように語ります。

「私は小論文の添削を大学の先生に頼みました。面接対策は友人や先輩、後輩に相手をしてもらうのがいいでしょう。プレゼンテーションは学会で研究発表をしている大学院生に見てもらい、アドバイスを受けながら作り上げていくといいと思います」

奨学金の獲得は名誉

給付型奨学金の多くは、高校や大学でいい成績を取っていることが条件です。受給後に大学の成績が落ちると、給付がストップしてしまうものもあります。

「応募の条件はいろいろありますが、ちゅうちょせず、気軽に応募してみてはいかがでしょうか。アルバイトが難しくなる就活の時期に備えて、月に数万円単位の奨学金を多数、申請する学生もいます。日本人は奨学金をもらうことを恥ずかしく思う風潮があるようですが、欧米では『名誉なこと』とされています。奨学金を活用することで、みなさんの可能性をぜひ、広げてほしいと思います」(大工原さん)

(文=狩生聖子)

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