生活費、帰省代、大学院進学……意外とかかる地方国立理系進学

2023/08/04

■特集:大学受験・進学にまつわるお金

金銭面を考えたら、できれば国立大学に行ってほしいと考える親は少なくありません。ところが、国立大学でも思わぬ出費がかかることがあります。 長男が首都圏の高校から北海道大学に進学した高橋優子さん(仮名)のケースを紹介します。(写真=Getty Images)

後期試験中に学生会館、アパート探し

現在、大学院生の息子。大学受験では、第1志望の国立大学(前期日程)が残念な結果となり、後期日程で第2志望だった北海道大学を受験しました。併願した私立大学の合格は取れていましたが、そこに進学するつもりはなく、ダメなら浪人と決めていました。

後期日程の合格発表から入学までの準備期間はわずか10日しかありません。そういう事情を考慮しているのか、子どもが試験を受けている間に、大学側が付き添いの保護者向けに学生会館(学生寮)見学ツアーを実施していたので参加しました。バスで3つほどの建物を回り、部屋や食堂を見学しました。アパート事情も知っておきたかったので、試験の後、息子と大学近くの不動産屋に立ち寄り、4軒ほど部屋を見に行きました。「あとは結果を待つのみ」と気持ちを切り替え、札幌や函館の観光を楽しんで帰りました。

合格の知らせを受け、進学が決まってからはバタバタでした。10日間で一人暮らしの準備はできないと思い、家具や食事付きの学生会館を迷わず選択しました。布団だけ買って、急いで送り出すような感じでした。

コロナ禍で楽器が弾けず、予想外の出費

学生会館は食事付きで月5万4500円。門限もなく、食事の時間が過ぎたら取り置きしてくれるなど、サービスも行き届いていて申し分ありませんでした。でも、多くの学生はより自由な生活を求めて、大学2年になるタイミングで一人暮らしを始めます。札幌の一人暮らし向けアパートの家賃相場は、月3万~6万円台。息子は大学の近くに2LDKで 5万2000円の物件を見つけ、一人暮らしをスタートしました。一人暮らしの学生にはぜいたくな間取りですが、親などが遊びに来たときには泊まれるし、首都圏で一人暮らしをさせることを考えたら、かなりのお値打ちではありました。

ところが、3年になった時にコロナの感染が拡大しました。息子は音楽系のサークルに入っていましたが、サークル活動が長期の自粛となり、キャンパス内で練習ができなくなってしまいました。しばらくカラオケボックスで自主練をしていましたが、それもできなくなり、自粛ストレスを抱えた息子から「お願いだから、防音室のあるマンションに引っ越しさせてほしい」と懇願されました。本来であれば大学生活が一番楽しい時期に、演奏会も海外旅行もあきらめなければならなかったことを気の毒に思い、受け入れることにしました。おかげで家賃は1万円アップ、敷金などを含めて予想外の出費となりました。

国立大理系は大学院進学で6年間仕送り

国立大学の授業料の標準額は、学部問わず、年間53万5800円です。私立大学に通うことを考えたら、かなり安いのですが、地方の国立大学に進学すると生活費や帰省代などがプラスされ、それなりにお金がかかります。さらに理系は、大学院まで進むのが今はスタンダードのようで、息子の友だちもほとんどが大学院に進みました。つまり、6年間仕送りが必要になります。

大学院に進むと、研究で忙しくなります。専攻する分野にもよると思いますが、息子の研究室は他の研究機関と共同研究を行ったり、フィールドワークをしたりと全国あちこちに行きます。そのため、アルバイトをする時間がありません。北海道は時給が安く、塾講師のアルバイトでも時給1250円程度です。大学院に進んでからは多忙な日々で、週1回行けるのがやっとで、「バイト代をぜんぜん稼げない」と嘆いていました。

就活はオンライン面接、交通費全支給で地方大のハンディなし

大学院修士課程に進んでしばらくすると、就活の時期になりました。地方の大学は就活に不利なのではないかと心配していましたが、コロナ以降の就活はオンライン面接が主流です。なおかつインターンや会社説明会、面接はすべて交通費が支給され、企業のほうから大学へ出向いてくれることもあります。企業によっては、エリアごとにあらかじめ支給金額が決まっているところもあり、1回会社訪問するだけで交通費や宿泊費込みで一律7万円の支給金が出たこともありました。うちは首都圏に自宅があるのでホテルを使う必要はなく、多くもらいすぎることもありました。それまで春、夏、正月と年3回の帰省代がかかっていましたが、就活中は帰省代が浮き、家計的にはありがたかったです。地方大学だからというハンディはまったくなかったですね。

博士課程からは自分の力で頑張って

就活は順調で、早い時期に企業から内定をいただきました。ところが、外部の研究機関に出入りするようになり、博士号を持つ方々の話を聞いているうちに、自分ももっと今の研究を深めたいと思ったようで、「博士課程に進みたい」と言い出しました。これは予想外の展開でした。ポスドク問題(博士号取得後も大学などで正規のポストに就けず、任期付きの非正規研究職が多数いる)などもありますし、わざわざ茨の道を選ばなくてもと初めは反対しましたが、息子の意思は変わりませんでした。「心配はしているけれど、応援はするよ」というスタンスで見守ることにしました。

とはいえ、修士課程を修了した時点で24歳。そこからさらに最短でも3年間の博士課程の生活が続きます。私たち夫婦は共働きで、息子は一人っ子なので、金銭的な支援ができないわけではありませんが、この先はもう本人に頑張ってもらおうと思います。そのくらいの覚悟を持って取り組まなければ、生き残れない世界だからです。先日、日本学術振興会(学振)の特別研究員の申請をし、今は結果待ちです。ただ、博士課程1年目で学振が採れるケースはまれなので、採れなかった場合は大学独自の「北海道大学DX博士人材フェローシップ」に申請する予定です。それでも足りない分は、奨学金を借りてなんとか自活してもらおうと思っていますし、本人もその覚悟でいろいろ調べているようです。

第2志望で進学した大学でしたが、思いもよらず、札幌での生活が長くなりました。「できれば、このままずっと札幌で暮らしたい」と言っているくらい、住みやすい街のようです。先々の不安がないわけではありませんが、自分の選んだ道をぐんぐん進んでいく息子を見て、子育ての終わりを感じています。

(文=石渡真由美)

【大学受験・進学にまつわるお金】
●「このお金は…?」予備校から高額請求、娘の「ひとり暮らし」宣言…大学でかかる費用、親の涙
●子どもの受験生活、大変だった「夫対策」 出願費50万円「無駄だ」と言われて妻は…
●理系志望がまさかの美大進学、学費は160万円 想定外の出費、どう乗り越えた?
●「歴史的な円安」の中、娘がヨーロッパ留学へ…高額カード請求に驚愕
●「滑り止めへの入学金、もったいない」 息子が大学受験、自らの経験を活かした母
●「医学部を受験する」子どもがそう言ったら 塾代7万、初年度学費300万…経験者が語る
●奨学金、返済不要型も意外と多い 1.6万種類、自分がもらえるものを探すには?
●早稲田大学は独自の奨学金が約150種類も 親子の会話で獲得を
●大学受験と学費、いくら必要? 予備校は?医学部は高い?留学すると…

1pxの透明画像

記事のご感想

記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします

今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。

関連記事

注目コンテンツ

入試

調べて!編集部

NEWS