「御社は第2志望です」と面接で言ってしまう学生も 心配な「エージェント任せの就活」 大学職員の本音座談会【中編】

2025/08/01

■連載:大学職員座談会

売り手市場と言われ、年々、早期化している就職活動ですが、売り手市場だからと言って問題がないわけではないようです。学生たちの実際の就活はどのようになっているのか、キャリア支援担当の大学職員たちは何を感じているのか、都留文科大学、龍谷大学、創価大学の担当者に聞きました。(聞き手=朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長、写真=Getty Images)

企業が求めるのは「人間力」

——企業側はどんな学生を求めているのでしょうか。

 都留文科大学:本学は文系学科しかないものの、IT企業などからもよくお声がけいただくのですが、その際に企業側からよく聞くのは、「専門知識は問わないので論理的にものが考えられる学生や、人間的成長をしている学生、いわゆる社会人基礎力を身につけている学生にぜひ来てもらいたい」という話です。

 龍谷大学:理系の場合はある程度、アカデミックな学力も重視されますが、全体で見るとやはり人間力が注目されています。それなのに、就職が早期化して1、2年生から就活に動いて学問そっちのけという面があるので、企業も頭を悩まされているのかなと思います。企業の方から「学生が薄っぺらくなっている」という話も聞きます。こんなこと言ったら怒られるかもしれませんが、1、2年生の夏休みはインターンシップよりも、一人旅に行くとか、ボランティアをするとか、そういう経験をしてほしいんですけどね。

 創価大学:今の学生は社会課題と向き合っていく志の高さはかなりあるんです。だから、「実際に行動して実績を残したなど、自分にしかない経験を持っている学生はすごく光る」という話も聞きますね。

 龍谷大学:人間性を高めるための本物の経験ですよね。インターンシップに行くのももちろんいいですが、それは3年生からでもいいのではないでしょうか。でも、1、2年生からやっとかなあかんというような逼迫感が学生たちにはあります。企業からは「真面目な学生が多い」という話をよく聞きます。「御社は第2志望です」と面接で言ってしまうとか(笑)。嘘も方便じゃないですが、その辺りもやはり人間力の要素であって、もう少しちゃんと揉まれなあかんのちゃうかなというところですよね。

「公平性」を求める学生

——学生の動き方にはどんな傾向がありますか。

創価大学:今の学生は「挑戦できる環境」と「安定性」の両方を手にしたいと思っていると感じます。そこに最近加わってきたのが、自分の仕事や成果がきちんと公平に評価されるかという「公平性」です。そのため、人事制度や評価の仕方をオープンにしている企業が学生たちの高い関心を集めています。

龍谷大学:企業からも聞く話ですが、転職を前提に就活している学生も増えているようです。学生にとって、その会社でどれだけのスキルを得られるかが重要な指標になっているというんですね。メディアがこれだけ転職を気軽なイメージで広めてしまうと、学生も転職ってすぐできるんだと勘違いしてしまいます。さらに、嫌だったらやめたらいいや、と考えてしまうんです。現実はそんな簡単なものじゃありませんが。

都留文科大学:面談中に「転職前提で考えることって、ありですかね」と素直に聞いてくる学生もいるので、「現時点から転職ありきで考えるのは絶対やめたほうがいいよ」とアドバイスしていますけどね。

エージェントが介入し、自分で決めない

——学生の意識もかなり変わってきているのですね。

龍谷大学:就活にかなりエージェントが入ってくるようになったので、その影響も大きいでしょうね。何もしなくてもエージェント側からどんどん声がかかるから、言われるがままにやってしまう。そうやって「汗をかかない就活」が主流になってきているのは怖いなと思います。転職の話も含め、学生にとって内定の重みが変わってきているなと感じます。

都留文科大学:そういう学生が増えてきていますね。本人が意図しないところでエージェントに登録され、困ってしまったなどという話も聞きます。

創価大学:ここ数年、エージェントの進出度合いは本当にすごいです。現在は若い労働力が不足しているので、割と簡単に内定が取れるようになっています。そんな中でエージェントは何を提供しているのかというと、結局、学生が自分の人生について考える時間を肩代わりするサービスだと思います。何が自分に向いているのか、本当にやりたいことなのか、もがいてほしいと思っています。大学は本来、自分の人生を自分で決めていく力を身につける場なのに、そこがアウトソーシングされています。大事な人生の意思決定を他者に委ねていいのかと、かなり疑問に思ってしまいますね。 自分で決めることを、手放さないでもらいたいです。

——就職活動にそんなにエージェントが入ってきているというのは驚きです。

都留文科大学:最近も学生から、「エージェントの適性検査を受けて、自分に向いていると紹介された企業4〜5社にエントリーしてみたけれど、何かしっくりこない。どうしたらいいでしょう」という相談を受けました。

創価大学:エージェントもいろいろあって一概には言えませんが、どうしても資本の論理が働くので、手数料が高い企業にあっせんしやすくなるという面がありますよね。教育機関としては、抵抗すべきところは抵抗して、学生本位を願いますが。

都留文科大学:やはり成功報酬みたいなビジネスモデルが多分にあると思うので、そこはケアが必要だと思います。

龍谷大学:キャリア採用ならエージェントもありかなとは思います。専門性や経験で見る部分が大きいですし。でも、新卒の真っ白な学生に対してエージェントってどうなんだろう。それこそ成功報酬の影しか見えてこないですよね。

創価大学:気持ちが優しい学生ほど、エージェントに引っ張られて断れなくなってしまうケースがあります。企業側に目を向けても、学生が長く働いている企業はやはり採用を大事にしているので、基本的に自前で採用活動をしています。一方、エージェントに丸投げの企業は短期的に人が欲しいだけということも多いんです。実際、エージェントに紹介された会社で長く頑張っているという話はあまり聞きません。学生にとってもそうした経緯で入社してしまうと納得度も低いので、大変な時に踏ん張れる原動力がないのかなと思います。やはり、学生にとってあまり幸せな結果にならないのではないかなと思いますね。

>>大学生の就職活動、担当者のホンネは「サポートしすぎかな?」 大学職員の本音座談会【前編】

 >>子どもの就活を心配しすぎる、氷河期世代の親たち 世代間ギャップも影響か 大学職員の本音座談会【後編】

(文=小元佳津江)

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