「観光+環境」を一緒に学ぶ 注目が集まる今どきの学部、授業内容は?

2023/06/11

■親のための学部・学科講座(後編)

観光学というと観光産業に関する研究をイメージしがちですが、それだけではありません。日本や世界が抱えるさまざまな問題に対し、観光という切り口から解決策を探る学問でもあるのです。観光とサステナビリティ(持続可能な社会)を結びつけ、ともに学べる新しい学部にも注目が集まっています。(写真=立命館アジア太平洋大学提供)

環境問題を観光から学ぶ

2022年9月、米国のスタンフォード大学が70年ぶりに新スクール(学部)を開設しました。「Stanford Doerr School of Sustainability」、つまり「サステナビリティ学部」です。気候変動問題をはじめ、持続可能な社会に向けて解決すべき地球規模の問題に、学問分野を超えて取り組む姿勢を示しています。

日本の大学で環境問題を学べるのは、ほとんどが理工系の学部でした。しかし最近では、文系の学問の視点を取り入れ、環境学やサステナビリティ学を学べる学部が誕生しています。そのキーワードとなっているのが「観光」です。

観光を主軸にすえ、文理の垣根を越える

長野大学は、「地域独自の自然や文化の魅力と、観光が持つ『人を惹きつける力』を組み合わせる」をコンセプトに、07年に環境ツーリズム学部を設置しました。ちなみに長野大学は17年に公立大学になっています。また国学院大学は、22年に観光まちづくり学部を開設し、観光を基盤にした日本各地の持続可能なまちづくりに取り組んでいます。

さらに23年4月、立命館アジア太平洋大学(APU)は、サステイナビリティ観光学部を開設しました。持続可能な社会の形成を目指す「サステイナビリティ学」と、21世紀最大の産業ともいわれるツーリズムを学ぶ「観光学」の両方の専門性を高める学部です。

「観光学とサステイナビリティ学は、切り離せない関係にあります」と話すのは、李燕(リ・エン)学部長です。

「サステイナビリティ学とは、いかにして限りある資源を持続可能な形で循環させ、次の世代につなげていくかを考える学問です。それは観光学と共通するものがあります。観光学で扱っている『観光』とは、単に『光の当たる場所を観に行く』ということではありません。観光は不動産、鉄道、ホテル、飲食サービスなど、地域社会や地域経済と結びついていますから、地域が抱える問題を解決し、地域全体を持続可能にしていく必要があります。また地域の自然や文化財を保護・保全することは、観光の面でとても重要なテーマです」

APUは、国際学生(留学生)が学生のほぼ半数を占めます。李学部長が言う「地域」とは、国内だけを指しているのではありません。

「サステナビリティは世界的なテーマですが、各国のトップが話し合って解決できるものではありません。世界各地の一つひとつの地域が持続可能になることで、世界全体が持続可能になるのです」

ホテルと一緒にイベント 理論と実践の両輪で学ぶ「課題解決」

サステナブルな社会を実現するための課題は山積しています。理工系の学問だけで解決できるテーマではないと、李学部長は強調します。

気候変動や脱炭素のメカニズムの研究は理工系ですが、持続可能な社会を実現するためには、環境、社会、経済、文化の4つが必要です。文系のアプローチは欠かせません

同学部では文理の壁を取り払い、学生たちが自らの専門分野を選択していけるよう、9つの専門科目群を用意しています。環境学、資源マネジメント、国際開発、観光学、観光産業、ホスピタリティ産業、社会起業、地域づくり、データサイエンスと情報システムの9つです。学生たちは目指すキャリアや興味関心に応じてこのうちの3つを選び、学びをカスタマイズします。

もう一つの柱は、学外での実践学習です。プログラムには、フィールドスタディ、専門インターンシップ、専門実習の3つがあります。フィールドスタディは、長期休暇などを利用してイタリア、スペイン、ポルトガルなどに行き、世界遺産と観光の事例などに直接触れ合います。

専門インターンシップは、企業や自治体などと連携してイベントを実施するなど働くことを通して学びます。専門実習は、座学と実習を組み合わせた体験学習を行います。

フィールドスタディの様子(写真=立命館アジア太平洋大学提供)

「サステイナビリティ観光学部開設前の昨年は、大分県から委託を受けて、学生たちが『大分県の魅力を発掘する』というプロジェクトを立ち上げ、YouTubeでも発信しました。企業との連携も多く、たとえば杉乃井ホテルと一緒にイベントを企画し、その広告から実践までの一連の流れにインターンとして参加しています。観光都市の別府にある大学ですから、地の利を生かした実践的な学びが可能なのです」(李学部長)

環境への配慮がある人材は、どんな業種でも活躍できる

李学部長は、社会のイノベーター、地域観光のプロデューサーを育てていきたいと話します。

「観光学部の卒業後の進路というと、観光業への就職をイメージするかもしれませんが、そうとは限りません。大企業であればあるほど、環境への配慮と責任が求められる時代です。サステナビリティの知識をもつ人材はどんな業種でも活躍できると思います。それに、APUで学んだスキルや能力があれば、異なる分野に就職しても、あるいは異なる文化の土地に行ったとしても、そこで自ら学んで道を開いていけるはずです。そのような人材を育てることこそ、大学の本来の役目だと考えています」

地域への目線から世界が抱えるさまざまな社会問題に解決策を投じる――それが今後の観光学部の新しい姿ともいえるでしょう。

(文=神 素子)

日本経済、底上げの「トリガー」? 大学の「観光学部」が続々と開設、なにを学ぶのか

 

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