■親のための学部・学科講座(前編)
旅行は、日常とは異なる体験によって人生に彩りを与え、訪問先の歴史・文化を知り、食を味わい、現地の人々と交流することもできます。旅行者の移動によって成り立つ観光産業は、日本経済の底上げや地方再生の切り札としても期待されています。観光学部は、観光産業の役割や関連する知識を多面的に学ぶ学部です。(写真=大阪成蹊大学 国際観光学部提供)
1998年初めて学部設置の立教大学から全国へ
観光産業の推進は、日本がいま力を入れている取り組みの一つです。コロナ禍で大幅に減った観光客が急速に戻りつつある現在、人の移動や旅行先での消費活動をより促すことで経済成長や地域の活性化につながる可能性があるからです。
日本の大学で初めて観光学科を設置したのは1967年の立教大学で、短大では同年の大阪成蹊短期大学です。1998年に立教大学は観光学部を設置し、その後、札幌国際大学、和歌山大学、玉川大学など各地の大学に観光学部が続々と開設されました。
観光産業の成長に欠かせない「経営人材」を育てる
大阪成蹊大学は、15年に観光ビジネスコースをつくり、18年に国際観光ビジネス学科を設置して、22年4月に国際観光学部を開設しました。同学部は観光産業を「アフターコロナの最大のトリガーとなる産業」であるとし、次世代の観光産業を担う人材、グローバル社会で活躍できる人材育成を目標に掲げています。「トリガー」とは、引き金、きっかけのことです。
学部長を務める国枝よしみ教授は、学部新設の背景に、観光産業における経営人材の不足を挙げます。
「以前は社会現象として論じられることが多かった観光ですが、03年に政府が観光立国宣言を発表して以降は、日本の経済を支える重要産業の一つと捉えられるようになりました。今後、観光産業を日本の基幹産業として成長させるためには、おもてなしの心や接客の技術を備えた人材だけでなく、経営の視点で観光産業の仕組みを理解できる人材、経営のトップに立つことができる人材も必要です。国際観光学部では、そうした人材を育てるための学びを提供しています」(国枝教授)
在学中に2回の海外留学
同学部は、学生の興味や進路の多様性を踏まえ、「国際観光コース」「観光まちづくりコース」「国際ビジネスコース」の3コースを設けています。学生の約6割が選択する国際観光コースは、旅行会社やホテル、航空会社など観光産業の中枢を担う企業の経営を学びつつ、観光産業に欠かせないホスピタリティー精神も身につけます。
観光まちづくりコースでは、観光客を受け入れるまちの立場として、地域の魅力発掘や観光プランの立案、地域振興などに役立つ力を養います。
国際ビジネスコースでは、国際経済、国際政治の知識や、英語によるコミュニケーション力など、海外で活躍するビジネスパーソンに求められる教養を身につけます。
カリキュラムには、専門知識を学ぶ授業とともに、旅行会社、航空会社と連携した特別授業や演習、2年次から始まる企業でのインターンシップなど、社会との結びつきを体験し、キャリアを見極める機会を多く取り入れています。
「フィールドワークでは、地元の自治体から課題を聞いた後、実際にその地域を訪れ、商店街や地元企業に聞き取り調査を行ったり、解決策を考えたりします。最近では2年生の専門演習で堺市と連携したプロジェクト型授業を行い、19年に世界文化遺産に登録された百舌鳥(もず)・古市古墳群に若い世代の旅行客を誘致するための施策や交通アクセスの改良プランを提案しました」(同)
また同学部では、在学中に2回の海外留学を推奨しており、希望に応じて1年次には1〜3週間の短期研修、3年次には16週間~8カ月間、カナダやオーストラリアなどへの長期留学があります(長期留学には奨学金制度あり)。英語力を身につけ、TOEICなどの英語検定で成果を出す学生も少なくありません。
まちづくりや地域活性化との融合でさらに進化も
観光産業はさまざまな業種とつながりがあるため、卒業生の進路も旅行会社や空港、船舶会社など多岐にわたります。
「国際観光や地域振興、まちづくりの知識を生かして、国家公務員、旅行会社、空港のグランドスタッフ、銀行など地域に根ざした企業や団体に就職する学生もいます。外国人観光客が多く利用するホテル、船舶、国際ビジネス系では、海外コンサルタントの仕事も、観光学部の学びとは深い関係があります。学生には、観光産業にこだわらず、柔軟なキャリアプランを持ってほしいです」(同)
昨今は、環境と観光、地域ビジネスを結びつけて研究する長野大学の環境ツーリズム学部、観光を軸としたまちづくりや地域経済の活性化について学ぶ国学院大学の観光まちづくり学部など、観光学と他の学問を融合させ、より特色のある学びを展開する大学も増えています。観光学部の学びは、時代に合わせて今後さらに進化しそうです。
(文=木下昌子)
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