■著名人インタビュー
総合エンターテインメントプロデューサーとして、モーニング娘。など人気アーティストを世に送り出しているつんく♂さんは、8年ほど前から生活の拠点をハワイに移しています。海外にいるからこそ見える日本の教育の姿とは? 広い視野と多彩な経験を持つつんく♂さんに、若い世代とその保護者に伝えたいことを朝日新聞Thinkキャンパスの平岡妙子編集長が聞きました。(写真=近畿大学提供)
>前編 つんく♂さんが語る 声を失ったあとの近畿大“ド派手”入学式 「僕にとっても転機 まだやれることがある」
情報の洪水の中で「右向け右」になる怖さ
――つんく♂さんは10年にわたって近畿大学の入学式をプロデュースしてきました。この10年ほどで学生の変化を感じることがありますか。
近畿大学生に限ったことではありませんが、ほとんどの学生が、スマートフォンやタブレットパソコンを持つようになったでしょう。したがって、ネットから情報を得るのが当たり前になった。結果、飛び交う情報をもとに「みんなが右だって言ってるから右だよ」っていう空気を感じるようになりましたよね。
レストランを「いいね!」の数の多さで決めたり、バイト先や就職先も口コミのいいところから探したり。まあ、それも時代です。でも、情報や口コミばかりに頼らず、情報の洪水に流されないようにすることが大事です。情報はどんどん複雑になってニセモノが混じっていることもあるから、だまされないようにすることも大事です。
そのために重要になってくるのが、「情報」を読み解く能力を身につけることなんだろうなと思います。例えばレストランなら、口コミや評価に頼るだけでなく、写真やオフィシャルサイトの情報も見て、過去にレストランに行ったときの満足度から「自分がレストランに求めること」を考えてみる。あらゆる情報を羅列して、自分の脳で解析するんです。
ネットでの買い物や、アルバイト選びでも同じです。情報や経験を頼りに、自分で何度も解析して考える。ときには失敗もするかもしれませんが、それも情報を読み解く能力につながる大事な経験の一つです。そうやって今のうちに経験を重ねて、解析能力をアップさせておくことで、いざ大事な場面に直面したときに「右向け右」にならないような、「嗅覚」や「第六感」が育まれるのではないでしょうか。

――「いいね!」などは可視化されやすく、みんなと同じ方向に向かうほうがいいと思いがちです。
とはいえ、僕も含めて自分だけが浮いていると不安になるものです。「みんなと一緒に右向け右」は安心しますよね。だからこそ、偏差値の高い大学を目指し、人気(評価)の高い就職先を目指してしまうわけです。
僕もわが子につい「勉強してるか?」「どこの大学を目指すんだ!」と、杓子定規なことを言ってしまいます。本当は偏差値なんかよりも自分なりの将来のイメージをよりどころに前に進めるように、「どうなりたいのか」「どんな人生が楽しそうか」「やりがいを感じるものは何か」といったアドバイスをするのが正しいんだろうなと反省の日々です。
――目標を狭めてしまわないことが大事なのでしょうか。
そうです。よく「具体的にイメージしなさい!」というような言葉を聞きますが、若いほど目標はふんわりとしていていいと思うんです。イメージする夢や目標は大きいほうがいい。大きいほど途中の失敗は失敗でなく、誤差の範囲と考えることができます。
――失敗が「誤差の範囲」になるとはどういうことですか。
例えば、旅の目的が「ニューヨークに行くこと」くらいふんわりとしていれば、移動手段はなんでもいいじゃないですか。船でも飛行機でもいいし、メインランドにたどりついたあとはバスでも車移動でもいい。ぜんぶ正解です。乗ろうと思っていた船に乗り遅れても、結果的にニューヨークにつけばいいので、それは誤差にすぎません。
でも、目的を「飛行機の直行便でニューヨークに行く」と狭めていたら、それ以外の交通手段は全て失敗になってしまいます。旅を例にすること自体が狭い発想かもしれませんが、人生をどう楽しむかなんて、千差万別。世間で何がはやってようが、気にしちゃいけないんでしょうね。
――途中はあくまで通過点だと思えば、いろいろなことが楽しめますね。
だから、情報を解析する経験値が必要なんです。右向け右になって選択肢を狭めないための、ね。

世界に出るのを恐れないで
――つんく♂さんは現在、生活の拠点をハワイに置いています。海外から日本の教育を見ると、どう感じますか。
日本の学生たちはすごく優秀だと実感します。ひらがな、カタカナ、漢字が読めて、九九ができて四則計算ができる。国際的にみて、その水準は相当高いと思います。僕もそのうちの一人でしたが、そんなことをさも知らず、自分は普通の水準だと思っているところがもったいないですね。「謙虚な日本人」はとてもいいことですが、時に裏目に出る。どこで「日本人は普通」だと吹き込まれるのか、謎です(笑)。
――英語ができなくても大丈夫でしょうか。
若いんだし、言語は必要に迫られたら現地でどんどん使えるようになるはず。それに昨今は翻訳機もすごく進化しているので、何とかなるところもある。僕もハワイで駆使しています。
一方で、ハワイにいて感じるのは、英語も完璧じゃなくていいということ。ハワイには世界中のいろんな国から人が集まってきて、共通語である英語で会話していますが、なまりがあるなど英語が完璧じゃない人のほうが多いんじゃないかな。だから、それぞれがとてもシンプルな英語を使うように心がけているようにも思います。日本だけが例外というわけではないんです。
――英語が苦手だからといって、世界に出ていくのを恐れるな、ということですね。
英語が苦手ということと、世界を目指すという志は別次元です。ならば日本人は日本人にしかない強みを生かせたら、勝てるんじゃないかと思います。
――ハワイにいると、それを実感しますか。
時間に正確とか、きちょうめんとか、そういうのは日本では当たり前ですが、実は相当なアピールポイントです。ハワイは自由でのんびりしているぶん、いろんな面でふんわりしています。それに慣れると、日本に帰ったときにインターネットで注文した荷物が予定通りにくることに感動するくらいです。もう少しふんわりしてもいい気はしますが。
――日本人は余裕がないのでしょうか。
日本は便利すぎて、1日にあれこれやれる量が増えすぎているのかもしれませんね。

失敗を面白がると、新しいものが生まれる
――そう考えると、時間のある高校時代や大学時代のうちに、今を楽しむことが大切ですね。楽しむことで、独自のひらめきも生まれるのではないでしょうか。
失敗を面白がることも大事です。音楽をつくるときもそうですが、最初に「こういうメロディーにしよう」とイメージしてギターを演奏しますよね。でも、時にギターのコードを間違えてしまう。それを「間違えた」と感じるか、「あれ? このコードも案外、面白い」ととるかで、出来上がりが違ってきます。
どちらが正解かは別として、学生時代はこういう発想で取り組んでいかないと、一度の失敗=人生丸ごと失敗したように感じてしまうんじゃないかと思いますね。いくらでも軌道修正できる。失敗も遠回りも楽しんでほしいと思います。
――大学受験を目指す高校生に、つんく♂さんから伝えたいことはありますか。
大学卒業後の自分をイメージしてみて、ってことですね。高校生だった僕が同じことを言われたら「将来をイメージするなんて絶対無理」と思ったでしょう。実際にほとんどの高校生も「そんなのまだ無理」って思うはずです。だからこそ、イメージできた人が抜きん出るんだと思います。
目標や夢はまた変わってもいいとして、でも一度イメージを設定しておくと、「そのために留学すべきか」とか「料理を勉強しよう」とか「運動に集中しよう」とか、やるべきことも見えてくるように思うんです。
贅沢(ぜいたく)な話ですが、学生のうちに少しでも世界のいろんな場所に旅行もできるといいですよね。自分の目で世界を見る。素晴らしい経験です。
――完全養殖の近大マグロも世界ブランドになりましたからね。最後に高校生の保護者にもメッセージをお願いします。
わが子もまさに高校生ですが、何事もすんなりまっすぐ進んでほしいと願っています。とはいえ実際には反抗もするし、大人が見て明らかに間違った判断だなということをチョイスすることもある。これは自分にも言い聞かせたい話ですが、親はそれをまっすぐ否定するのではなく、ちょっと我慢して見守ることも大事なんだと思います。
だって、自分もそういう判断ミスを学生時代にいっぱいしたし(笑)、失敗から始まることもある。だからそういう場面でこそ、否定せずに一緒に悩んであげられたらいいんじゃないでしょうか。それでも口出ししちゃうのが親ですけどね。これまた反省の日々です。一緒に大いに悩みましょう。
――心に響く言葉の数々をありがとうございました。

つんく♂/総合エンターテインメントプロデューサー。1968年大阪府出身。近畿大学在学中にロックバンド「シャ乱Q」を結成し、92年にメジャーデビュー。現在は音楽家として作詞作曲を手がけ、モーニング娘。をはじめとする数多くのアーティストをプロデュースしている。
(文=朝日新聞Thinkキャンパス編集部)

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