2022年に幼稚園教諭の免許と保育士の資格を取得したタレントのつるの剛士さん。いまは大学生となってこども心理学部で学んでいますが、私生活では、大学生から小学生まで5人の子を持つ父親でもあります。思春期の子どもとの関わり方や、両親から学んだ子育て術などについて、朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長が聞きました。
>【前編】つるの剛士さん大学3年生に編入 ロケ先で試験を受けることも 「ホイクメン」の次の目標は?
――一番上のお子さんは大学生、末のお子さんは小学生だそうですね。
はい、そうです。5人の子どもたちは、好きなものも性格もそれぞれ違うので、奥さんもぼくも子育てを通じていろいろな経験をしましたし、子どもたちと一緒に成長させてもらいました。
そもそも勉強を始めようと思ったきっかけは、子どもの勉強に関してなんです。長男が通っていた学校は小学校から高校までの一貫校で、小学校から中学校に進学するときに試験があったんです。勉強しなければ、試験に合格できないのですが、息子が勉強したくないと言ったことがありました。学生時代からまったく勉強をしてこなかったぼくが長男に「勉強しなさい」と言うのは変な話だと思って、ひとまずぼくが塾に入ってみることにしました。
ごく短い間ですが、息子が塾に行きたくないのであれば、「パパが通ってみるね」と言って入ってみたんです。勉強は想像以上に難しかったのですが、それ以上に楽しかったんです。それまではロケで地方へ行って、遺跡やお城を見ても「何となくすごい」ということしかわからなかったのが、日本史を勉強してからは「ここがあの場所か」と見え方が変わりました。
「芸能界に入りたい」 夢を追いかける自分を見守ってくれた父
――それまで気づかなかった勉強の面白さを、大人になって知ったのですね。
勉強って学びたいと思ったときにやるものなんだな、とも感じました。人生での経験はすべてが学びです。ぼくも仕事を通じて大切なことをたくさん学びました。そういう社会での学びに、学校で勉強する知識が加わると、自分の世界がより立体的になります。現在、ぼくはこども心理学部に通う大学3年生ですが、大人になってからでも、本当に学びたいと思うことに出合えたことは、幸せだと思います。
――勉強に興味がなかった高校時代、ご両親からは何か言われましたか。
父は銀行員をしていましたが、ぼくに「勉強しろ」とか「大学へ行け」とは、一度も言いませんでした。とにかく「自分のやりたいことをやれ。その代わり責任も自分で取れよ」って。ただ成績があまりにもひどかったので、あるとき父の部屋に呼ばれて、「お前、将来どうするんだ?」と聞かれたことがあります。「芸能界に入りたい。今はバイトをして、養成所に行くための費用をためたい」と話したら、「あぁ、そうなのか」と受け入れてくれました。
一方、母は芸能界入りに大反対でしたね。でも、ぼくは夢をあきらめきれなかったし、勉強する時間があるなら、オーディションを受けたかったんです。同級生が大学を卒業するまでに芸能界に入れなかったら、あきらめて当時のバイト先だったピザ屋に就職しようと思っていました。とにかく自分の夢を追いかけることに夢中でした。
反抗期の子どもの気持ちは、わからなくて当然
――懐の深いお父様ですね。でも、お母様の気持ちもよくわかります。
ぼくもときどき考えますよ。例えば、自分の子どもが「芸能界に入りたい」と言ったら、何と返すだろうって。自分と同じ仕事になるわけだから、当時のぼくの父とは状況は違いますが、賛成できるのかなと思いますね。
勉強に限らず、思春期の子どもとの接し方に悩む親御さんは多いですね。ぼくもいろいろな人から相談を受けますが、そもそも思春期の子どもたちの気持ちなんて、親にわかるわけないと思っています。だって、子どもたち本人もわかっていないのだから。彼ら自身が答えを見つけていない以上、親はわからなくて当然です。
親は「うちの子だったら、こんなことを考えるだろう」とか「こんな道に進むだろう」とか、それまでの子育ての延長線上に勝手に線路を敷いているから、思春期の子どもがそこからポンとはみ出すと、戸惑うんですよ。そして「子どもの考えていることがわからない」「今まであんなにかわいかったのに、うちの子は変わってしまった」となってしまうんです。思春期は、子どもが人生について考え、線路を敷き始める時期ですから、そうなるのが当たり前。親の思惑通りの線路を走り続ける子なんて、いませんよ。
ぼくの子育てのモットーは、「心配するより信頼する」です。父はこの言葉を、身をもって教えてくれた人です。心配はしていたと思いますが、ぼくが自分で敷いた線路の上を走れるように、背中を押してくれました。もう30年も前のことですが、今もあのときのことははっきりと覚えているし、心から感謝しています。だから自分の子どもたちにも同じようにしてあげたいと思うんですよね。
子どもへの意識を分散させることも大切
――子どもの好きな道に進んでほしいと思いつつ、失敗させたくないという親心からつい口を出してしまう人も多いと思います。
ぼくは妹が3人いる4人きょうだいの長男なので、親の意識がぼくにそこまで集中していなかったというのも大きいでしょうね。我が家もそうですが、子どもがたくさんいると、親の心配もいい具合に分散されます。でも、お子さんが1人とか2人というご家庭も多いでしょうから、そういう場合は仕事でも勉強でも趣味でもいいので、親御さん自身が夢中になれることを見つけて、子どもに向いている意識をそちらに少し分散するのもいい方法だと思います。親が頑張っていたり、楽しんでいたりする背中を見せることも、大事な子育てです。
それからもう一つ、ぼくが両親から学んだ子育てのコツは、「根拠のない自信」です。ぼくが小さい頃、両親がぼくを励ますときによく言ったのが、「パパとママの子どもだから大丈夫」という言葉です。何がどう大丈夫なのかわかりませんし、根拠なんてどこにもないでしょ(笑)。でも、ずっと言われ続けていると、確かにそうかも、という気持ちになるんです。
親になった今、ぼくもよく同じ言葉で子どもたちを励ますのですが、言うときは毎回緊張しますね。根拠のない言葉を信じてもらうためには、自分が親としても一人の人間としても、ちゃんとしていなければなりませんから。そういう意味で「パパとママの子どもだから大丈夫」というのは、子どもを励ます言葉であると同時に、自分自身を奮い立たせる言葉にもなっています。
人生は「検索」より「探索」 他人の出した答えに頼らない
――大学の入学式で、つるのさんも新入生でありながら、祝辞を述べる機会があったそうですね。どんなことをいまどきの学生たちに話したのですか。
短大と大学の合同入学式で、8千人ほどの学生さんがいました。人生で大切なのは、「検索」より「探索」だとぼくは思っています。今は何か疑問に思っても、パソコンやスマホを使って検索すれば、簡単に答えは見つかります。でも、その答えは自分で出したものじゃなくて、結局、他人が出した答えなんです。傷ついてもしくじっても、自分で探索して切り開けば、すべてが自分の財産になります。検索だけしてわかったような気になるのは、すごくもったいないことです。いろんな体験をしてもらいたいと伝えました。
――大学卒業後のプランは決めていますか。
子どもたちの明るい未来づくりに携わりたいという思いは漠然と持っていますが、まだ具体的な計画はありません。というか、細かい先々のプランはあえて決めないようにしています。
クイズ番組出演もアイドルも歌手としての活動も、ぼくにとってはまったく予想外のことでした。でも、予期せずに訪れた機会をうまくつかむことができたのは、テレビドラマのエキストラをやったり、劇団やバンド活動をやったり、いろいろなことにチャレンジして、スキルを身に付けていたからだと思うんです。ぼくはサーフィンが趣味ですが、自分に合ったサーフボードを準備しておけば、いい波が来たときにすぐ向かっていくことができます。それと同じで、将来のチャンスに備えて知識や技術を蓄えておけば、「これだ」と思えるものに出合ったとき、迷わずそこに飛び込めます。ぼくが短大や大学、保育の現場で学んだことを生かして、次はどんな波に乗れるのか、今からとても楽しみです。
つるの剛士(つるの・たけし)/1975年、福岡県生まれ。22歳のときに「ウルトラマンダイナ」の主人公、アスカ・シン役に抜擢され、人気者に。2007年から出演した「クイズ!ヘキサゴンⅡ」では「おバカタレント」としてブレークし、同番組から生まれたアイドルユニット「羞恥心」のリーダーとして活動。20年4月、短期大学保育学科通信教育課程に入学し、22年3月に卒業。幼稚園教諭二種免許と保育士資格を取得した。23年4月に系列の4年制大学のこども心理学部の通信教育課程3年に編入。大学生の息子を筆頭に、2男3女の父。趣味は将棋、釣り、サーフィンなど。
(構成=木下昌子、写真=篠塚ようこ)

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