5人の子どもがいる「イクメン」パパとしても活躍しているタレントのつるの剛士さんは、2023年4月から東京未来大学こども心理学部の大学生になりました。22年3月に短期大学保育学科通信教育課程を卒業し、幼稚園教諭の免許と保育士の資格を取得しています。バラエティー番組への出演に加え、俳優、歌手としての活動も多忙を極める中、学びを続けているのはどうしてでしょうか。40代半ばで初めて経験した短大での学びや、4年制大学通信教育課程に編入して勉強を続ける現在の思いを、朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長が聞きました。
短大卒業後、こども心理学部3年生に編入
――4月から東京未来大学の通信教育課程で学んでいるということですが、1年前の3月に短大を卒業されたんですね。
実は短大卒業後、燃え尽き症候群のようになってしまったんです。あんなに苦労した課題も試験もなくなったら寂しくなってしまいました。だったら子どもに関することをもう少し学ぼうかなと思い、短大と同じ系列の4年制大学に編入することを決めました。今はこども心理学部の3年生になりました。
――そもそも短大進学を決めた理由は何だったのでしょうか。
40代半ばに差しかかったあたりから、「50歳からの人生」についてよく考えるようになりました。振り返れば、22歳でウルトラマンという子どもたちのヒーローを演じ、結婚して父親になってからはNHKで子育て番組の司会をさせてもらったり、「イクメン」としてさまざまなイベントに呼んでいただいたりしてきました。これからも自分は、子どもに関わることを仕事としてやっていきたいなと思っていました。
それならば、どこかで専門的な知識を身につけておいたほうがいいだろう、と思ったのです。最初は独学で保育士の資格を取ろうと思ったのですが、よくよく調べたら、ぼくには保育士試験の受験資格がありませんでした。高卒で保育士試験を受けるためには、保育士養成学校を卒業するか、児童福祉施設での勤務経験、など一定の要件があるのですが、ぼくはそれを満たしていなかったのです。
がっかりして、ツイッター(当時)で「受験資格がなくて残念」とつぶやいたら、たくさんの方からお叱りを受けました。「そう簡単に資格が取れると思うな」って。それならまずは受験資格を得るところから始めようと、短期大学保育学科の通信教育課程に入学したのが20年4月でした。でも入学した途端、コロナ禍が始まってしまいました。
40代半ばからの「学び始め」 キャンパスライフも満喫
―― 卒業したのが22年3月ですから、つるのさんの学び直しの日々は、ちょうどコロナ禍と重なりますね。
ぼくの場合は「学び始め」ですね(笑)。確かにコロナ禍は予想外でしたが、仕事でのイベントも減って、学びに集中することが出来てちょうど良かったです。スクーリングの日はキャンパスに行って、同級生と顔を合わせて勉強することもできました。キャンパスライフなんて初めてですから、学生証を持って電車で通学する経験自体が新鮮でした。同級生は大半が女性で、高校を卒業したばかりの子もいれば子どもを持つお母さんもいました。「つるちゃ〜ん、ここにお菓子があるからおいでよ」なんて言われて一緒におしゃべりしたりして、とても楽しかったです。
――通信制はモチベーションの維持が難しいという声も聞きます。
次から次へと試験があってものすごくハードでしたが、勉強漬けの日々すら新鮮で、特にモチベーションが下がることはありませんでした。父親として5人の子どもの育児に関わってきたぼくでも知らないことをたくさん学べましたし、日々の子育ての中で感覚的に理解していたことが、一つの知識としてつながっていくような感覚もありました。
――コロナ禍でも、幼稚園での教育実習は行われたのですね。
それは本当についていたと思います。でもむちゃくちゃ大変でした。4週間の実習中、一番苦労したのが教育実習日誌です。毎日、指導案を書いて先生に提出し、OKをもらえたところでその日が終わるのですが、これがなかなか書けなくて。家に持ち帰って夜中までかかって書き上げ、また翌日、新しい指導案を書くという繰り返しがとにかくつらかったです。
それに子育ての経験はあっても、自分の子どもの面倒をみるのと、よその家庭のお子さんを預かるのは、わけが違います。先生の行動一つで、子どもの未来が変わることだってありますから、常に大きな責任を感じながら実習に取り組んでいました。
――実習の最終日は号泣したそうですね。
絶対に泣かないって決めていたんですけどね。それでも子どもたちや先生方の顔を見た途端、それまでの日々を思い出して泣けて泣けて……。あまりに初めから泣いているもんだから、保護者の方から「つるの先生、泣くのが早い」って突っ込まれました(笑)。今もあのときの日誌は、宝物として取ってあります。
イクメンからホイクメンに 「先生」と呼ばれるとドキッ
――22年3月に短大を卒業して幼稚園教諭二種免許を取得し、22年末には保育士試験にも合格しました。目標を達成して、自分の中で気持ちの変化はありましたか。
「イクメン」が進化して、「ホイクメン」になりましたからね(笑)。自分でも、びっくりしましたよ。「おバカタレント」としてテレビに出演していたぼくが、2年ちょっとで国家資格を取ったのですから、人は変われるんです。今は幼稚園でも非常勤で仕事をしていますが、「つるの先生」と呼ばれると、ドキッとします。
自分の子育ての視点にも、変化がありました。例えば、子どもが学校から図画工作の作品を持って帰ったときも、それまでは「上手だね」とか「こんなのが作れるなんて大きくなったね」という感じで見ていたのが、「今回の工作で学校がこの素材を使わせたのは、きっとこういう意図だろう」とか「この課題のテーマは色使いだな」とか、授業の背後にある先生方の狙いを見るようになりました。
――親の視点に、教育者としての視点が加わったということですね。
そしてもう一つ、実際に資格を手にして感じたのは、保育士や幼稚園の先生の仕事について、もっと世の中の人たちに知ってもらいたいということです。子どもたちと遊んでいるときも、歌を歌っているときも、先生方はいろいろなことを考えています。子ども一人ひとりの性格、成長、安全面への配慮など、あらゆる方向にアンテナを張って、毎日たくさんの子どもと向き合うのは、本当に大変なことです。ぼくは仕事柄、自分の意見を発信しやすい立場にあるので、幼児教育に携わる先生方の思いや苦労も、もっと世の中に伝えていきたいですね。
ロケ先で試験を受ける多忙な大学生活 次の目標は認定心理士
――そして今は4年制大学のこども心理学部で心理学という新たな分野の学びに挑戦中です。大学生としての毎日は、いかがですか。
心理学の勉強もとても奥が深くて、面白いです。覚えることの量が膨大だし、ロケの仕事も多い中で、勉強と仕事の両立には短大時代より苦戦しています。先日は釣り番組で丸一日、船の上で過ごした後、港に着いて自宅に帰るまでの間にWi-Fiをつなぎ、試験を受けました(笑)。そこまでしないと間に合いません。すごく苦労しましたが、このときのテストはAをもらえたので、頑張った甲斐がありました。
最近はよく、生配信をしながらファンの方たちと一緒に勉強しています。ぼくがテキストを読んで覚えたことを、ファンの方たちに教えるという感じですね。インプットしながらアウトプットするので、頭に入りやすいんです。ファンクラブ専用のサイトなので、みなさんがチャットで温かい言葉をかけてくださるのも、ありがたいです。
――次の目標は、何でしょうか。
今は、認定心理士の資格取得を目指しています。小学校などで子どもたちのメンタルケアに当たるスクールカウンセラーになるにはこの資格があるといいと聞き、挑戦してみようと思いました。
今年は仕事の都合で通学が難しそうなので、まずはテキストを一通り終えて、来年一気にスクーリングをこなそうと計画しています。遊びの誘いも断ってばかりで、「またガリ勉?」なんて周りから冷やかされますが、今のところ試験でも良い点数が取れているので、それをモチベーションに頑張ります。
>【後編】大学生となって学び直し中のつるの剛士さん 子育てのモットーは「心配するより信頼する」
つるの剛士(つるの・たけし)/1975年、福岡県生まれ。22歳のときに「ウルトラマンダイナ」の主人公、アスカ・シン役に抜擢され、人気者に。2007年から出演した「クイズ!ヘキサゴンⅡ」では「おバカタレント」 としてブレークし、同番組から生まれたアイドルユニット「羞恥心」のリーダーとして活動。20年4月、短期大学保育学科通信教育課程に入学し、22年3月に卒業。幼稚園教諭二種免許と保育士資格を取得した。23年4月に系列の4年制大学のこども心理学部通信教育課程3年に編入。大学生の息子を筆頭に、2男3女の父。趣味は将棋、釣り、サーフィンなど。
(構成=木下昌子、写真=篠塚ようこ)

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