■特集:保護者の悩み・スマホは受験の味方?
スマホの使用時間と学力は大きな関係があるという衝撃の調査結果を紹介した前編に続き、スマホに時間や学力を奪われないためのヒントを、「脳トレ」シリーズの監修者で脳機能研究の第一人者でもある東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授に聞きました。大学受験はもちろん、入学後や卒業後に目標をかなえるためにも、ぜひ親子で話題にしてください。(写真=Getty Images)
学力に悪影響を及ぼす、スマホの使いすぎ
高校生のスマホ利用率は97.9%にのぼり、今やスマホは高校生にとって、持っているのが当たり前のものになっています(内閣府「令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査報告書」)。ところが、東北大学加齢医学研究所の調査研究によると、スマホの使いすぎは、学力に悪影響を及ぼす可能性があることがわかっています。では、スマホとどう付き合っていくのが正解なのでしょうか。
スマホに振り回されず、スマホを使いこなせ
この問いに対して、川島教授は「正解はありません」と言います。
「スマホは便利なものであることも事実ですから、否定するつもりはないし、私自身も電車の時刻を調べる際などに活用しています。私の研究室の学生たちも、使用時間をモニタリングしながら、それなりに使っているようです。つまり、人それぞれでいいのです。ただし、使いすぎると学力や脳に悪影響が出ることがデータに表れているし、スマホにはアルコールよりも麻薬に近い依存性もあるので、そのことを知らないままズルズルとスマホを使い続けたり、お子さんに使わせたりすることは賛成できません」
「酒は飲んでも飲まれるな」という格言がありますが、川島教授が目指すスマホとの付き合い方もそれに似ています。
「スマホの良しあしをきちんと理解したうえで、自分なりに道具として使いこなしてほしいのです。悪影響を知ってもなお、『スマホをたくさん使う生活が幸せ』と思うのなら、それも一つの選択でしょう。ただし、調査したわけではありませんが、学校や塾の先生たちの経験則では、受験期にスマホの使用を制限すると、偏差値が10は上がるくらいの良い変化があるようです」
目指すは1日1時間未満にセーブ
スマホを制限したい場合、目標にしたいのは、小中学生の調査(前編参照)でスマホによる学力への悪影響が少なかった「1日1時間未満」です。
「1日の行動を書き出してみるだけでも、スマホにどれだけ振り回されているかがわかり、意識が変わるのではないでしょうか。そうしたら、アプリによっては制限をかけるなど、自分の弱点やニーズに合わせて工夫するといいでしょう」
アプリにもいろいろあるので、どれをどう制限すべきか悩みますが、川島教授らによるいくつかの調査や実験が参考になりそうです。
例えば、スマホと紙の辞書で単語を調べる際の脳活動を比べた実験結果があります(下図)。それぞれ2分間ずつ、少し難しい単語を調べられるだけ調べたところ、スマホは6つ、辞書は5つと、スマホのほうが素早く情報を得られました。ところが、脳(前頭前野)の活動は逆でした。グラフのように、スマホで調べた場合は始める前の約30秒間の安静時、つまりボーッとしているときとあまり変化がありません。これに対して紙の辞書で調べた場合は、脳が活発に働いているうえに、調べた単語の数だけ活動の高まりが見られます。調べた単語を覚えているかどうかのテストでも、やはり辞書で調べたほうに軍配が上がりました。

スマホを近くに置いて勉強するだけで成績低下
インスタントメッセージの通知も要注意です。大人でも、メッセージの着信音が聞こえてきただけで、「誰からだろう」「すぐに返信しなくては」などと気になって、そわそわしてしまう人は少なくないでしょう。川島教授が大学生21人を対象に行った実験では、勉強中に頻繁にアラーム音が鳴っても集中力にはあまり影響がなかったものの、インスタントメッセージの通知音が鳴ると集中力の低下が見られました。
さらに、小中学生を対象にした調査でも、近くにスマホを置いたまま、“ながら勉強”している子の学力テストの成績が、していない子よりも低いというデータや、インスタントメッセージの使用時間が長い小中学生ほど、テストの成績が低いという調査結果もあります。

スマホの使い方を考えることは脳が発達するチャンス
「学力を伸ばしたいなら、勉強中はスマホの電源やメッセージ通知をオフにすることが大前提でしょう。それだけで足りない人は、スマホを見えないところに遠ざけておく必要もあるかもしれません」
一方で、覚えられない英単語だけを抽出して出題してもらえるなど、スマホにはデジタルならではの便利な機能もあります。そのため、役に立つ機能には力を借りつつ、“ながら勉強”にならないように心がける、ズルズルと使ってしまうようなアプリがあるなら制限する、といった自分なりの工夫が求められます。
「自分を律するということは、実は脳にすごくいい刺激になります。それを中高生の間に経験しておくことは、スマホを使いこなせるようになるだけでなく、思考やコミュニケーションをつかさどる前頭前野が発達するチャンスにもなると思います。また、スマホがなくても困らないという経験を一度でもできていれば、『スマホの使いすぎで、そろそろまずいな』と気づいたときに、自分でブレーキを踏めるようになると思います」
スマホとの付き合いは、大学受験時だけでなく、その先もずっと続いていきます。大学受験のタイミングで一度立ち止まり、スマホとの付き合い方を考えてみるといいかもしれません。
>>前編 スマホ漬けは学力低下につながる 脳に及ぼす悪影響について脳トレ・川島教授がデータで解説
川島 隆太(かわしま・りゅうた)/東北大学加齢医学研究所教授。脳活動の仕組みを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能研究の第一人者として知られる。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者でもある。主な著書に『スマホが学力を破壊する』(集英社)など。
(文=竹倉玲子)

記事のご感想
記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします
今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。
関連記事
注目コンテンツ
-
すべての学生に領域横断的な学びを提供する――西南学院大学が導入する二つの新カリキュラム(Global Liberal Arts)
現代はかつてないほど変動的で不確実、複雑、曖昧な時代といわれる。混沌としたこの社会に、大学はどのような若い力を送り出...
2025/04/08
PR
-
「対話」「交流」の伝統を重視した大学運営を。創価大学の新学長に就任した鈴木美華さんに聞く
2026年4月、「経済経営学部ビジネス学科」を開設、理工学部に「グリーンテクノロジー学科」と「生命理工学科」(いずれ...
2025/04/04
PR
-
多様性、公平性、包摂性を重視し、グローバル大学へと加速する法政大学
2016年にダイバーシティ(多様性)の実現に向けて積極的に取り組んでいく「ダイバーシティ宣言」を発表した法政大学。そ...
2025/03/31
PR
入試
-
「内々定が9割」…理系はやはり就活に有利? 専門家「女子は特に確保したい人材」
■【特集:文系、理系…どっち?「文理選択」を考える】 景気や市場動向に左右されやすい就職活動。不況時は理系のほうが強...
2023/07/15
お悩み
-
反抗期の子ども、「うざっ!」と言われたら…人気スタイリストが語る、大学受験サポート<後編>
■先輩パパ・ママの受験体験記 >>【体験談】カリスマスタイリスト・大草直子さん 大学受験直前の息子に書い...
2024/05/23
-
「反抗期の息子、進路の話ができない…」 受験生の親ができることは?
子どもが高校生になると、大学で何を学びたいのか、将来どんな方向を目指すのか、親としては進路が気になります。しかし、多...
2023/05/15
調べて!編集部
-
大学の入試・広報担当者の本音座談会【前編】 「子どもの自己推薦書を添削して」と親から相談
■連載:大学職員座談会 大学入試に関して、各大学には保護者からさまざまな問い合わせが寄せられます。大学入試が保護者の...
2024/12/16
-
関西学院大学
【関西学院大学】2025年4月『KSC C-Village』
学生寮×インキュベーション施設×商業施設 起業家の育成や地域課題の解決に取り組む拠点! 起業支援や地域連携を促進!新...
2025/02/14
-
信州大学
日本発!「心地よさ」の世界基準づくりに挑む(信州大学 繊維学部 先進繊維・感性工学科 先進繊維工学コース 金井博幸教授)
心地よさ。服なら着心地、椅子なら座り心地といったように、私たちは常に「心地よさ」を求めています。人は何を基準に、美し...
2023/05/15
おすすめ動画
大学発信の動画を紹介します。
大学一覧
NEWS
教育最新ニュース
- 教育 - 朝日新聞 2025年 04月 25日
- 全小中学校で午後は「探究」の時間 視察集まる「シブヤ未来科」 2025年 04月 25日
- 「学生の街」に驚き 京都ノートルダム女子大 学生募集停止へ 2025年 04月 25日
- 京都ノートルダム女子大、29年に閉学へ 来年度から学生募集を停止 2025年 04月 25日
- 大学付属小で授業264時間不足 担任、国数社など削り総合学習に 2025年 04月 25日
Powered by 朝日新聞