「受験期のスマホ制限、偏差値に影響」 脳トレ・川島教授が思う学力との関係

2023/11/15

特集:保護者の悩み・スマホは受験の味方?

スマホの使用時間と学力は大きな関係があるという衝撃の調査結果を紹介した前編に続き、スマホに時間や学力を奪われないためのヒントを、「脳トレ」シリーズの監修者で脳機能研究の第一人者でもある東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授に聞きました。大学受験はもちろん、入学後や卒業後に目標をかなえるためにも、ぜひ親子で話題にしてください。(写真=Getty Images)

学力に悪影響を及ぼす、スマホの使いすぎ

高校生のスマホ利用率は97.9%にのぼり、今やスマホは高校生にとって、持っているのが当たり前のものになっています(内閣府「令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査報告書」)。ところが、東北大学加齢医学研究所の調査研究によると、スマホの使いすぎは、学力に悪影響を及ぼす可能性があることがわかっています。では、スマホとどう付き合っていくのが正解なのでしょうか。

スマホに振り回されず、スマホを使いこなせ

この問いに対して、川島教授は「正解はありません」と言います。

「スマホは便利なものであることも事実ですから、否定するつもりはないし、私自身も電車の時刻を調べる際などに活用しています。私の研究室の学生たちも、使用時間をモニタリングしながら、それなりに使っているようです。つまり、人それぞれでいいのです。ただし、使いすぎると学力や脳に悪影響が出ることがデータに表れているし、スマホにはアルコールよりも麻薬に近い依存性もあるので、そのことを知らないままズルズルとスマホを使い続けたり、お子さんに使わせたりすることは賛成できません」

「酒は飲んでも飲まれるな」という格言がありますが、川島教授が目指すスマホとの付き合い方もそれに似ています。

「スマホの良しあしをきちんと理解したうえで、自分なりに道具として使いこなしてほしいのです。悪影響を知ってもなお、『スマホをたくさん使う生活が幸せ』と思うのなら、それも一つの選択でしょう。ただし、調査したわけではありませんが、学校や塾の先生たちの経験則では、受験期にスマホの使用を制限すると、偏差値が10は上がるくらいの良い変化があるようです

目指すは1日1時間未満にセーブ

スマホを制限したい場合、目標にしたいのは、小中学生の調査(前編参照)でスマホによる学力への悪影響が少なかった「1日1時間未満」です。

「1日の行動を書き出してみるだけでも、スマホにどれだけ振り回されているかがわかり、意識が変わるのではないでしょうか。そうしたら、アプリによっては制限をかけるなど、自分の弱点やニーズに合わせて工夫するといいでしょう」

アプリにもいろいろあるので、どれをどう制限すべきか悩みますが、川島教授らによるいくつかの調査や実験が参考になりそうです。

例えば、スマホと紙の辞書で単語を調べる際の脳活動を比べた実験結果があります(下図)。それぞれ2分間ずつ、少し難しい単語を調べられるだけ調べたところ、スマホは6つ、辞書は5つと、スマホのほうが素早く情報を得られました。ところが、脳(前頭前野)の活動は逆でした。グラフのように、スマホで調べた場合は始める前の約30秒間の安静時、つまりボーッとしているときとあまり変化がありません。これに対して紙の辞書で調べた場合は、脳が活発に働いているうえに、調べた単語の数だけ活動の高まりが見られます。調べた単語を覚えているかどうかのテストでも、やはり辞書で調べたほうに軍配が上がりました。

(東北大学加齢医学研究所提供のデータをもとに編集部で作成)

スマホを近くに置いて勉強するだけで成績低下

インスタントメッセージの通知も要注意です。大人でも、メッセージの着信音が聞こえてきただけで、「誰からだろう」「すぐに返信しなくては」などと気になって、そわそわしてしまう人は少なくないでしょう。川島教授が大学生21人を対象に行った実験では、勉強中に頻繁にアラーム音が鳴っても集中力にはあまり影響がなかったものの、インスタントメッセージの通知音が鳴ると集中力の低下が見られました。

さらに、小中学生を対象にした調査でも、近くにスマホを置いたまま、“ながら勉強”している子の学力テストの成績が、していない子よりも低いというデータや、インスタントメッセージの使用時間が長い小中学生ほど、テストの成績が低いという調査結果もあります。

(東北大学加齢医学研究所提供のデータをもとに編集部で作成)

スマホの使い方を考えることは脳が発達するチャンス

学力を伸ばしたいなら、勉強中はスマホの電源やメッセージ通知をオフにすることが大前提でしょう。それだけで足りない人は、スマホを見えないところに遠ざけておく必要もあるかもしれません

一方で、覚えられない英単語だけを抽出して出題してもらえるなど、スマホにはデジタルならではの便利な機能もあります。そのため、役に立つ機能には力を借りつつ、“ながら勉強”にならないように心がける、ズルズルと使ってしまうようなアプリがあるなら制限する、といった自分なりの工夫が求められます。

自分を律するということは、実は脳にすごくいい刺激になります。それを中高生の間に経験しておくことは、スマホを使いこなせるようになるだけでなく、思考やコミュニケーションをつかさどる前頭前野が発達するチャンスにもなると思います。また、スマホがなくても困らないという経験を一度でもできていれば、『スマホの使いすぎで、そろそろまずいな』と気づいたときに、自分でブレーキを踏めるようになると思います」

スマホとの付き合いは、大学受験時だけでなく、その先もずっと続いていきます。大学受験のタイミングで一度立ち止まり、スマホとの付き合い方を考えてみるといいかもしれません。

>>前編 スマホ漬けは学力低下につながる 脳に及ぼす悪影響について脳トレ・川島教授がデータで解説

川島 隆太(かわしま・りゅうた)/東北大学加齢医学研究所教授。脳活動の仕組みを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能研究の第一人者として知られる。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者でもある。主な著書に『スマホが学力を破壊する』(集英社)など。

(文=竹倉玲子)

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