「そんなの関係ねぇ!」で2000年代後半に一世を風靡した、お笑い芸人の小島よしおさん。現在はバラエティー番組などの出演に加え、YouTubeチャンネルで小学生向けに動画を配信して注目を集めています。仕事を通じて学んだ「子どもの心をつかむコツ」や、キャラ作りに悩んだ若手時代の話を、平岡妙子編集長が聞きました。
――YouTube「おっぱっぴー小学校」で、子ども向けに算数を扱う動画を配信し始めたきっかけは、何だったのでしょうか。
コロナ禍で小学校が休校になって、このままだと子どもたちの学力が下がってしまう、一緒になんとかしようよ、って知り合いの放送作家が声をかけてくれました。。子ども向けのお笑いライブは2011年ごろからやっていましたし、コロナの影響でほとんどの仕事がキャンセルになり、時間もあるし、やってみましょうか、と始めました。
――現在のチャンネル登録者数は14万人。すごい人気ですね。
正直、ここまでの反響は、予想していませんでした。「そんなの関係ねぇ!」でテレビに出始めたころのぼくは、PTAにとっても親御さんにとっても「子どもにまねしてほしくない芸人」の筆頭とも言える存在でしたから。 人生何が起きるか、本当にわかりません。
――でも子どもたちがまねしたがったということは、それだけ子どもたちの心をつかんだということですよね。
初めは子どもを意識したネタ作りは、特にしていなかったんです。「そんなの関係ねぇ!」が子どもたちにウケて、イベントに子どもが来てくれるようになって、そこから何年かしてですね。ぼく自身もどうやったら子どもたちが楽しんでくれるか、盛り上がってくれるだろうか、考えるようになりました。
――子どもたちの心をつかむコツを、ぜひ教えていただきたいです。
まずは、自分をさらけ出すことじゃないでしょうか。子どもは大人の感情を読み取るのがうまくて、手を抜いたり、取りつくろったりする相手には、心を開きません。とにかく、カッコつけずに自分をさらけ出す。ぼく自身、海パンが衣装という時点で、かなりさらけ出しています(笑)。
――確かにそうですね(笑)。2021年からは、朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.」の連載「ボクといっしょに考えよう」の中で、子どもたちの疑問や悩み相談にも答えています。
連載のタイトル通り、ぼく自身にとっても、いろいろなことを考えるいい機会になっています。スタート時から大切にしている子どもたちへの「寄り添い」という視点も、芸人として意識したのは初めてです。
――回答はどのように考えていますか。
自分でも考えますし、周りの人たちに相談もします。ときにはどういう回答をするかをめぐって、ちょっとしたディスカッションになることもありますね。そういう考え方もあるんだ、とか、いや、でもぼくはこう思う、とか。それまでもラジオでは軽い悩み相談をやっていたんですよ。その日、来たメールからお悩み相談を選んで、一言二言答えて、最後は「そんなの関係ねぇ!」で閉める、という(笑)。でも、AERA dot.の「ボクといっしょに考えよう」では、子どもたちが真剣なぶん、ぼくも真剣に時間をかけて回答を考えています。毎回、とても勉強になります。
――大人が子どもの気持ちに寄り添うことって、実はなかなか難しいと思います。小島さんが子どもへの回答を考える中で、意識していることは何ですか。
突き放さないこと、かなぁ……。 子どもの悩みって、大人目線で考えるとすぐに答えが出てしまうようなことも、結構ありますよね。そんなときも「わかる、わかる。そういうこと、あるよね」とか「よしおも昔、そうだったな」と、まずは子どもの気持ちを受け入れるようにしています。例えば以前、寄せられたのは、「算数の問題文を読まないから、問題の意味がわかりません」という内容でした。以前のぼくならば「だったら読めばいいじゃない?」と答えて終わりだったかもしれません。
――普通はそう答えますね。
ですよね。でもそうじゃないんです。まずは、よくぞこの悩みをよしおに話してくれたね、ありがとう、という気持ちも持つこと。そして「大人にも似たようなことがあるよ。アタックしないから恋人ができないとか、食べるのをやめられないからやせられない、とかね」と、一度子どもに寄り添う目線をはさむことが大切だと思います。
――「朝日新聞Thinkキャンパス」にも、受験期の中高生からさまざまな悩みが寄せられています。今は教育現場でも一人ひとりの個性や多様性が重視されるので、自分らしさとは何かと悩む子も多いようです。
気持ちはよくわかります。ぼくも芸人になったばかりのころは、「個性を見つけろ」とか「キャラがない」といったことを散々言われ、悩みました。「お前のネタは学生のノリが抜けていない」と叱られたこともあります。
でも、あるとき、ひとりの先輩から「逆にその学生のノリをもっと前面に押し出してみれば」とアドバイスをもらって、ごく短期間ですが、芸名を「学生ノリオ」に変えて活動してみたんです。「オレ、笑いは取れませんけど、単位だけは取ります」みたいな感じで(笑)。「そんなの関係ねぇ!」も、そんな学生のノリの流れから生まれたネタでした。先輩に誘われて出演したイベントでギャグを言ったもののまったくウケず、苦し紛れに「そんなの関係ねぇ!」と言ったら大ウケしたんです。
――あのフレーズは、そのまま小島さんの強烈な個性になりました。
そもそも個性とかキャラは、生まれたときから誰もが持っているものだと思うんです。「そんなの関係ねぇ!」も、もともと自分の中にあった明るい性格や、ネガティブ思考を振り切りたいという思いが、言葉になって表れたもの。だから、後付けで考えたものじゃないんですよ。
――作ろうと思ってもなかなか作れなかったキャラが、気づいたら自分の中から出てきたのですね。
そうですね。キャラは無理やり作るものではなく、誰にも生まれつきの個性がある。そこにそれぞれの経験が加わって、その人だけの特別な色になります。それは初めから狙って出せる色じゃなくて、いろいろな経験の積み重ねがあって初めて出てくる色だから、それを大切にすればいいんじゃないかな、と思います。色は重ねると変わってくるものだし、混ざってあふれてきたときに、「自分の色」がにじみ出てくるんじゃないかな。
色は自分ではよくわからなくて、他の人の方がよく見ていて、発見してくれることもある。学生ノリも、YouTubeで子ども向けに算数をやってみようということも、まわりの人が見つけてくれたキャラであり、個性なんですよ。
中高生は若くて経験も少ないので、自分だけの特別な個性なんて、なくて当然です。今やっていること、例えば部活や受験勉強、夢中になっている音楽、マンガ、恋愛などの経験が積み重なって、将来特別な個性になるんじゃないかな。
――今は見えていない個性も、いつか見えてくるから大丈夫だよ、ということですね。
そんな気がします。経験が増えて、個性を育てている器が満タンになれば、いつか自然にあふれて出てくるはず。それまでは焦らず、あわてず、他人と比べない。今できることをしっかりやっていけばいいんですよ。
>【後編】失恋のおかげで受験勉強に集中 「どっちにしてもうまくいく」で無敵に
小島よしお(こじま・よしお)/1980年、沖縄県生まれ。千葉市で育ち、高校時代は野球部に所属。1年間の浪人生活を経て、早稲田大学教育学部国語国文学科に入学し、在学中からコントなど芸人としての活動を開始。大学卒業後の2007年、「そんなの関係ねぇ!」で大ブレークする。2020年からはYouTubeチャンネル「小島よしおのおっぱっぴー小学校」で、小学生の算数を題材にした動画を配信中。新刊に『小島よしおのボクといっしょに考えよう』(朝日新聞出版)。
(構成=木下昌子、写真=松永卓也・朝日新聞出版)

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