■漫画『ガクサン』×参考書大解剖
大学受験生なら誰もが一度は手に取るのが、教学社の「大学赤本シリーズ」。掲載されている過去問と解説、入試情報は、多くの受験生の志望校合格を支えてきました。しかし、入試制度はここ数年で大きく変化しています。大学入学共通テストの導入、試験方式の多様化、そしてコロナ禍。不安の中で、赤本を作る編集者たちは、受験生を迷わせないように、日々変わる情報を丁寧に整理し続けてきました。漫画『ガクサン』(講談社)に登場した参考書の制作のウラ話などを聞く第2弾・後編では、より良い赤本の「使い方」と、受験生へのメッセージをお届けします。【後編】(写真=赤本を編集する中本多恵さん(左)と川島遼子さん(右)、世界思想社教学社提供)
共通テスト導入の時は大変
――ここ数年は選抜方法の多様化などもあり、制作に苦労しているのではないでしょうか。
赤本シリーズ編集部マネージャー・中本多恵さん 最近で一番大変だったのは、2021年に大学入試センター試験に代わって大学入学共通テストが導入された時です。入試制度の変更があると、まずは情報収集にてんやわんやの状態になり、情報が集まった後は、変更点の洗い出し、情報の再編集と作業が続きます。コロナ禍が始まった2020年は、ちょうど赤本ができ上がるタイミングで「個別試験を行わず、センター試験で合否を決める」という決定を下した大学がいくつかあり、その時も対応に追われました。
赤本シリーズ編集部・川島遼子さん 受験生にとって入試制度や教育課程が新しくなるのはとても不安なことです。その不安を少しでも軽くするために、「ここはこれまでと同じです」とか、「ここは変わるけれども、過去問のこの辺りは役に立つから演習しておきましょう」といったことをしっかり説明するのも、赤本の重要な役割だと思っています。

簡潔で短い、赤本の解説
――最近の受験参考書や問題集は、受験生のニーズにより幅広く応えるために、以前より親切になったと言われています。赤本はどうでしょうか。
中本 「赤本の使い方」の説明が詳しくなったことや、読みたいページを探しやすくするツメ(小口)部分の目印も含め、赤本もここ数年でかなり親切になったと思います。解説も、昔より詳しくなりましたね。昔の赤本の解説は、ほんの少しだけヒントを与えて、「これで解きなさい」という感じなんです。自分で考える力を育てるために、あえてわずかな手がかりしか与えないという、当時の編集部なりの優しさだったようなのですが。
川島 とは言え、当社が出版している他の教材と比較すると、今も赤本の解説は簡潔で短めではあります。その理由は、過去問を解いて、解けない問題があったらいったん参考書に戻り、知識を身に付けたらまた過去問に戻る。そんな一連の勉強サイクルを、赤本と他の参考書と組み合わせながら自分なりのスタイルで確立してほしいからです。受験生が複数の教材を併用し、厚みのある知識を身に付けられるように、最近は「傾向と対策」のコーナーに、他社のものも含めた「おすすめ参考書」を掲載しています。

赤本のおすすめ活用法は?
――赤本のおすすめの使い方はありますか。
中本 編集者としては、過去問演習だけでなく、勉強の計画作りにも役立ててもらいたいです。例えば、過去問を解いてみて、できなかった分野や問題の形式を整理することは、「今自分がするべき勉強」を知る指標になります。また、通常の問題集はスラスラ解けるのに、志望校の過去問は解けないという場合は、入試データに掲載されている合格最低点を見て、だいたい何割くらい得点を取れば合格できるのかを確認してみましょう。
難問を出題する大学の場合、合格最低点が思ったより低いというのは、よくあることです。もし自分がその割合に達していないのであれば、解けなかった問題から弱点を探して克服すればいいし、達していたのであれば、今まで通り勉強を続けていけばいいということになります。
川島 計画作り、戦略作りに役立ててほしいというのは、私も同感です。以前、京都大学出身の芸人さんが「過去問を解かずに入試に臨むのは、ルールを知らずにサッカーの試合に出るようなもの」と話しているのを聞き、確かにそうだなと思いました。志望校の出題内容を理解せずにいきなり受験勉強を始めるのは、サッカーに例えると、足を使うスポーツと知らずに腕を鍛えてしまうようなもので、効率がいいとは言えません。やみくもに勉強するのではなく、まず赤本を使って自分にとって必要なことは何かを把握してみてください。

――過去問は1回解いて終わり、という人もいそうです。
中本 受験生はやることが多いので、そうなる気持ちも理解できます。でも、時間がないからこそ、「傾向と対策」を読んで効率よく勉強を進めてほしいです。受験生が問題を解きながら、志望校それぞれの出題傾向を整理するのは、簡単なことではありません。ここは忙しい皆さんの代わりに私たちがまとめておきましたので、ぜひ目を通してみてください。
入試は大学の「入り口」
――たくさんの入試情報や受験生の声に触れる中で、感じていることはありますか。
中本 赤本が創刊された当時の志望校選びは、「この先生に教わりたい」「この学問を学びたい」といった受験生の希望が基準でした。今でも志望校選びは偏差値を基準にするのではなく、受験生がどうしたいかを最重視すべきだと思います。また、入試はあくまで大学の入り口です。受験生にとって大切なのは、入り口の序列ではなく、入学後に学べることやキャンパスライフを通じて経験できることだと思います。私たちが1校でも多くの大学を網羅しようと頑張っているのは、人気校や偏差値トップ校以外にも目を向けて、自分に合った大学を見つけてほしいからです。
川島 入試問題を数多く見ていると、英語の長文や英作文などで、昨今注目されているマイノリティーやジェンダーに関する出題も多く見られます。その中でも、ありきたりな論調ではなく、少しひねりを加えたオリジナリティーのある出題を見かけると、その大学ならではの校風や価値観、求める学生像が表れていると感じます。受験は熾烈な競争の部分がクローズアップされがちなので、入試という枠の中でも学生の人間性に触れようとする大学に出会うと、なんだかとてもほっとします。

保護者は生活面でサポートを
――保護者はどんなサポートができるでしょうか。
中本 意外なことに赤本は、40代から50代の女性が購入されることが多いです。きっとお子さんのために書店で赤本を買ってくださる母親が多いのでしょう。受験勉強は日常生活の中で行われるものですから、サポートは勉強と生活の両面で必要です。保護者のみなさんには、志望校選びや勉強方法には口出しをあまりせず、食事や健康管理で受験生を支えてほしいと思います。そのために最近は、『奥薗壽子の赤本合格レシピ』や本番までのスケジュール管理ができる『赤本手帳』など、勉強以外の部分をサポートする書籍も出しています。

川島 2024年からはユニ・チャームさんとのコラボレーションで、「受験生の生理対策」というリーフレットの配布を始めました。女子生徒にとって生理と入試が重なるのは不安なことです。25年も、11月頃からまた新しいものを配布予定です。少しでも快適に本番に臨めるように、受験生本人はもちろん、受験を控えた娘さんを持つ保護者の方にも、このリーフレットは読んでいただきたいです。

――今まさに赤本を片手に勉強に励んでいる受験生へのメッセージはありますか。
中本 受験生の皆さんには、学校や塾での進路指導にとらわれすぎず、自由に頑張ってほしいです。目標に向かって一生懸命勉強した経験は、将来、必ず人生の糧になります。法律上も大人になる18歳という年齢で迎える大学受験ですから、ぜひ自分の意思で自分の道を選んでくださいね。
川島 毎日の勉強は、大変だと思います。私自身も受験生だったころは、日々の勉強にストレスを感じることもありました。でも、本番に向けてスケジュールを立ててタスク管理をする力は、社会人になってからも生きています。現代文の文章に心を打たれたり、日本史や世界史の内容が今の国際情勢とつながるのを感じたりしたことは、目の前の勉強を「点数のため」だけでなく、「自分の世界を広げる時間」として味わえていたところもありました。また、受験勉強を通じて得たさまざまな経験は、人としての成長にも大きくつながったように思いますので、みなさんも受験生としての時間を大切に過ごしながら、合格をつかめるよう応援しています。
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(文=木下昌子)
【写真】創刊から3年目、昭和32年版「赤本」に書かれたメッセージ
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