大学は「新しい自分」と出会える場所です。知らなかった世界に飛び込み、予想もしなかった経験を重ねるなかで、大学生活の醍醐味を味わえます。九州産業大学には、今年で創部40周年を迎えるプロレス研究部があります。伝統ある部に所属するなかで、成長した自分に気づいたという3人の学生を紹介します。(写真=九州産業大学提供)
「新しいことを始めたい」という勢い
九州産業大学プロレス研究部(KWF)は、日本で唯一、大学公式の部活動として認められているプロレス団体です。しかし、プロレスについてほとんど知らずに入部する学生も少なくありません。商学部4年の中山天太さんもその一人。高校時代は応援団に所属していましたが、大学に入ってから何をするのか、決めていませんでした。
「この大学に入学したからには、ここでしかできないようなことにチャレンジしたいと思っていました。すると、『プロレス』という4文字が目に飛び込んできたんです。何か新しいことを始めたいという勢いだけで入部しました」
建築都市工学部3年の松谷拓真さんは、幼い頃、プロレス好きの父親に連れられて試合を見に行った経験がありました。大学のパンフレットでプロレス研究部の存在を知り、昔の記憶が蘇ってきました。
「練習を見に行ってみたら、リングの上で先輩たちがバンバンぶつかり合っていて、驚くと同時に感動しました。学生でもこんな本格的なプロレスができるんだって」
商学部2年の三宅颯太郎さんも、プロレスにはなじみがありませんでした。サークルにも入らず自由に過ごそうと考えていたところ、プロレスに出合いました。
「昼休みに中庭で、新入生歓迎のためにやっていた試合を見ました。レスラーが相手に本気で打撃を入れたり、飛んだり跳ねたりしていました。生でプロレスを見るのは初めてで、衝撃を受けました」
その日のうちに練習場を訪れ、激しく動き回る先輩たちの姿を見て、その場で入部届を出しました。
大学内に常設された本格的なプロレス専用リングは、全国でもほとんど例がありません。この恵まれた環境で、現在は女性1人を含むレスラー9人、スタッフ6人(うち女性は2人)の計15人が活動しています。
「説得力のある試合」のための地道な基礎トレ
新入部員は半年ほどのトレーニングを経てデビューします。その際、KWFならではのユニークな「儀式」があります。リングネームは先輩が考え、デビュー後、3~4試合目のコールで初めて知らされるのです。中山さんは「ごーるど・太すてぃん」(マスクマンの時は「ごーるど・きんた・マシン」)、松谷さんは「どれみふぁ空2郎」、三宅さんは「ムーニー・マン太郎」というリングネームを授けられました。
「デビュー試合は、自分のリングネームが何かよくわからないまま戦っていました。今でも思い出せるくらい楽しかったですね。みんなが注目してくれて、いい動きをすると、『わぁっ』と歓声が上がる。それがめちゃくちゃ気持ち良くて、デビュー戦が終わった時には、早く次の試合をしたいと思っていました」(三宅さん)

コミカルなリングネームや派手なパフォーマンスの陰には、地道なトレーニングがあります。週2〜3回、2時間半から3時間半の練習を重ね、基礎を大切にしています。
「飛んだり跳ねたり、つい目立つ技をやりたくなってしまうのですが、身体も技も未熟な状態でそれをやると『プロレスごっこ』になってしまいます。だから、身体づくりを含めた基礎トレーニングが大切です。関節技など、見た目は地味でもプロレスの基本となる技の練習を積み重ねていくことが大事だと思っています」(松谷さん)
「リアクションや声の出し方も大切」と言うのは、中山さんです。
「見ている人に『これは痛そう』『この技は効いている』と感じてもらわなくてはいけません。そのために、自分で練習するのはもちろん、先輩のやり方やプロの試合の映像から積極的に学んでいます。それが『説得力のある試合』につながると思っています」
プロレスは一歩間違えれば大けがにつながります。練習の始まりと終わりには、車座になって正座で礼をしたり黙想したりするなど、厳しさと緊張感をもって臨んでいます。

プロレスが育む、感謝の心
「プロレスは受けのスポーツ、とよく言われます。相手が技をかけやすい体勢をとったり、たとえ痛くても胸をしっかり張って技を受けたりすることが大切です。『俺が、俺が』ではなく、まずは相手の良さを引き出すこと。それによって、自分の良さも出てくると感じています」(中山さん)
この「相手を思うことの大切さ」は、プロレスを通じて大きな学びになっています。三宅さんは「人に感謝することが多くなりました」と話します。
「自分がリングに立てるのは、スタッフをはじめ、OBや大学の職員の方々、会場を提供してくださる地域や企業の方々など、いろんな人の助けがあるからこそ。そう思ったら、そもそも大学に通えているのは親のお陰だなとか、改めて感謝する気持ちが強くなりました」

建築都市工学部の松谷さんは、大会の告知やYouTube動画の編集、会計の資料づくりなども担当し、建築士を目指すために建築研究のサークルにも所属しています。
「KWFの活動を通じてスケジュール管理、タスク管理の能力が身につきました。最初はレスラーとして活動していましたが、学科の課題をこなすのが忙しく、退部も考えました。でも、どうしてもKWFに関わっていたくて、レフェリーに専念することを決めました。それでも常に寝不足ですが、自分の将来の夢と好きなプロレスの両方を諦めずに打ち込めているので、とても充実しています」

KWFの活動は学内にとどまりません。地域のお祭りや商業施設などでリングを設置して試合を行い、地域の活性化にも貢献しています。老人ホームやお寺の境内で試合をすることもあります。選手の声や、体がぶつかり合う音、お客さんの歓声や拍手、コミカルでスリリングな実況。それらが一体となって相乗効果を生み、独特の空間が生まれ、道行く人もつい足を止めて見入ってしまいます。
2025年10月5日には、40周年記念の一環として、ららぽーと福岡の特設リングで4部構成の12試合を実施しました。子どもプロレス教室も開き、多くの家族連れが参加して声援を送りました。
さまざまな場所で試合をする中で、「すごい迫力に感動した」「楽しくて元気が出てきた」という言葉をもらうことも多いそうです。「プロレスで日本を元気に」というスローガンのもと、東日本大震災後からYouTubeでの動画配信も続けています。「お客さんが笑ってくれたら、もうそれだけで満足です」と3人は口をそろえます。

40年以上続く世代を超えた絆
KWFが創部された1985年はプロレスの黄金期で、タイガーマスク、長州力、ハルク・ホーガン、前田日明など、多くのスター選手が活躍していました。KWFがそこから40年も続いているのは、現役部員の活動だけでなく、OBとの繋がりや援助が大きいようです。
「現在のコーチは5期の卒業生です。ほかにも、プロとして活躍するOBがたくさんいて、練習や試合に参加してくださり、一緒に活動している感じです」(中山さん)
お笑い芸人の松村邦洋さんもKWF のOBで、在学時は実況で参加していました。試合後の打ち上げの際など、さまざまな分野で活躍する社会人の先輩に直接話を聞くことができるのも、貴重な学びの機会になっています。
4年生の中山さんは、プロレスが就活にも役立ったと言います。
「特に年配の男性の社員に注目してもらえる場合が多かったです。1時間の面接のうち半分はプロレスの話をしていたこともありました。そのお陰か、無事に鉄鋼メーカーの内定を得ることができました」
卒業後も自分にできる形でKWFの活動をバックアップしていきたい、と語る中山さん。40年の歴史はこれからも続いていきます。

(文=石澤 寧)
【写真】マスクマン「ごーるど・きんた・マシン」に扮する中山天太さん
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