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勉強した時間や教科を記録できる学習アプリ「Studyplus」の運営会社スタディプラスの代表取締役を務める廣瀬高志さんは、慶應義塾大学法学部在学中の2010年に会社を起こしました。「学ぶ喜びをすべての人へ」をミッションに掲げてサービスを展開する同社ですが、この発想には、廣瀬さん自身の受験・浪人の経験で得たことが生かされています。(聞き手=朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長、写真=スタディプラス提供)
予備校で感じた「物足りなさ」
――「Studyplus」の主なユーザー層は中高生です。廣瀬さん自身、高校時代はどのように過ごしましたか。
東京大学に何人も合格するような、東京・国立市にある私立の進学校に通っていました。そこで私も東大を目指して勉強していたのですが、所属していたバスケットボール部の先輩の中に、その年の最高得点で東大に合格した人がいたんです。先輩に「どうしたらそこまで勉強に打ち込めるのか」と聞いたところ、「勉強記録ノートをつけるといいよ」と言われました。
そこで、どの教材で何時間勉強したかを記録するノートをつくり、学習時間をグラフ化するようにしたところ、計画的かつコンスタントに勉強ができるようになりました。科目の偏りも可視化でき、学習計画の振り返りもできて、記録することの重要性に気づくきっかけになりました。
――学習の記録をつけられる「Studyplus」の原点のような出来事ですね。
友達とはよく、「受験勉強で一番大事なのはモチベーションだよね」と話していました。勉強を教わったり、勉強したりすることはもちろん大事ですが、学習計画の立て方や勉強の仕方を教えてもらったり、意欲向上につながるコミュニケーションを取ったりすることも、勉強そのものと同じくらい大事だと感じていました。
高3の時には東大以外は受験せずに、浪人してしまいました。それで予備校に通ってみたら、当時は大教室で一斉授業を受けるだけ。それ以上のサポートなかったので驚きました。と同時に、受験生に対してもっといいサービスが提供できるのではないか、とも感じるようになりました。結局、一浪して慶應義塾大学に進学しましたが、当時の経験は、今の自分にとてもプラスになっていると思っています。
「自分がやらなければ」という使命感
――大学に入って、いつ頃から起業したいと思うようになったのですか。
大学では1、2年の頃から、ベンチャー企業でアルバイトなどを経験しました。4年になって「就活はどうしようかな」と考えていた時、学生向けのビジネスコンテストが開催されることを知り、出てみることにしたんです。「インターネットを使ったビジネスプランを考えよ」というのがテーマで、私が提案したのが「ITを活用した家庭教師会社」でした。スマートフォンで勉強の記録ができる、独自のソフトウェアが強みの会社です。この会社なら、家庭教師が生徒の家に行かない日でも学習管理ができ、ちょっとしたやり取りでモチベーションの維持もできるということをアピールしました。
――まさにご自身が受験した時に求めていたものを形にしたのですね。
コンテストでは、優秀賞をもらいました。我ながらびっくりの高評価でしたが、主催側の経営者の方にも褒めてもらったことで、「これはいけるんじゃないか。チャンスだ」と、大学生のうちに起業することにしました。

――起業したいという思いはもともとあったのでしょうか。
私の両親はともにリクルートに勤めていて、その社訓だった「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉を、廣瀬家の家訓にもしていました。そんな家庭で育った私は、ゆくゆくは経営者になりたいと当然のように考えるようになりました。小学1年の時には、七夕の短冊に「将来は社長になる」と書いていましたからね(笑)。

――家訓に従った廣瀬さんを、ご両親も応援してくれたのではないでしょうか。
それが、最初はそうでもなかったですね(笑)。起業して1年後、仕事が忙しくなって大学中退を決めたのですが、「卒業はちゃんとしなさい」と、母には泣かれました。自分にも不安がなかったわけではありませんが、「これで絶対に成功できる」「自分がやらなければ」という使命感がありました。学習者にとって最大の課題は、勉強を継続することの難しさにあります。ここにフォーカスしたサービスは、世界的に見てもまだほとんどありません。だからこそ、自分がこのサービスを広めるんだという強い思いがありました。
学ぶ人のための課題解決を
――学習履歴を管理できるアプリ「Studyplus」は、現在は多くの利用者がいます。ここに至るまで、苦労はありましたか。
初めはなかなか利益が出ず、伸び悩んだ時期がありました。アプリの主なユーザーは大学受験を控えた高校生なので、「Studyplus」は基本的に利用者には課金せず、広告収入で利益を得ています。しかし、2012年にアプリをリリースした当初は利用者が少なかったので、広告もなかなか思うように増えませんでした。この頃は先が見えなくてつらかったですね。
ただ、15年になるとユーザー数が100万人を超え、その頃から広告もコンスタントに入るようになりました。また、前身となるアプリ「studylog」にはSNS機能がなく、Facebookやmixiなど、外部のSNSと連動できるようにしていましたが、ユーザーにはこれがあまりウケなかったんです。「このアプリの中にSNS機能がほしい」というユーザーの声が多く、そういった声に応えてアプリを進化させてきたという経緯もあります。いまは有料プランもあります。
――SNS機能が強く求められるということは、受験を控えたユーザーにとっては記録だけでなく、コミュニケーションも大切だということでしょうか。
そう思います。友達を作るとまではいかなくても、同じ目標に向かって頑張っている人たちとタイムラインでつながっていれば、一人ではないと思えるのでしょう。勉強はどうしても孤独なものですが、その寂しさを和らげ、学習の継続を促す効果もあると思います。
――今後の方針を教えてください。
本来、教育は学習者のためのものです。しかし、現在の教育は教育者のためのものになっている部分もあると思います。私たちは本質を忘れず、学習者を中心にした課題解決を目指していきたいと考えています。わが社の行動指針は「学び変化する」。学ぶ喜びを体験して自ら変化することは、きっと未来の希望につながるはずです。アプリなどのメインユーザーは受験生ですが、社会人も含めて、学ぶ人を幅広く支援するべく、新たなサービスを開発していきたいです。
>> 【後編をもっと読む】スマホで勉強管理のアプリは、ついSNSを見ちゃうのでは? 親は知らない、スマホとの上手な付き合い方
(文=鈴木絢子)

【写真】スタディプラス・廣瀬高志社長の慶應大時代の写真
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