■著名人インタビュー
料理家の栗原はるみさんを母に持ち、自身も料理家、経営者として活躍する栗原友さんは、社会人入試を経て、2024年春から東京農業大学で発酵化学を学んでいます。インタビューの後編では、受験生や保護者へのメッセージを語ります。(聞き手=朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長)
どんな経験も無駄にはならない
――大学の同級生には、どのような印象をお持ちですか。
真面目な学生が多くて、勉強に関しても刺激をもらっています。今のクラスメートやサークルの仲間の誰かが、いつか私のビジネスを助けてくれるかもしれないと思うと、ワクワクしますね。反対に、今の私が周りの友達にできることがあるなら、何でもしてあげたいと思っています。もしかしたら相手は年齢のギャップを感じているかもしれませんが、私はそれもあまり気になりません。社会人として頼られることもよくあります。
この前は、クラスの子に「大学に来たけど先が見えない」と相談されました。私は「この4年間で何が起こるかわからない。思ってもみなかったことに興味が湧くかもしれないし、大学院に行きたいと思うようになるかもしれない。だから、今は先が見えなくても大丈夫だよ」と答えました。相手が少し気が楽になってくれるといいのですが。
――将来への不安を抱く若い人が多いのでしょうか。
そうかもしれません。でも、どんな経験も無駄にはならないと思って進んでほしいです。私もいろいろな職業を転々としてきましたが、全て無駄ではなかったと思います。大学に合格できるだけの小論文や願書が書けたのも、雑誌のライターをしていたお陰です。1年後期は、生命倫理の授業でSの成績を取れました。これもきっと、病気やいろんな人生経験のお陰です。Sは上位5%しか取れないんですよ! しかも、成績表が実家に届いたので、「見ちゃった」と母から連絡が来ました(笑)。
――お母様は何と言っていましたか。
「すごいねー、頑張ってるんだね」と言ってくれたので、私も「でしょう?」と得意になって答えました。この年で親に学校の成績を褒(ほ)められるなんてと思いながら、すごくうれしかったです。この時はS評価を祝して、同世代の友達と焼き肉で宴を開きました。大学の友達がお酒を飲める年齢になるのも待ち遠しいですね。一緒に飲んで、おいしいものをいっぱい食べさせてあげたいです。
社会貢献につながる食のビジネスを
――今後の目標を教えてください。
入りたい研究室が入学時から決まっているので、まずは3年次にそこに入ることを目標に日々、勉強しています。その後は、4年間で無事に卒業することですね。経営についてはすでに実践でいろいろやっているので、大学では食の学びを究めたいと思っています。
大学の専攻とは離れますが、最近、乳がんの手術を受けた人のためのブラジャーを開発・販売する会社の設立を新たに申請しました。自分の経験を生かしながら、困っている人の役に立ちたくて、この会社を立ち上げました。乳がんの手術によって腕が上がりにくくなることがあるので、肩をあまり動かさなくても着脱できるブラジャーがあったらいいと考えました。食のビジネスでも、こんな風に、社会貢献につながるような新しい活動を模索していきたいです。そう考えるようになった背景には、やはり年齢的なものがあると思います。東京農大でも社会人はクラスに私一人だけで、他学部にあと一人いるぐらいですから。
――リスキリングやリカレント教育など、大人の学び直しが注目されていますが、実態はなかなか進んでいないのですね。
社会人の入学者がゼロの年もあるようです。海外の大学だと、もっと当たり前にいろいろな年齢の人がいますよね。お陰で私も友達作りに苦労して、胃の痛い日々を過ごしたわけですが(笑)、大学はもっと社会人に開かれていてもいいんじゃないかと思います。
子どもは放っておくことも大事
――受験生へ励ましのメッセージをお願いします。
私自身、現役の時は大学進学を選択肢に入れていませんでした。「目的がないのなら、やみくもに大学に行っても意味がない」と思って行かなかったのですが、これは後悔しましたね。「とりあえず」で大学に行ってもいいし、やみくもに勉強してもいいと思うんです。学ぶ中で、きっと何かが見つかると思うし、見つからなくても、一生の友達ができるだけでも価値があるはずです。私も、大学でできた友達とずっと付き合っていけそうだと感じています。頭が柔らかいうちに、たくさんのことを学んで経験してみるといいと思います。
――大学生として、そしてご自身も10歳の娘さんを育てる母として、受験生の親にもアドバイスをお願いします。
親は子どもを急かさないであげてほしいです。でも、これは難しいですよね。私もやってしまいがちなので、親の気持ちもよくわかります。
最近、うちの娘が「習い事をやめたい」と言ってきました。こちらはつい、「やめてどうするの、ほかに何かやるの?」なんて急かしてしまって。習い事にはお金もかかるので、「せっかくさせてあげているのに」と思ったりもしました。でもそれは親の都合であって、子どもにとっては、もう嫌なものは嫌なんですよね。
習い事をするもしないも、本人が考えてみたらいい。そう思って、一度放っておこうと決めました。子どもに対してはどうしても手や口を出したくなりますが、今は私自身が大学で忙しいために、この方法を試すことができています。放っておくことで、自分がやりたいことや得意なことを、子ども自身が見つけていくのではないでしょうか。
>>【前編】料理家・栗原友さん、乳がんを転機に48歳で東京農業大学に入学 孤独を乗り越えて「魚サークル」を立ち上げ
<プロフィル>
栗原友(くりはら・とも)/1975年生まれ、東京都出身。ファッション誌のライターやアパレル企業のPRなどを経験した後、37歳で東京・築地の水産会社に飛び込む。現在は築地の鮮魚店「クリトモ商店」などを営む傍ら、コンサルティングやメニュー開発も手がけ幅広く活躍中。母は料理家の栗原はるみさん、父は元キャスターの故・栗原玲児さん。弟の心平さんも料理家。
(文=鈴木絢子、写真=山田秀隆)

【写真】東京農大生になって発酵を学ぶ料理家・栗原友さん
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