「東大合格本」が人気 天才あるいは強烈な努力家の、胸を打つサクセスストーリーとは【後編】

2025/06/20

■令和の大学を考える

東大生になるまでの受験体験を綴った「東大合格本」。さまざまな工夫を凝らして東大受験を乗り切ったストーリーは、受験生にとって参考になることが多くあるでしょう。教育ジャーナリストの小林哲夫さんが、2000年代に入ってからの「東大合格本」の歴史を振り返ります。(写真=小林さん提供)

続々と出版される「東大合格本」

東大など難関大学を目指す高校生は、先輩たちがどう受験勉強に取り組んだかを知りたい。東大生あるいは元東大生が自らの受験生時代を振り返る本(以下、「東大合格本」)は、たいへん参考になる。2000年以降の合格者による「東大合格本」を紹介しよう。(合格年、合格科類〈現浪別〉、出身高校。「東大合格本」の刊行年は合格した年よりあとになるケースが多い)

2000年代前半】

◆杉山奈津子『偏差値29の私が東大に合格した超独学勉強法』(角川SSC新書、2013年)
2002年、理科二類(1浪)。静岡雙葉高校卒。
予備校に通わず独学による合格体験をもとに効率が良い受験技術を伝授している。過去問で傾向を知ってから勉強を始める、理系受験生はセンター試験で日本史、世界史は避けるべき、『英語頻出問題総演習』(桐原書店)を完璧にやれば東大英語は万全、などと唱えていた。

◆八田亜矢子『今日からできる! 東大脳の育て方』(ワニブックス、2010年)
2004年、理科二類(1浪)。筑波大学附属高校卒。
「熱血!平成教育学院」「脳内エステ IQサプリ」(以上、フジテレビ系)、「クイズプレゼンバラエティー Qさま!!」(テレビ朝日系)といった教養系番組などに出演していた。受験生時代について、テレビはNHK大河ドラマ、NHK教育テレビ以外を見ることは許されなかった。マンガは歴史もの以外禁止。部屋にはアイドルのポスターもない。机は大人が使うような重厚なもの。旅行先はどこの国に行っても歴史の観光名所ばかりだったと、著書などで振り返っている。

◆木村美紀『東大姉妹の合格勉強術』(妹との共著、集英社、2011年)
2004年、理科二類(1浪)。女子学院高校卒。
ビートたけし出演の教養系番組「たけしのコマネチ大学数学科」(フジテレビ系)に出演。英語、数学の勉強法をこう伝える。「英語の復習に役立つ、自分専用辞書と言えるノートを作ろう。カラフルなペンでその時点での学習状態を可視化する」「数学は暗記ではなく、理解すること。苦手なら、ひとりで悩まずエキスパートに助けを求めよう。わからないことは、いい塾を探してそこで学ぼう」(同書)

2000年代後半】

◆安川佳美『東大脳の作り方』 (平凡社新書、2006)
2005年、理科三類(現役)。桜蔭高校卒。
『東大脳の作り方』 は出版社への持ち込み企画が実現した。10万部売れたという。この頃、理三合格者に桜蔭出身者が増え始めた。2000年5人、01年8人、03年6人、04年8人と、灘には及ばなかったが開成よりも多い年があった。安川さんはその後、『東大医学部 医者はこうして作られる』(中央公論新社)、『東大病院研修医 駆け出し女医の激闘日記』(中公新書ラクレ)を刊行している。

◆加藤ゆり『ミス東大加藤ゆりの 夢をかなえる勉強法』(中経出版、2009年)
2005年、理科二類(現役)。高田高校(三重)卒。
大学3年次に経済学部に進んでいる。「ZIP!」(日本テレビ系)、「熱血!平成教育学院」「クイズ!ヘキサゴンII」(以上、フジテレビ系)、「加藤ゆりの経済教室」(ラジオNIKKEI第1放送)など教養系番組に出演していた。「だいたい2~3ページ、単語帳の中で、その日覚えるページを決めます。そして、そのページの単語を覚えて、赤いシートで隠しながら自分でチェックして、覚えたと思ったらそのページに日付を書きます」(同書)。『速読英単語』(Z会出版)を使っていた。

◆石井大地『世界一わかりやすい東大受験完全攻略法』(双葉社、2005年)
2005年、理科三類(現役)。開成高校卒。
英語は「英作文は暗記だ」、数学は「大学内容にまで踏み込んだ塾の講義は受けるな」、現代文では「入試直前に過去問を解きまくるだけでいい」と訴える。石井さんは小説家としてデビューし、11年、『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』で文藝賞を受賞した。現在、株式会社グラファー代表取締役。

◆岩波邦明『東大理III への道 短時間で急激に成績を上げるコツ30』(小学館クリエイティブ、2014年)
2006年、理科三類(現役)。桐蔭学園高校卒。
本書では高校3年4月の東大模試でE判定(合格可能性0%)から成績を急上昇させたメソッドを紹介している。岩波さんは東大医学部在学中に「ルイ・イーグル」株式会社を設立した。「ゴースト暗算」を考案し、ゲームなども開発した。近著に小学3〜6年生向けドリル『AI脳が身につく最強の図形ドリル」(小学館)。

2010年代前半】

◆桜雪『地下アイドルが1年で東大生になれた! 合格する技術』(辰巳出版、2016年)
2012年、文科三類(1浪)。東京学芸大学附属高校卒。
高校在学中からアイドルユニット「アリス十番」などで活動、「桜雪の東大一直線娘」というブログで受験生活を綴った。1日10万PVを稼いだこともある。「いろいろな問題にチャレンジするのではなく、ひとつのテキストを何周も解くことで、解答パターンを体に覚えさせました。何周もしていると、体が勝手に動くというか、問題を見た時に、『この問題はこういう方針で解こう』という、ゴールまでの道筋が浮かぶようになります」(同書)。現在は渋谷区議会議員。

◆葛西祐美『東大医学部生が教える本当に頭がいい人の勉強法』(二見書房、2017年)
2013年、理科三類(現役)。都立国立高校卒。
高校時代、女性限定の「中国女子数学オリンピック」で日本人として初めて優勝した。本書では数学をどのように勉強したらいいかが説かれている。模試で数学の偏差値99を記録したことがある。バラエティー番組の「最強の頭脳 日本一決定戦! 頭脳王」(日本テレビ系)、「さんまの東大方程式」(フジテレビ系)などに出演している。使用参考書は『英単語ターゲット』(旺文社)、『英語要旨大意問題演習』(駿台文庫)、『新理系の化学問題100選 』(同)、『難問題の系統とその解き方』(ニュートンプレス)など。

◆宇佐見天彗『現役東大医学部生が教える最強の勉強法』(二見書房、2016年)
2014年、理科二類(現役)。香川県立高松高校卒。
3年次に医学部医学科に進学。17年に株式会社「ペイ・フォワード」を設立し、「地方と都会の教育格差を是正したい」という思いから、YouTubeチャンネルPASSLABOを開設している。

◆水上颯『東大No.1頭脳が教える頭を鍛える5つの習慣』(三笠書房、2019年)
2014年、理科三類(現役)。開成高校卒。
クイズにめっぽう強く「全国高等学校クイズ選手権」(日本テレビ系)に出場し優勝、「最強の頭脳 日本一決定戦! 頭脳王」(同)で2連覇を達成した。現在、精神科医師として働き、発達障害の研究に取り組む一方で、児童精神医学の道に進みたいと考えている。

◆河野玄斗『東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっている シンプルな勉強法』(KADOKAWA2018年)
2014年、理科三類(現役)。聖光学院高校(神奈川)卒。
医師国家試験、公認会計士試験、司法試験、実用英語技能検定1級、実用数学技能検定1級、日商簿記検定1級、宅地建物取引士などの国家試験、資格試験に合格している。天才だが、努力を惜しまない。毎日午後11時半まで東大医学図書館にこもっていた。「食事しながらも、シャワーをあびながらも、トイレの中でも勉強しました。スキマ時間を見つけては『この時間もどうにかして勉強できないか』と模索し、有効活用しました」(『資格試験のための最短最速勉強法 速学のススメ』講談社)

2010年代後半】

◆佐々木京聖『現役東大生が教える 超コスパ勉強法』(彩図社、2019年)
2016年、理科三類(1浪)。福島県立安積高校卒。
英語は単語、文法、読解を同時並行に行う数学は「定石」を覚える国語は設問の守備範囲を見きわめることを勧める。使用参考書は英語で『Next Stage』(桐原書店)、『古文単語ゴロゴ』(スタディカンパニー)、『新・物理入門』(駿台文庫)。佐々木さんは在学中、株式会社「MERACLE」を設立し、医師と医療の専門知識を必要とする企業をつなぐ事業などを手がけている。

◆鈴木光『夢を叶えるための勉強法』(KADOKAWA2020年)
2017年、法学部(推薦、現役)。筑波大学附属高校卒。
在学中に出演したクイズ番組「東大王」(TBS系)では、どんな難問にも動じることなく、にこやかに答えるクレバーさが好感をもって迎えられた。卒業後、「メディア活動への参加を終了」と宣言し、法曹の道に進んだ。「覚えたい事柄に理屈があると疑ったら、まずは調べる。理屈と紐付くと納得感が味わえるので楽しく暗記できる。理屈と知識を関連付けると覚えやすく、忘れにくい」(同書)

◆ベテランち『やる気ゼロでも灘→東大理III 他力本願勉強法』(KADOKAWA2023年)
2017年、理科三類(1浪)。灘高校卒。
2020年代は、YouTuberの東大医学部の学生が、受験生や「学歴オタク」から注目されるようになった。ベテランちさんは、その代表的な人物だ。歌人という顔を持っており、東京大学Q短歌会に所属して、青松輝という本名で短歌集『4』を刊行している。使用した参考書は、『鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁』(KADOKAWA)、『東大の英単語』(教学社)、『テーマ別英単語ACADEMIC』(Z会)。同じ参考書を3回やるよりも、違う参考書を3種類やるほうが効果的だと考えたという。

◆上田彩瑛『数学を武器にしてみよう! 東大理三・ミス東大が教える、誰でもできる勉強法』(PHP研究所、2025年)
2019年、理科三類(現役)。四天王寺高校卒。
数学ができるようになるのは才能やセンスではなく地道な努力、と訴えている。使用参考書は、『英文読解の原則125』(駿台文庫)、『鉄緑会東大英単語熟語 鉄壁』(KADOKAWA)、『読んで見て聞いて覚える重要古文単語315』(桐原書店)、『数学の計算革命』(駿台文庫)、『名問の森 物理』(河合出版)など。

2010年以降、それ以前に比べて東大理科三類(医学部進学コース)、医学部の学生による著書が増えている。日本でもっとも難関な東大理科三類、医学部に通う人たちの頭脳、生き方を知りたいというニーズをかなえた内容だ。天才あるいは強烈な努力家ならではのサクセスストーリーは、たしかに読者の興味、関心をくすぐる。

今後、2020年代以降の東大入学者が「東大合格本」を出していくだろう。彼らは受験生時代や学生時代にコロナ禍を経験している。学校や予備校に通えずオンラインで学んできた。それゆえ、これまでの世代とは違った、だれもが思いつかなかった勉強法を開発したかもしれない。東大合格者のメッセージが楽しみである。

 

>>【前編】「東大合格本」誕生から60年 受験生に何を訴えたのか?

 

プロフィル
小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。

 

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