■親のための学部・学科講座

企業で働くために役立つことを身につけようとする時、親の時代は「経営学部」や「経済学部」で勉強したものですが、最近は新たな分野である「ビジネス学部」が続々と生まれています。ビジネス学部の学生たちは、ビジネスの現場の人たちとかかわりながら、商品のアイデアを考え、リーダーシップを学びます。2023年4月に日銀総裁に就任した植田和男氏は、共立女子大学ビジネス学部を立ち上げて初代学部長を務めました。具体的にどのような学びに取り組んでいるのでしょうか。(写真=共立女子大学提供)

ビジネスに欠かせない英語力を重視

「ビジネス学部」「現代ビジネス学部」などの名称で学部を設置する大学は、共立女子大学、愛知淑徳大学、宮城学院女子大学、名古屋産業大学、兵庫大学、安田女子大学、九州国際大学などがあります。共立女子大はその中では新しく、20年度に開設しました。ビジネス学部の学部長を務める荒井弘毅教授は、その経緯と教育について次のように説きます。

「近年誕生したビジネス学部の多くは、特定のスキルに特化してはいません。本学のビジネス学部も、アメリカの経営学修士(MBA)を参考にし、経営、マーケティング、経済、会計の4つの力と幅広い教養、ビジネスに欠かせない英語力を身につけることを重視しています」

ビジネス学部と聞いて、「経済学部や経営学部とどう違うのか」と疑問を抱く人もいるかもしれません。しかし荒井教授のこの説明から、ビジネス学部は経済学や経営学をも包括した、より横断的な分野であることがわかります。具体的にどんな学びを提供しているのか、共立女子大の例でさらに掘り下げてみましょう。

「女性の自立と自活」を体現

同大は130年超にわたって女性の職業教育に取り組んできた歴史があります。荒井教授によれば、同大学の建学の精神「女性の自立と自活」を体現したのがビジネス学部です。たとえばAI(人口知能)の発展は、女性に多い事務職の需要が減るという意味では危機だといえます。こうした中、ビジネス学部ではAIにとって代わられない知識やスキル、人間力を身につけることで「女性の自立と自活」を支えます。

「初代学部長の植田先生は、学部開設にあたって、どんな教員を集めるか、どんなメッセージを発信するかなど、まさに学部の基本理念をつくってくださいました。それをどう守り、発展させていくことができるか。それが私たちの今後の目標であり、課題です」

同学部でもっとも特徴的な取り組みは、多くの企業と連携し、実践的なグループワークによって協働する力を身につける「共立リーダーシッププログラム」です。学生たちはビジネスの最前線の現場で働く人たちの話を聞き、実際に企業から出されたテーマに沿って、より良い製品やサービスなどを考えます。

連携するのは、ソニー銀行や鹿島建設など名だたるパートナー企業。最先端のビジネスシーンを肌で感じながら学ぶことができるのは、共立女子大学のキャンパスが東京・丸の内、大手町というビジネスの最前線に隣接しているという地の利も大きいでしょう。少人数のグループでディスカッションしながらアイデアをまとめ、企業の社員を前に発表し、フィードバックを受ける――こうした経験を積み重ねるうち、少しずつ学生の力が伸びていくと荒井教授は語ります。

(写真中央=現ビジネス学部長・荒井弘毅教授、共立女子大学提供)

個々の特性を生かしたリーダーシップを養成する

荒井教授のゼミに所属する4年生に共立女子大学に入学した理由を聞くと、「“共立リーダーシップ”を身につけたかったから」と言います。リーダーシップというと、管理職などに必要なマネジメント能力と捉えられがちですが、同大学で育成する「共立リーダーシップ」は少し違います。

「現代のビジネスはプロジェクト型で進められることも多いため、他者と協働できるリーダーシップの開発に重点を置いています。リーダーシップといっても、必ずしも他者を引っ張っていく必要はありません。メンバーをサポートするなど、それぞれが自分なりのやり方でチームや社会に貢献し、目標を達成できればいい。本学では、個々の特性を生かしたリーダーシップの力を磨くことを心がけています」(荒井教授)

日本は世界的に見ても女性のリーダーが少ないため、女子大でこうした学びが実践されることは大きな意義があるでしょう。

ビジネス社会を設計する力を育む

ビジネス学部では今後、「データデザイン力」の開発にも力を入れる予定です。

「今の学生はインターネットの知識があり、情報を集めたり、分析したりすることも上手です。それを単なる情報処理で終わらせず、いかに消費者心理を踏まえて活用するか。現代に求められるデータ活用力を伸ばすプログラムを加えていきます」(荒井教授)

目指すのは「数量では表せないデータも利用して、ビジネスを設計・デザインする能力」の育成です。現在行っているビッグデータ分析や統計学などの情報関連の授業を拡充するだけでなく、「AI時代の金融」や「人に好かれる企業の研究」など、時代に適応したゼミの展開も計画されています。

ビジネス学部からは、24年3月に初めての卒業生が巣立ちます。学生が目指す進路は、マーケティングや商品開発、営業職などさまざまです。経営に携わりたいという学生もいます。

「積極的な学生が育っていると感じています。しかし、ゴールは就職することではなく、社会で活躍することです。そのためにさらに進化を続けていきます」(同)

(文=鈴木絢子)

幅広い学びで実社会を生きる力を育む「ビジネス学部」(後編)はこちら

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