【親子体験談】浪人して総合型選抜に挑戦 胸が詰まる母「極限状態、キーボードを打つ手が震えていた」【後編】

2025/06/09

■特集:総合型選抜を知る

総合型選抜を取り入れる大学が増える中、実際に受験した人はどんな経験をしたのでしょうか。1年浪人して総合型選抜で法政大学に合格した学生と母親に、受験で苦労したことや、総合型選抜で入学したことのメリットなどを聞きました。(写真=総合型選抜の出願に向けて小論文に取り組む鵜木太陽さん、本人提供)

>>【前編】浪人生でも総合型選抜に受かるの? 母親は「未知の世界すぎて、不安」

親子で目を通した志望理由書

——アスリートのセカンドキャリア支援という夢に向けて、ほかにはどこの大学を受験しましたか。

太陽 法政大学キャリアデザイン学部が第1志望で、あとは関西学院大学人間福祉学部と関西大学社会学部です。キャリアというニッチな学問なので、大学と学部の選び方が難しかったです。

——総合型選抜は9月から出願が始まりますね。

太陽 出願書類を提出する前が最も大変で、8月が山場でした。結構しんどくて、親にオンラインで志望理由書を見てもらったり、相談したりしていました。母親が「大丈夫だと思うよ、頑張り」と言ってくれて、自分を一番よく知っている人に、自分のことや文章を肯定してもらえて、だいぶ助かりました。

母親 志望理由書は暗記するくらい読みました。自分の文章を何十回、何百回と読んでいたら、いいところも悪いところもわからなくなってくるから、誰かに見てもらうことは必要だと思います。3校に出願しましたが、大学によって規定の文字数が違うので、いったん完成させた志望理由書を削っていく作業に苦労していたようでした。塾のメンターから「あと何文字削って」とか、「ここを修正して」などと言われるのですが、もうどこにも削れるところがない。本人は極限状態になっていて、キーボードを打つ手が震えているんですよ。今思い出しても、よく頑張ったなと胸が詰まります。

——どんなアドバイスをしたのですか。

母親 「これ、読んでほしいんだけど」と言われた時に話をするくらいで、あとは本人の自力です。こちらからアドバイスのために電話をするようなことは、一度もなかったですね。

——完成した志望理由書を読んだとき、どう思いましたか。

母親 親バカかもしれませんが、よくここまで練って、練って、書き上げたなと思いました。実体験とエビデンス的なデータのバランスが取れて、すばらしいものができあがっていました。塾の方のご指導と本人の努力のたまものです。心から「よくできてるね」という言葉をかけました。

合格のカギは志望理由書

——結果はいかがでしたか。

太陽 関西学院大学と法政大学に合格しました。9月に出願して、合否の結果が出たのは11月。法政大学の試験は、志望理由書には一貫性があると思っていたし、小論文も書けたし、面接も手応えがあって、終わった直後に母に「受かったと思う」と電話したくらい自信がありました。これだけ対策してきたのだから大丈夫だろうという思いでした。

母親 本音では、もっと入りやすい大学も受けたほうがいいんじゃないの、と思っていたのでホッとしました。関西学院大学の結果が先に出て、法政大学の時は仕事中に息子から電話が来ました。よかったーと思いました。

——法政大学に合格できたことを、自分ではどう分析していますか。

太陽 志望理由書を軸に面接が展開されるので、志望理由書の質の高さが大事です。どういうキャリアを歩んできたかを言語化できていたし、自分が設定した課題についてリサーチして、漏れや抜けがないようにできていたと思います。面接で何を聞かれても、はね返せるようになっていました。合格の要因としては、ちゃんと自己分析をしたうえで、自分がやりたいことをリサーチしていたことが大きかったのかなと思います。

——総合型選抜という選抜方式は、どう感じましたか。

母親 一般選抜はちょっと厳しいから総合型選抜を受けようかな、と言って受けるものではないと思います。そのくらい大変です。息子にとっては、すごくいい経験になりました。自分のことを分析したり、一つのテーマをどんどん掘り下げたりすることは、大人になっても人生でなかなかないことですよね。

総合型選抜に大事なのは主体性

 ——大学に入学してから、一般選抜で入った学生との違いを感じたことはありますか。

太陽 ポジティブな面では、大学4年間に対する解像度が全然違うと感じています。一般選抜は大学に入学することがゴールになると思いますが、総合型選抜で入った学生は入学後に何をするかを考えています。たとえば、4年間の学習計画です。志望理由書を書くためには、どういうゼミに入って何を研究したいかをクリアにする必要がありました。だから、総合型選抜で入った人は、1年からいろんな活動に精力的に動いたり、ちゃんと授業を受けていたり、ゼミ活動をしたりしている人が多いのかなと思います。

——ネガティブな面もあるのでしょうか。

太陽 あまりないですが、僕の場合、入学時の基礎学力が一般選抜で入った人より低かったと思うので、語学系の授業は苦労しました。結果的に単位は取れましたが。

——現在は、ご自身が通った総合型選抜専門塾の講師をしています。総合型選抜では保護者が塾を見つけて申し込むケースもあると聞きますが、生徒を見ていて思うことはありますか。

太陽 総合型選抜は主体性が求められます。親の意思決定が子どもに反映されていて、子どもの自立を妨げていると感じることはありますね。たとえば、塾や講師に対する質問を親がしてきたり、進捗状況を親が管理していたり。主体性という点から言うと、子どもがやるべきだと思います。僕の両親はいい意味の放任主義で、「好きなようにやりなさい」と言ってくれたのはすごく助かりました。

——総合型選抜で合格するのに、塾は必要だと思いますか。

太陽 僕の場合、1年目は自力、2年目は塾に頼った経験からは、正しい方向を向いて努力しないと、かなり時間を無駄にする気がします。伴走してくれる人がいたほうがいいというのが、僕の考えです。

——志望理由書を書くための自己分析は、就活にも役立ったのではないですか。

太陽 就活が終わったところですが、役立ちました。一般選抜で入学した学生は、ゼロから自己分析を始めないといけませんが、総合型選抜を経験した学生は完全にクリアしている状態です。ゼミで学ぶ中で、アスリートに絞らず、幅広く働く人のキャリアをよりよくする仕事に興味がわくようになり、卒業後はコンサルタントとして頑張りたいと思っています。

>>【特集】総合型選抜を知る

(文=仲宇佐ゆり)

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