■特集:総合型選抜を知る
大学入試で総合型選抜を取り入れる大学が増えています。学力試験の成績で合否が決められる一般選抜とは違い、大学で学ぶ意欲や適性、目標などに注目し、志望理由書、小論文、面接などで選考が行われます。主に現役生のための試験だと思われていますが、浪人して受かった学生もいます。実際に合格した学生はどのように準備を進めていったのでしょうか。(写真=Getty Images)
サッカー漬けの高校生活で準備不足に
法政大学キャリアデザイン学部4年の鵜木(うのき)太陽さんは、鹿児島県の高校を卒業して1年浪人し、総合型選抜で合格しました。合格までの経緯を鵜木さんと母親に聞きました。
――どんなきっかけで総合型選抜を知ったのですか。
太陽 僕は中学、高校とスポーツ強豪校でサッカーをしていました。ほとんどの部員がスポーツ推薦で進学する環境で、僕も3つの大学から推薦入学の打診がありましたが、行きたかった大学からは声がかかりませんでした。それで進路をどうしようかと考えていた時、YouTubeやSNSで総合型選抜を知り、関心を持ちました。

——スポーツ推薦で行けそうな大学は、希望と違っていたのですね。
太陽 僕は、サッカーを通していろいろな経験ができました。自分の実力以上の環境に身を置いたからこそ、成長できたという自負があります。背伸びした進路選択が自分を成長させるという感覚を持っていたので、もう少し上の大学に行きたいと考えました。納得のいく進路選択をしたかったのです。
——現役の時はどこの大学を受けたのですか。
太陽 高校3年の秋に同志社大学の総合型選抜を受けましたが、書類選考も通りませんでした。毎日、サッカーの練習があり、限られた時間の中で準備したので、今思えば当然です。結局、浪人して、総合型選抜で大学を目指すことにしました。サッカー部の同級生二十数人のうち、2~3人以外はスポーツ推薦で大学に進学し、浪人したのは僕一人でした。
——親御さんとしては、浪人せずに推薦で進学してほしいという気持ちもあったのではないでしょうか。
母親 浪人することに関しては不安しかなかったです。推薦で行ける大学の中には地元の鹿児島県の大学もありました。息子は海外に行きたいという夢を持っていたので、「鹿児島の大学なら一人暮らしをしなくていいから、その分のお金で留学すれば」とか、「推薦で大学に入って別の大学に編入する方法もあるよ」とか、現役での進学を勧めました。でも、本人は「環境が人を育てるから、ランクを落として大学に行ったら自分はそこになじんでしまう。やはり上を目指したい」と言い張りました。頑固なんですよ。
総合型選抜での合格を目指す
——鵜木さんが一般選抜ではなく、総合型選抜に絞ったのはなぜですか。
太陽 理由は2つあります。一つは、ずっとサッカーをしていたから、他の受験生に比べて学力が劣っていたこと。もう一つは、ネットでいろいろ調べている時、AOIという総合型選抜専門塾のYouTubeチャンネルで、浪人生でも十分にチャンスがあると聞いたからです。4月にこの塾に入って、オンラインで授業や対策をしてもらいました。
——お母様は総合型選抜のことはご存じでしたか。
母親 太陽は3人兄弟の末っ子なので、上の子たちの受験の時にAO入試という言葉をぼんやり聞いていた程度です。未知の世界すぎて、不安は大きかったですね。総合型選抜は何をもって合格とするのか、明確なボーダーラインがありません。それでも本人の頑張りを見ていくうちに不安は払拭されていきました。
——従来の予備校とは違う、総合型選抜専門の塾に入ることについては、どう思いましたか。
母親 学力の面で、彼が希望するような大学のラインまで持っていくのは難しいだろうという判断は早いうちにできていました。当時は総合型選抜専門の塾はほとんどなかったので、親子でオンラインで説明を受けて、頼ってみることにしました。
——塾ではどんな対策をしたのですか。
太陽 総合型選抜は、志望理由書、小論文、面接の3つの対策が必要です。まずは志望理由書対策として自己分析から始めました。僕はずっとサッカーをしていたので、将来何をしたいのか、大学で何を学びたいのかは、全然わからない状態でした。自分は何に興味があるのか、どういう価値観を持っているのか、徹底的に自己分析するところからスタートしました。
——具体的にはどんなことをしましたか。
太陽 塾の教材を使って、興味、才能、価値観の3つの軸からやりたいことを考えていきました。「興味のあることは何か」といった質問に回答して、メンターの方からフィードバックをもらいます。教材とメンターのフィードバックで自己分析を進めていくと、だんだん自分のやりたいこと、将来の夢が見えてきます。そこに合う大学とマッチングしていきました。
自分との対話から目標が見えてきた
——どのような将来の夢が見えてきましたか。
太陽 最初はMARCHに行きたいとか、海外に行きたいなどと漠然と考えていましたが、自己分析を進めていくと、アスリートのセカンドキャリアの支援をしたいという夢が定まりました。高校の時のキャリア選択の不自由さに違和感があったし、自分だけでなく、広くスポーツ界に共通する課題なのでやってみたいという思いにたどり着きました。
——その夢に合う志望校はどのように探したのですか。
太陽 アスリートのセカンドキャリアについて調べていたら、法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が講演している動画が出てきて、絶対にこの先生のゼミに入りたいと思うようになりました。今は田中先生のゼミで勉強しています。
浪人中に自己分析を始めて、5月には法政大学のキャリアデザイン学部を第1志望に決め、総合型選抜の「キャリア体験(自己推薦)入試」を受けることに決めました。
母親 問答を重ねて自己分析を深めていく作業は、すばらしいなと思って見ていました。アスリートのセカンドキャリア支援は実体験に基づくものだから、志望理由書を書くに当たって説得力があるでしょうし、本人も悩んでいたことなので、追求していくことで自分の中の問題もクリアになっていくのではないかと思っていました。

——志望校が決まってからは、どのように準備を進めましたか。
太陽 6月に鹿児島から京都に移って、塾の京都校に通いました。オンラインでも授業は受けられますが、同期の学生との仲を深めたいとか、いろんな人の話を聞きたいとか考えると、オンラインでは限界があると思ったんです。それで、京都のゲストハウスのドミトリーに月3万円で住むことにしました。
母親 親としては浪人することと、オンラインで塾の授業を受けることは認めていましたが、京都へ移るのは想定外でした。経済的支援は一切していません。行きたいなら自力でどうぞ、と言いました。それで本人がアルバイトをしてお金をためて行きました。そこも含めてチャレンジですよね。
——アルバイトでいくらぐらいためたのですか。
太陽 早朝にコンビニでアルバイトして、15万円くらいたまったところで、京都に行くことを決断しました。京都でもコンビニでアルバイトをしていました。
——京都での1日はどんなスケジュールでしたか。
太陽 朝8時に起きて、9時から午後1時までアルバイトして、本屋に行って、3時から夜10時くらいまで塾で対策とか自習をして帰るという繰り返しでした。スケジュールだけ見るとハードですけど、やりたいこと、興味のあることには熱中できるので、ワクワクしてやれていましたね。塾で一生の友達もできました。
——総合型選抜の自習というと、何をするのですか。
太陽 授業の数は経済状況などに応じて選べるので、僕は週に1、2コマにして、自習を中心にしていました。自主的に進めないといけないので難しかったですが、メンターさんにいつでも相談できたので心強かったです。それに、志望理由書を書くためにアスリートのキャリアについてリサーチし、関連する本や論文を探して読むので、かなり時間を使います。面接対策は、想定質問に対する回答を考えました。
——小論文は書き慣れていないと難しいのではないでしょうか。
太陽 最初はめちゃくちゃ難しくて、作文みたいな文章を書いていました。小論文の教材があり、簡単なものから難しいものへと段階を踏んで練習していきました。60題くらい解いて、最後に過去問をやりました。授業ではメンターが添削してくれます。問題を解いたり、過去問に引用されている本を片っ端から読んでノートに書き留めたりしているうちに、徐々に書けるようになっていきました。
>>【後編】浪人して総合型選抜に挑戦 胸が詰まる母「極限状態、キーボードを打つ手が震えていた」
(文=仲宇佐ゆり)

【写真】浪人生でも総合型選抜に受かるの? 高校時代はサッカーに夢中
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