2024年5月に米国コロンビア大学教育大学院を卒業した、元ビリギャルこと小林さやかさん。アメリカでは認知科学の学びを深め、どうしたら「勉強ができる人」になれるかを研究してきました。今の日本の子どもたちや保護者に伝えたい、勉強に必要なマインドとは何でしょうか。
(※本記事は24年8月、朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長と行ったインスタライブを記事化したものです。写真=本人のインスタグラムから)
>>【前編】慶應大に受かったビリギャルは「地頭が良かった」のか? コロンビア大学院で気づいた日本の教育の問題点
日本人にとって「努力は我慢」
――最新刊の『私はこうして勉強にハマった』には、「勉強に大事なのはモチベーション、戦略、環境」と書かれています。モチベーションはどうしたら上げることができるのでしょうか。
必要不可欠なものは2つ。一つは自分自身が「I wanna do that!」(それ、やりたい!)と思えることです。例えば「慶應に行ったらイケメンがいるかも」というギャルの気持ちは、これに非常に合致しています(笑)。すばらしい教授がいるとか、就職がいいとか、まったく刺さらないことをいくら大人から言われてもダメ。本人が「めちゃ行きたい」「行けたら鼻血が出そう」って思うぐらい、心を揺さぶられて切望していないといけないんです。子ども自身が価値を感じないとモチベーションというものは上がりません。でも、ほとんどの子どもたちは、「なぜこれを勉強しなきゃいけないのか」「何のために受験するのか」がわかっていない。これでやる気が出るわけはないと思います。
――そうですね。親から「このままじゃ、将来大変なことになるわよ」なんて言われてもピンとこないでしょうね。
むしろ、子どもは「お母さんだって別に勉強してこなかったでしょ」と思っていますよ(笑)。もう一つは、「I can do it!」(私はできる!)と思えることです。あまりにも無理だと感じることに対しては、人は「よっしゃ、頑張ろう」とは思えないんですよ。「私にもできる」って思わないと。断言しますが、「自分は勉強ができない」と信じ込んでしまっている子どもたちは、かなりさかのぼってやり直さないと、一生勉強できるようにはなりません。
――「できない」と感じるということは、今やろうとしている勉強の内容が自分にとっては難しすぎるということなのですか。
難しすぎても、簡単すぎても、人はモチベーションが湧きません。だから本当は、自分の能力よりちょっと上のことをやるのが正解なんです。でも、日本の学校は1人の先生に対して30人ぐらいの子どもがいる一斉授業がメインです。教育システム上、それぞれの能力に合わせたタスクを提供することができないんです。
――わからない状態でどんどん授業が進んでしまって、結果として自分には難しすぎる問題をやることになり、「できないや」と思ってしまう。これはやる気がなくなりますね。
「この子、やる気がないな」と思ったら、ぜひいま言った2つのことを思い出してください。そのどちらか、あるいはどちらも欠けている例が、日本では多発しています。なぜかというと、日本人の思う「頑張る」とか「努力する」ということは、「我慢する」に近いからです。
親の重要な使命とは?
――勉強に限らず、「つらいからこそ意味がある」という考え方は日本には確かにありますね。古い根性論みたいなものが染みついているというか。
でもそれは、先ほどのモチベーション理論に当てはめると大きく間違っているんです。日本人の考え方でやれる人は、ごく一握りのめちゃくちゃ辛抱強い人だけです。それはそれですばらしいけれど、少なくとも私は無理だし、たぶん多くの子どもも同じだと思います。大事なのは、「嫌だけど我慢強くやらせる」ことじゃなくて、本人がやりたいと感じていることです。それを無視して親が「勉強させたい」と言うのは、エンジンのかかっていない車を後ろから無理やり押すようなものです。だから親御さんや周りの大人には、その子がエンジンをかけるための適切な言葉をかけたり、環境を整えたりすることに意識を向けてもらえたらと思います。成功体験を重ねることで自信がついて、子どもたちはちゃんと自分で走れるようになるんです。
――親は「ここがダメ」「これもできなかったでしょ」とバツを積み重ねてしまいがちかもしれません。そうではなくて、成功体験を積み重ねていくことで自信がつくんですね。
自発的なモチベーションもないし、正しい努力の仕方も知らない、しかも適正な環境もない状態で頑張れないのは、子どものせいではないと思います。それなのに「地頭が悪い」とか、「集中力がない」とか、まるで本人が悪いみたいに言われてしまうじゃないですか。それが一番怖いし、やめてあげてほしいと思います。お子さんに勉強や努力の仕方を教えてあげてほしいし、親御さん自身も新しいことに挑戦する努力をしてもらえたらと思います。ぜひ親子でチャレンジを楽しんでください。
――最後の質問です。「子どもにとって重要なのは親を味方につけること」と著書でも書かれていますが、子どもの味方になるために、親はどうすればいいでしょうか。
親御さんが、やいのやいの言って子どもにストレスをかけることが、めちゃくちゃ子どもの勉強の邪魔になっていることがあると知っておくことです。勉強するときに重要な脳のワーキングメモリは、容量が決まっています。そこに「お母さん、勉強しろってしつこいな」とか「俺って頭悪いんだよな」などと、ちょっとした雑念が湧いただけで、すぐその容量が減ってしまうんです。それはやる気をそぐというレベルではなく、純粋にパフォーマンスを下げます。ただ「勉強しろ」と言っても、何もいいことはありません。

大人もみんな挑戦しよう
――親自身の不安を子どもにぶつけているだけなのかもしれません。親の声かけの仕方は重要ですね。
日本は結果がすべてというところがありますよね。でも親が結果で判断する考え方でいると、子どもにとってはめちゃくちゃ努力したのに望んだ結果が得られなかったとき、トラウマになってしまいます。
以前話した高校生の女の子が、「私は中学受験で失敗しているから受験が怖いんです」と言って泣き出したんです。中学受験で第1志望に落ちたとき、お母さんに「あんたのことを信じた私がばかだった」と言われたんですって。こういう話って本当に多くて、商業高校に通う男の子がこんなコメントをくれたこともありました。「僕もビリギャルの映画を見て、早稲田に行きたいと思いました。でも親と先生に言ったら、リスクが高すぎるからやめろと言われました。さやかさんもそう思いますか?」と。
「リスク」って何でしょう。不合格のことだと思うんですけど、「どうせ無理だから」とあきらめたときの彼と、めちゃくちゃ頑張ったけど不合格だったときの彼と、どちらが成長できているでしょうか。結果しか見なければ、挑戦は怖いと思うでしょうが、早稲田に受からなくてもほかの大学には受かるかもしれないし、知識力や忍耐力はきっとすごく上がります。さらにその先の選択肢も増えるはずだから、挑戦しないほうがリスクなんです。親御さんに強く言いたいのは、「失敗させてもらえない環境では、絶対に成功もできない」ってことです。
――子どもを信じることが一番大事。親が心配ばかりして、失敗しない人生を送らせてあげようとするのが一番よくないということですね。今後の目標はありますか。
私は日本人の「失敗を恐れて踏み出せない」という、残念すぎるマインドセットを壊したいと思っています。これが自分のミッションだと思っているので、私自身も恐れずに、挑戦する背中を見せていきたいです。小さなことでもいいから、親御さんにも自分の興味があることに挑戦して、楽しんでほしい。大人たちがロールモデルになれば、子どもたちは教えなくても勝手についてくると思います。
小林さやか(こばやし・さやか)/1988年、名古屋市生まれ。中学・高校でビリを経験。素行不良で何度も停学になり、高校2年生のときの学力は小学4年生のレベルで偏差値は30弱だったが、塾講師の坪田信貴氏との出会いを機に大学受験を目指す。その結果、1年半で偏差値を40上げて慶應義塾大学に現役合格を果たした。その経緯を描いた坪田氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』は120万部を超えるミリオンセラーとなり、映画化もされた。大学卒業後はウェディングプランナーの仕事に従事した後、「ビリギャル」本人として講演や執筆活動を行う。21年、聖心女子大学大学院文学研究科人間科学専攻教育研究領域博士前期課程修了。24年米国コロンビア大学教育大学院修了。近著に『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)がある。
(文=鈴木絢子)

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