元ビリギャルこと小林さやかさんは、2024年5月に米国コロンビア大学教育大学院を卒業。卒業と日本への帰国を記念して、朝日新聞「Thinkキャンパス」の平岡妙子編集長とインスタライブを行いました。アメリカ留学で見えてきた、日本人のいいところや、見直したほうがいいこととは? 読者から寄せられた質問についても答えました。
(※本記事は24年8月、朝日新聞「Thinkキャンパス」平岡妙子編集長と行ったインスタライブを記事化したものです。写真=本人のインスタグラムから)
「うちの子には無理」は本当?
――コロンビア大学教育大学院のご卒業、おめでとうございます。オールAで卒業されたとか。改めて2年間を振り返ってみて、いかがですか。
本当に楽しかったですね。ニューヨークは不思議な街で、人にすごくエネルギーがあるんです。ニューヨークにいるだけで元気が出るというか、「いま生きてる!」と感じるパワーがありました。自分の意志を強く持っている人たちに囲まれていたせいもあるかもしれません。本当はそのままニューヨークに残りたいと思ったんですけど、物価が高すぎて(笑)。やりたいこともあるので、今はひとまず帰国して、いろいろな基盤をつくってから、またいつか拠点を海外に持てたらいいなと思っています。
――留学当初は英語も苦労したんですよね。
今も苦労してますよ(笑)。ネイティブみたいに話すことはもうあきらめていますけど、お互いに言いたいことが伝わるようになったのには、自分に自信がついたことが一番大きかったと思います。海外に行くのはずっと夢だったんですが、日本にいるとやっぱり年齢が気になって、「学生のうちに行っておけばよかったな」なんて思いながら、なかなか動けなかったんです。実際に行ってみたことで、「ああ、留学ってこうやって人を変えるんだ」と体感できて、それもすごくよかったなと思います。
――アメリカへ行ってみて、年齢は関係なかったですか。
関係ないですね。最初のころ、「I’m Sayaka. I’m 35 years old」と自己紹介をしたらアメリカ人がみんなびっくりして。「なんでこの子、いま自分の年齢を言ったんだろう」っていう雰囲気になったんです。そのあと、「サヤカ、年齢を自分で言うのは変だよ。言わなくていい」と言われました。本来は全然気にしなくていいのに、勝手に年齢を気にしていたんだって、ニューヨークに行って思いましたね。
――大学院で取り組んだことを、改めて聞かせてください。
認知科学という分野を研究していました。中でも私が興味を持ったのは、マインドセットや人の信念に関わることです。私は「ビリギャル」として知られるようになってから、「さやかちゃんはやっぱり地頭がよかったんだよ」とたくさんの人に言われました。それでだんだん「こういう信念ってどこから来るんだろう」と思うようになりました。多くの親御さんは「ビリギャルはもともと頭がよかっただけ。わが子は地頭が悪いから無理だ」と思い込んでいるんです。そう言われて育ったら、子ども本人も「自分はできない」という謎の信念を持ってしまうんじゃないかと。こうしたことがどうパフォーマンスにつながるのかを知りたくて、そんな論文もたくさん読みました。
――受験する前は偏差値が低くて頭が悪いと周りから思われていたのに、慶應義塾大学に合格したら、「地頭がよかったんだ」と言われてしまう。周りの見方が、子どもに影響を与えるかどうかが知りたくなったのですね。
ビリギャルの地頭がよかったかどうかなんて、もうだれにもわからない過去のことじゃないですか。そんなことにこだわるよりも、いま変えられることがいっぱいありますよね。親御さんが声のかけ方を変えれば、子どものマインドセットは変わるんです。認知科学はそういうことを研究するので、実際に学んでみて、「ほら、やっぱり地頭だけじゃないじゃん!」と思いました。探していた答えがいろいろ見つかったような気がしています。

親が「勉強は苦行だ」と思うのはNG
――事前にインスタで募集した質問にも答えていただければと思います。1つ目は「どうやったら子どもが楽しんで勉強できるようになりますか」という、とても根本的な質問が寄せられました。
これはまず、学ぶってことを親御さん自身が楽しいと思っているかが重要だと思います。
――確かに「勉強っていうのは大変なものなのよ。苦労してやるものなのよ」と思っている親は多いと思います。
親御さんがそんな考えで、子どもだけ楽しむのは無理じゃないですか(笑)。大事なのは、親御さんが新しい挑戦をして楽しんでいる背中を子どもに見せることです。例えば、未経験のレシピに挑戦するぐらいのことでもいいんです。これが認知科学的に一番効果的なやり方なのです。「勉強は苦行だ」と信じている親御さんの子どもは、やっぱり勉強が苦行になると思います。
私も海外に出るまでは、日本の教育はダメだとか、もっとこうするべきだとか思っていたところがあります。でも今は、日本の教育もそんなに悪くないと思うようになりました。国内では相変わらず教育への批判が多いですが、いやいや、日本の子どもたちはめちゃくちゃ賢いからねって。
――日本の子どもたちは勉強ができるのに、「自分はできない」と思っている人がすごく多い気がします。
大学院でこんなことがありました。私は中1で勉強をやめてしまったし、大学も私立文系だったから、数学をちゃんと勉強したことがなかったんです。でも大学院では統計学が必修だったので、これはヤバイと思ってドキドキしていました。それで、教室に行ってみたら、アメリカ人の友達が授業がわからなすぎて泣いているんです。「何がわからないの?」と聞いてみたら、「プラスの記号がイコールをまたぐとマイナスになる理由がわからない」と言うんです。これって日本では義務教育レベルの話ですけど、要するに彼女はそれを受験で問われてこなかったんです。
――それに比べて、日本は基礎の学力レベルが高いということですね。
はい。それなのに残念なのは、日本の子どもたちにここまで自信をなくさせてしまっていることです。すごくもったいないと思いますね。
日本の一般入試はすごくフェア
――次の質問は「どうしたらコロンビア大学教育大学院に入れますか。やはり教育的なバックグラウンドは必要ですか」というものです。コロンビア大学教育大学院にはものすごく優秀じゃないと入れないというイメージがありますが、ご自身では何が一番大事だったと思いますか。
まずはパッションがあること、それからその大学院で何をしたいかが明確になっていることです。アメリカの大学院に入るには、TOEFLやIELTSのスコアよりも、入学時に書くエッセーが一番重要です。自分が今まで歩んできた道と行きたい未来をつないで、この大学院に入りたい理由を言語化する力をめちゃくちゃ求められます。私はビリギャルとしての経験から、その点では揺るぎない動機がありました。それと、もうひとつ必要なのがGPA(成績評価)です。ここで見られるのは、過去に所属していたコミュニティーにどれだけ貢献してきたかということです。
――GPAで見られているのは、過去のテストの成績ではないのですか。
GPAが高いというのは、これまで真剣に勉強に取り組んできたという証拠です。単に成績の良しあしではなく、勉強への姿勢を見ていると私は解釈しています。アメリカの学校は、日本と違ってテストの点数で評価するのではなく、先生が生徒一人ひとりをしっかりと見て、主観的に評価をつけるものだから、真面目にしっかりと取り組んでいればGPAは高いはずなんです。だから残念ながら、アメリカでは「ビリギャル」は誕生できません。私みたいに途中までめちゃくちゃサボって、コミュニティーにもまったく貢献してこなくて「ビリ」だった生徒が、入試で一発逆転するというのは無理なんです。そういう意味では、日本の大学受験の一般選抜は、ほかの国に比べてものすごくフェアだと思いますね。1回の試験で人生を変えることができるから。
>>【後編】「勉強を頑張る」ことは「我慢する」ことではない 元ビリギャル・小林さやかさんが語る、最強の勉強法
小林さやか(こばやし・さやか)/1988年、名古屋市生まれ。中学・高校でビリを経験。素行不良で何度も停学になり、高校2年生のときの学力は小学4年生のレベルで偏差値は30弱だったが、塾講師の坪田信貴氏との出会いを機に大学受験を目指す。その結果、1年半で偏差値を40上げて慶應義塾大学に現役合格を果たした。その経緯を描いた坪田氏の著書『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』は120万部を超えるミリオンセラーとなり、映画化もされた。大学卒業後はウェディングプランナーの仕事に従事した後、「ビリギャル」本人として講演や執筆活動を行う。21年、聖心女子大学大学院文学研究科人間科学専攻教育研究領域博士前期課程修了。24年米国コロンビア大学教育大学院修了。近著に『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)がある。
(文=鈴木絢子)

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