■親のための学部・学科講座
「地方創生」が政府の政策として掲げられて、大学での学びが始まったのは「地域創生学部」だけではありません。過疎化などが深刻な課題となっていることを反映し、2010年ごろから「地域政策学部」「地域協働学部」といった地域系学部が相次いで設置されています。その具体的な学習内容や就職先について紹介します。(写真=大正大学提供)
国立大での開設から私立へと
地域系学部は、地域の過疎化などを背景に1990年代から開設されました。当初は高崎経済大学(地域政策学部)、岐阜大学(地域科学部)、鳥取大学(地域学部)などいくつかの国公立大学に見られる程度でした。しかし政府の政策的な支援もあり、2015〜16年には高知大学(地域協働学部)、宇都宮大学(地域デザイン科学部)、福井大学(国際地域学部)、愛媛大学(社会共創学部)、宮崎大学(地域資源創成学部)と国立大学で開設が相次ぎました。
国公立大に比べると数は少ないものの、最近は愛知大学(地域政策学部、11年度開設、22年度コース再編)、追手門学院大学(地域創造学部、15年度開設)など、私立大でも開設されています。
東京の大学でも、地方創生に貢献できる
地域系学部は、地域が抱える課題を解決したり、地域のリーダーとして活躍したりする力を身につけられる学部として注目されています。地方都市にある大学が多く、卒業後に地域に貢献できる人材を育成するのが主な目的です。経済学や経営学の理論を学んだうえで、地域の課題を見極め、それを解決したり、新たな価値を創出したりすることに取り組みます。
東京の大学として初めて16年度に地域創生学部を開設したのが、大正大学(東京都豊島区)です。
「東京と地方を結ぶ新たな経済システムをつくることで、地域創生を実現するビジョンをもって開設しました。地方の学生が東京で学んで、ビジネスのネットワークをつくって地元に戻るという取り組みは、大学として初めてのことだったと思います」
そう話すのは、地域創生学部の浦崎太郎教授です。同学部ができた背景には、大正大学が持つ歴史もあったと言います。
「大正大学は仏教連合大学として設立され、もともと全国各地にお寺を通じたネットワークを持っていました。東日本大震災の際に宮城県南三陸町の復興支援に関わり、深い縁ができたのですが、この経験が気づきのきっかけとなりました。我々が持つ伝統的なネットワークをうまく生かせれば、東京の大学としても地方創生に貢献できるのではないかと考え、地域創生学部を開設することにしました」
現場に足を運び、PRのアイデアを出す
授業では経済学や経営学、社会学の理論を学びますが、それは座学のみにとどまりません。「現場に足を運び、実践するところまでを行います。わかりやすい例えでいうと、“行動する経済学部”といったところでしょうか」と浦崎教授。例えば、浦崎教授が担当したプログラムでは、全国の離島の市町村で構成する日本離島センターと連携し、同センターが毎年、東京都内で開催している、離島をPRする「アイランダー」というイベントに関わりました。
「このプログラムのゴールは、学生がイベントのブースに立って離島のPRに貢献することです。担当する離島に実際に足を運んだり、上級生に理論的な面で知恵を借りたりしながら、ブースづくりやお客さんの呼び込みなどについてアイデアを出しました。学生たちは『今まで生きてきた中で一番頭を使った』と話していました」(浦崎教授)
2年次には南三陸のほか、徳島県阿南市、新潟県南魚沼市など8カ所の実習地から2カ所を選び、それぞれ2週間ずつ教員とともに現地に滞在して、地域と密に関わります。3年次には2年間の経験を生かし、連携している自治体の中から自分の興味・関心や卒業論文のテーマを念頭に、行きたい地域を選び、実習先を決めます(22年度のプログラム。今後、変更の可能性があります)。
「テーマの設定、実習とも簡単ではありません。しかし、地域に深く入り込み、課題解決に挑むことから得られる学びは大きく、この経験は就職活動でも堂々と語れます。実習の話が企業から高く評価された、という話はよく聞きます」(同)
地域の経済をつくり出す人材に
22年3月の卒業生のうち、地方に就職したのは3割程度。東京にいながら地方と関わる仕事をしている卒業生を含めると、約5割になるそうです。
「開設当初は、卒業生が地元に帰るということを目的の一つにしていましたが、今は自分を最も生かせる現場で働くことを優先してもらうようにしています」(同)
一般的に、地域系学部の卒業生は地方公務員になるケースが多いのですが、同大学ではサービス業や情報通信業などの一般企業にも就職しています。
「豊富な実習体験から、地域の現場に入ることに抵抗がない学生が多い。地域の特性に合わせて経済をつくり、回すことを目指す学生が少なくないようです」(同)
実務に直結した学びは就職においても強みとなります。将来は幅広い分野や、様々な地域での選択肢が広がりそうです。
(文=中寺暁子)
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