■親のための学部・学科講座
少子化・高齢化の進展や、首都圏への人口の一極集中による地方の急激な人口減少が深刻な問題となっています。地方創生が重要な政策となる中で、大学にも地域の拠点として、活性化や人材を育成する役割が期待されてきました。そうした中で、地方創生について学ぶ学部の創設が相次いでいます。地域の人や子どもと交流する学びは、町おこしに貢献する学生を育てています。(写真=淑徳大学提供)
東京の大学でも「地域創生」
「地方創生」とは、地域の特徴を生かして、自律的で持続的な社会を作り出すことを目指した政策です。2014年には当時の安倍晋三 内閣が「地方創生」を政策として掲げ、地域が抱えるさまざまな課題の解決や活性化を目指してきました。文部科学省は、15年から「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」を実施し、大学と自治体や企業が協働して地域産業を生み出すなど、地域を担う人材の育成を推進しています。
こうした流れを受け、地方の国公立大学を中心に、地方創生について学べる新しい学部が開設されました。最近は首都圏の私立大でも開設の動きが出ており、16年度に東京の大学としては初めて大正大学が、23年度には淑徳大学が埼玉キャンパス(埼玉県三芳町)に、「地域創生学部」を開設しました。
魅力を発見し、商品開発やイベント運営まで学ぶ
開設に携わった淑徳大学地域創生学部の矢尾板俊平学部長は、こう話します。
「少子化・高齢化や人口減少が進展し、社会が縮小していく日本ですが、希望となるのは自分たちの地域が持っている魅力を再発見することです。それこそが地方創生の原点と言えます。大学としてさまざまな地域と関わりながら、地域の潜在力や資源を活用して発展に貢献していきたい。そしてそれができる人材を育てたいという思いで、地域創生学部を開設しました」
同学部で学べることは、主に3つあります。
一つ目は、基本となる地方創生の政策や制度。2つ目は、経済学をベースとした地域の産業や企業活動の理解。3つ目は、社会学をベースとした地域社会の課題や構造、そして地域の歴史や文化についてです。基礎知識を身につけた上で、地域資源を生かした新商品の開発や、地域の交流企画の運営などにも携わります。
「経済や経営の知識に加え、地域社会や文化の視点も学べるので、地域に合わせて本当に必要な解決策を提案する力が身につきます。それぞれの基本を学びながら、自分の興味や関心に基づいて、自分なりのテーマに取り組んでほしいと思います」(矢尾板学部長)
子どもたちと共に地域づくり
同学部では、カリキュラムの約3割を地域実習関連項目の時間に割いています。1、2年次は日帰りで訪問、3年次は2週間程度、地方に滞在し、聞き取り調査などを行って、地域が抱える課題を把握し、解決方法の提案などをしていきます。
「1、2年次では、東京圏の地域性を学ぶため、キャンパスがある埼玉県三芳町をはじめ、東京圏の地域で実習を行います。3年次では連携協定を結んでいる茨城県笠間市、三重県明和町、静岡県小山町、同松崎町など全国の地域に滞在し、それぞれの地域の課題解決に挑戦します。例えば地域の特産品を使って新しい食べ方を提案し、それをどう販売するのかなど、課題解決のアイデアを出すだけではなく、実践して地域に貢献できるところまで踏み込みたいと思っています」(同)
こうした地域実習を通して、地域特性の発掘力、調査・データ分析力、人間関係の形成力、プロジェクト実行力・継続力などを身につけていきます。
また、地域実習の中で、矢尾板学部長が重視しているのは、地域の子どもたちとの交流です。
「地方創生を考えたとき、『子どもの育つ環境』は大切なキーワードになります。地域実習では、地域の人にとっては当たり前のことでも、外から見ると価値があるようなことを地域の人々と一緒に再発見をしていきます。学生と子どもたちが共に地域づくりをすることで、子どもたちが地元に愛着をもち、将来も住み続けたい、関わり続けたいと思ってもらえることを目指したいです」(同)
実習先が「ふるさと」に
実習先は、学生が将来移住したり、仕事をしたりする可能性がある地域ともいえます。
「実習先である東京圏と地方圏のそれぞれが、学生たちにとってホームタウンになってほしいと思います。住むまではいかなくても、定期的に旅行で訪れる、ふるさと納税するなど、何らかの形で生涯にわたって関わっていけるようになるといいです。ホームタウンが複数あることは、人生の選択肢を増やし、人生を豊かにすることにつながると思います」(同)
卒業後の進路として想定しているのは、自治体の公務員や、地域産業を支える企業、地域の文化財を活用する団体職員、地域性の後継者など。地域の潜在力を発揮させながら社会開発に貢献していける人材を育てることを目指します。
地域の活性化に貢献することは、日本の未来に希望をもたらすことにつながります。地域創生学部での学びは、大きなやりがいを感じられるのではないでしょうか。
(文=中寺暁子)
【親のための学部・学科講座】地域創生学部(後編)はこちらから

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