■先輩パパ・ママの受験体験記
>>【体験談】カリスマスタイリスト・大草直子さん 大学受験直前の息子に書いた一通の手紙<前編>
スタイリスト、編集者として幅広く活躍する大草直子さん。23歳の長女と18歳の長男は、今年の春、それぞれ大学院と大学に進学しました。朝日新聞「Thinkキャンパス」の平岡妙子編集長のインタビュー後編では、受験期と反抗期が重なったときの対処法、子どもたちのファッションに対する考え方などについて、話を聞きました。(写真=大学の入学式で/本人提供)
「絶対に受かる」と信じる
――この春、息子さんが大学を受験したということですが、第一志望の合格発表までは、どのような心境で過ごしましたか。
受験した大学の中で、第一志望の合格発表が最後だったんです。それまでに何校か合格はしていたので「もう浪人はないね」という安心感はありましたが、親として「息子が決めた目標を達成するところを見たい」という思いもありました。だから第一志望に合格したと連絡をもらったときは、とてもうれしかったです。月並みですけど、本当によくやったな、と思いました。
――合格できるか、不安な気持ちはありませんでしたか。
私は100%合格すると信じていましたし、そういう「念」を送るのも親の役割だと思っていました。模試では、第一志望校の合格可能性がD判定だったこともあります。でもその後は本人も、自分を追い込んで、やりきったという実感があったはずです。そうじゃなければ、18歳の思春期の男の子が母親をハグして「ありがとう」なんて言いませんよ。それに、そこまでやりきったのであれば、万が一、第一志望が不合格で、第二、第三志望の大学に通うことになったとしても、そこで自分がやりたいことを見つけられるだろうとも思っていました。
――ご主人は外国の方ですが、息子さんの大学受験にはどのように関わっていましたか。
とにかくびっくりするくらい、子どもを信じていましたね。もちろん、日本の大学の学部や入試のシステムを完全に理解しているわけではありませんし、言葉で多くを語るわけではないのですが、1ミリも疑う余地なく、「すべてうまくいくから大丈夫」と信じていることは、見ていてわかりました。生活も子どもとの会話もすべていつも通り。普段の生活と同じ過ぎて、受験直前の息子をスノボに誘っていたくらいですからね。さすがの息子も「今はやめて」と断っていましたけど(笑)。
――夫婦の意見が割れることは、ありませんでしたか。
まったくなかったです。夫と私の受験に対するスタンスは、息子にとってちょうどいいバランスだったんじゃないかと思います。
親子でたくさん会話する
――自分の価値観を子どもに押し付けたくはないけれど、黙って見守るのも難しいという保護者の声も多く聞かれます。保護者世代と今の大学受験では違う点も多いのですが、親はどう対応すればいいと思いますか。
受験って100人いれば100通りのやり方があると思うので、親がいいと思うことを「これがいいんじゃない? やってみたら?」と勧めるのも、悪くないと思いますよ。
大切なのは、一方的に親の意見を押し付けるのではなく、親子でたくさん話をすること。「お父さんはこの大学に行かせたい」「お母さんはこっちの大学がいいと思う」というように夫婦で意見が分かれる場合も、単なる意見の食い違いで終わらせず、子どもと一緒になって話してみればいいんじゃないでしょうか。「お父さんがこう言うんだけど、あなたはどう思う?」って。
――受験期が反抗期の終わり頃と重なるのも、難しいところですよね。大草さんのお子さんも反抗期はありましたか。
ありました、ありました! もちろんですよ。将来のこととか深い話になると「うざっ」とか言うんですよね、思春期の子って。
――「うざっ」ですか(笑)。そう言われたら、どうしたらいいのでしょうか。
反抗期の子どもと、ことさら仲良くしようとする必要はないと思いますし、みんなで肩組んで笑おうとか、そんなことをする必要もないと思います。でもやっぱり、コミュニケーションや会話は必要ですよね。話をしないことには、受験は前に進めません。志望校選びのタイミングで出願費用の予算について一緒に話してみるとか、「模試を受けるからお金を振り込んで」と子どもに言われたら、模試について質問をしてみるとか、受験時に必ずあるお金に関するやりとりの中で会話のきっかけを探すのもいいと思います。
でも本音を言えば、反抗期は入試が終わるまではお休みにしてほしいですよね(笑)。「とりあえず今はいったん反抗期をやめて、大学に入ったらまた戻ればいいんじゃない?」と子どもに伝えてみるのはどうでしょう。受験は会話するチャンスですよね。話すことがたくさんありますから。
日々の服選びが決断力を育む
――大草さんの家族のようなフラットな親子関係なら、そんな提案もできそうですね。ところで大草さんはファッションのプロですが、お子さんの服装にはアドバイスするのですか。専門家なので、口出しをしたくなりませんか。
聞かれればもちろん、アドバイスはしますよ。でも、ファッションって個人のカルチャーであると同時に、決断でもあるんです。ファッションは決断の連続です。何を着るか、どう組み合わせるかを親が決めてしまうと、子どもは大きな決断ができなくなると思うので、私は子どもたちが小さい頃から着るものは子ども自身に選ばせてきました。
――子どもに任せてきたのですか。
たとえ冬にサンダルを履きたがっても「寒いからダメ」とは言わず、好きなようにさせてみる。そうすると子どもは自分自身で下した決断から、「冬のサンダル履きは寒いから、やめておいたほうがいい」ということを学びます。上から下まで着るものを全部親に決めてもらっている子が、大学受験になっていきなり「志望校を決めなさい」と言われても、決断はできないんじゃないでしょうか。
――ファッションも大学受験も人生も、好きなこと、やりたいことを自分で選び、そこからいろいろなことを学んでいく。それが大草さんのスタンスなんですね。
そうですね。自分でやってみないとわからないですから。子どもから「決断する」という行為を取り上げないことは、大事だと思います。
――来年は下の娘さんの高校受験ですね。
下の娘も上の2人とは違う個性がありますし、お姉ちゃん、お兄ちゃんが受験でいい結果を出したことがプレッシャーにもなっているでしょうから、そのあたりをどうしようかな、と考えているところです。高校受験は精神面でも体力面でも大学受験とは違うので、また情報を集めながら、少し手助けができればいいなと思っています。
>>【体験談】カリスマスタイリスト・大草直子さん 大学受験直前の息子に書いた一通の手紙<前編>
大草直子(おおくさ・なおこ)/ファッションエディター。東京生まれ。立教大学卒業後、出版社でファッション誌の編集に携わる。独立後は編集者、スタイリストとして活動し、洗練されたスタイリングと飾らない人柄が、多くの女性から支持を集める。現在は2019年に立ち上げたウェブメディア「AMARC(アマーク)」で編集長を務め、ファッション、美容などの情報を発信するほか、さまざまなイベント出演や有名ブランドとのコラボ商品を手がけるなど幅広く活躍中。ベネズエラ人の夫と長女、長男、次女の5人家族。
(文=木下昌子、写真=本人提供)

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