■先輩パパ・ママの受験体験記
埼玉県在住の佐藤真理子さん(仮名)の長女、香さん(仮名)は、2025年3月、憧れの医学部に一般選抜で合格しました。「医学部に行きたい」と言う娘のことを、「夢で終わるのだろうな」と最初は思っていました。金銭的にも、普通の一般的な会社員家庭では、高い私立大学医学部の学費は払えません。あきらめさせることも必要かなと思ったこともあったそうですが、どのように娘を励まして、支えてきたのでしょうか。受験までの経過や合格が決まるまでの心境、親としてサポートしたことなどを聞きました。【体験記:母親編】(写真=面接試験用に母の真理子さんが用意した資料ファイル。幼い頃からの賞状や作文、書道の作品などが年代順に整理されて収められている。本人提供)
コロナ禍に成績が上昇
香が通っていた私立中高一貫校は超進学校というわけではありませんが、面倒見がよく、中学2年から設置される「特進クラス」に入ると、難関大合格に向けた熱心な指導が行われます。香はなんとかそこに滑り込むことができました。
折しも中2のスタートと同時に、コロナ禍による1回目の緊急事態宣言でオンライン授業になりました。外出ができない分、勉強に集中し、自粛期間明けの最初のテストで、それまで学年30位前後だった成績が一気に5位まで上がりました。さらに次のテストではなんと1位に。担任の先生から、「この調子なら医学部を目指せるよ」と言ってもらい、火がついたようです。
実は私の2人目の子ども、香にとって2つ年下になる弟は難病を抱えています。小さい頃から弟の通院に香を連れて行くことも多く、その影響か、「将来はお医者さんになりたい」とよく言っていました。ただ、勉強がものすごくできるほうではなかったこともあり、夢で終わるのだろうなと思っていました。しかし、学校側が応援してくれるようになったことで、私も夫も金銭面の準備などを含め、医学部受験を真剣に考えるようになりました。
高校進学が間近になったある日、香が「医学部専門塾に入りたい」と言ってきました。通っている個別塾にアルバイト講師として順天堂大学の医学部生が来たことや、その医学部生から「自分が受験時代に通っていた塾だけど、すごくよかった」と言われたことを聞きました。「医学部受験専門の塾がある」ということも、それまではよく知りませんでした。
塾は東京・お茶の水にあり、自宅の最寄り駅から電車で約1時間かかります。大手塾に比べて費用も高額です。でも、娘は「行きたい」の一点張りでした。そこで入塾の面談では、うちはごく一般的な会社員家庭で、払えるお金に限りがあることや、必要最低限の授業だけを受講し、別料金がかかる合宿や夏休みなどの講習は申し込まない予定であることを話し、娘にも塾にも納得してもらいました。
医師以外の道もすすめたけれど…
本人には話していないのですが、塾には「医学部合格が難しそうだったら、こっそり教えてほしい」と伝えました。塾からは「医学部受験は厳しい世界」と言われていました。どんなに頑張っても乗り越えられない場合もあると思いましたし、そうなった時は本人にあきらめさせることも必要です。
勉強は本人と塾に任せていました。香は小さい頃から負けず嫌いで、「運動ができないから、球技のクラブに入りたい」「字が上手に書けないから、書道を習いたい」などと言ってくる子でした。一方で、本人の意思ではないピアノ教室に入れた時は、練習を嫌がりました。ですから小学校の頃から、勉強については香の個性や自主性を尊重すると決めていました。その分、私は食事などの健康面や精神面のサポートに徹しました。
香は希望していた塾に行けるということで、意気揚々と通い始めました。通っていた高校は医学部受験をする生徒は少なく、学校推薦型選抜など年内入試で大学が決まる生徒も多かったので、比較的のんびりしていました。その点、塾は医師を目指す生徒ばかりです。塾からの帰宅後も、勉強していました。
ある時、部屋で一人で大泣きしていました。聞くと、「塾のテスト結果が悪かった」と落ち込んでいるのです。このまま心が折れて、ダメになってしまうのではないかと思い、「お医者さん以外にも素敵な仕事はたくさんあるよ。無理をしなくていいんじゃない?」と声をかけました。
でも翌朝、起きてきた娘はケロッとしているのです。そして、「間違った問題を教えてもらいに、塾に行ってくるね」と出かけていきました。その様子を見て、「香は大丈夫。万が一、心が折れかけたら、親が支えてあげればいいのだ」と覚悟を決めました。
合格した私大は、学費が高いため辞退

とはいえ、模試では合格ラインになかなか届きませんでした。初めは費用面から国公立大学を第1志望にしていましたが、「勉強が間に合わない」と高校2年の時に「私立専願に変更したい」と泣きつかれました。高額な学費は払えないので、自宅から通学可能で、原則として、6年間の学費が3000万円以下の大学にターゲットを絞ることにしました。この頃から、順天堂大学が志望校の第1位になりました。塾から見えるキャンパスの写真をお守りのように、いつもポケットにしのばせて、よく見ていました。
私は好物を入れた塾弁を持たせ、家では香の好物の果物を準備して待っていました。秋以降は毎日、塾に通うようになり、帰宅は夜の10時から11時。最寄り駅まで毎日、迎えに行きました。「ここまで頑張っているのだから、何とか合格させてあげたい」と願う日々でした。
年が明けて2025年。1月半ばから受験がスタートしました。希望する大学の模試の判定は最後まで「C」(合格可能性40~60%)止まりでした。厳しい戦いになると覚悟していました。
前半戦の国際医療福祉大学、東邦大学、東京医科大学は、1次試験で不合格でした。一方、「実力試しに」と受けた帝京大学の1次試験は合格しました。これは本当にうれしくて、2人で跳び上がるほど喜びました。
これが自信につながったのか、後半戦の日本大学、順天堂大学はどちらも1次試験は合格しました。しかし、2次試験は両校とも補欠合格。どうなるかわからない、繰り上げ合格を待つ状況になりました。気分は、奈落の底に落とされたようでした。
塾からは、「(補欠待ちをしていても来る保証はなく)正規合格がないのは厳しい」と後期試験をすすめられました。そんな矢先、2次試験が不合格だった帝京大学から補欠繰り上げ合格の速達郵便が来ました。帝京大学は「補欠合格」を出さず、いきなり繰り上げ合格の連絡が来るシステムです。
初めての合格ということで、香は心から喜んでいました。一方、私の気持ちは複雑でした。帝京大学は学費が高く、合格しても入学できないのは、最初からわかっていました。合格を辞退しなければいけないのですが、その決断がなかなかできず、本当に苦しかったです。この時ばかりは、「お金があればこの子を入学させてあげることができるのに、世の中、不平等だな」「そもそも、わかっていたのになんで受けさせたのだろう」と逡巡(しゅんじゅん)し、涙が出て落ち込みました。
振り返れば「捨て金」がゼロ
その後、さらに厳しい状態になってしまいます。後期試験を受けた大学も全滅だったのです。この時、すでに3月の半ば。香は「大丈夫だよ」と明るく振る舞っていましたが、それが逆に痛々しかったです。塾からは浪人を前提に、次年度の話が来るようになりました。
「そろそろ来年のことを本人と話さなければいけないな」と思い始めていました。そんな矢先、忘れもしません、3月26日に順天堂大学から補欠繰り上げ合格の連絡が来たのです。職場にいる時に香からLINEが来ました。驚いてしまって、スクロールをする手が震えました。さらに翌日には、日本大学からも繰り上げ合格の連絡が来ました。まさかの展開が続き、喜びもひとしおでした。
第1志望だった順天堂大学に入学できるとは、夢のような出来事です。でも精いっぱいやったことが結果につながったのかなとも思うのです。私は受験勉強について何も手伝えない中、唯一、順天堂大学の2次試験のサポートを頑張りました。面接の資料の準備のために、小学校からの通知簿や賞状、表彰状などを探して、ファイルなどにまとめる作業などをしました。2人で「こんなことも頑張ったんだね」などと話して、娘を励ましながら取り組んだ時間が本当に幸せでした。
合否結果がわかるまで精神的にしんどくもありましたが、いいこともありました。正規合格が一つもなかった分、押さえの大学に入学金を入れる必要がなく、いわゆる「捨て金」がなかったのです。
香は今、充実した大学生活を送っています。その姿を見ていると、心からよかったなと思います。同じように医学部を受験するお子さんの親御さんには、「頑張っていれば、最後の最後に合格がつかめることもある」と知ってもらえたら、うれしいです。
将来は医師として困っている人のために懸命に貢献してほしいと期待します。先生や友だち、周りのお世話になった方々に感謝することを忘れず、これからも自分の人生も大切にしながら、自らの道を歩んでいってほしいと思います。
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(文=狩生聖子)
【写真】医学部の面接試験用に、母が用意した資料ファイル
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