「花のお酒」に近畿大農学部で挑戦 学内で採ったジャスミンやキンモクセイの酵母で新たな味を開発

2025/11/16

■現役大学生による 学部・学科紹介

化学や生物を学びたい場合、大学では理学部や理工学部の化学科、生物学科などで学ぶことができます。さらにそれらの知識や技術を食品や医薬品、健康増進などに応用する方法を学ぶのが、農学部の中にある「応用生命化学科」です。学生たちはどのように学んでいるのでしょうか。(写真=採取した花の酵母からお酒を造る研究をする近畿大学農学部応用生命化学科4年の長尾愛美さん、近畿大学提供)

化学から生き物を理解する

近畿大学農学部応用生命化学科4年の長尾愛美(まなみ)さんは、子どもの頃から生き物が好きで、中学生になると化学にも興味を持つようになりました。

「高校生になって大学進学を具体的に考え始めた時に、生物を学ぶ道に進むのか、化学にするのか、迷いました。そんな時に担任の先生が生物も化学も学べる『応用生命化学』という分野があると教えてくれたんです。自分でも調べてみたら、近畿大学の応用生命化学科は、化学や生物の知識を応用して商品をつくったり、企業と共同研究したりすることがわかり、面白そうだなと思って進学を決めました」

農学部の入っている近畿大学奈良キャンパス(奈良市)周辺は、豊かな自然に恵まれている

近畿大学の応用生命化学科は、化学をベースに生き物を理解し、マツタケの人工栽培や新規酵母を使った酒類醸造、化学合成や分析技術を活用した創薬など、生活に関わる研究に取り組みます。1、2年次は生物化学、分析化学、無機化学、有機化学など化学を中心に学び、3年次以降は発酵化学、応用微生物学、食品微生物工学、食品機能学、栄養化学など生活に結びつく応用分野を学びます。

 長尾さんは入学後、勉強が思っていた以上に大変で、苦労しました。

 「大学は授業に出席してレポートを提出すれば、単位を取れるのかと思っていましたが、試験で評価が決まる授業が多かったので、試験前の勉強が大変でした。特に苦労したのが化学系の授業です。高校までの化学とは違って理論から細かく学んでいくので、1回授業を聞いただけでは理解できないこともありました。ただ、試験があると勉強せざるを得ないので、毎回、試験勉強を通して理解を深めることができました」

キャンパスにある花を使って酒造り

応用生命化学科では、化学実験のほか、生物学実験や物理学実験など、講義と関連する実験にも取り組みます。2年次には100枚の実験レポートを提出する授業もありました。

上垣ゼミの様子

応用生命化学科は企業との関わりが多いのも特徴です。

 「3年次の『醸造・酒造学』の授業では、酒造メーカーから講師の先生が来校し、日本酒やウイスキーの造り方などを教えてくれました。また、食品会社や製薬会社に商品を提案する授業もありました。期限がある中で新しい商品を考えたり、限られた時間で提案を発表したりするのは難しいことでしたが、終わった時には自分の成長を実感できました」

3年次の後期からは応用微生物学研究室に所属し、お酒を造るための酵母の開発に取り組んでいます。使用するのは、キャンパス内で採取したジャスミンやキンモクセイといった花の酵母です。

キャンパス内の花々から酵母を採取する

「キャンパスは自然豊かな環境にあるので、さまざまな花から酵母を採ることができます。従来のお酒にはない味や香りを出すために、酵母の改良方法などを研究しています。実際の研究はうまくいかないことが多く、同じような作業の繰り返しだったり、時間がかかったりして大変ですが、自分が研究した方法がお酒の風味に影響を及ぼしていることがわかった時には、面白さを感じます。お酒を造るというのは、なかなかできない経験だと思うので、応用生命化学科を選んでよかったです」

近畿大学の応用生命化学科では、2006年に酒類試験製造免許を取得しているため、お酒の製造が可能です。過去には応用微生物学研究室と奈良県、酒販会社、果実園の産学官で「柿ワイン」を開発し、商品化しています。同研究室の教授で、応用生命化学科の上垣浩一教授は、こう話します。

応用生命化学科の上垣浩一教授

近畿大学は実学教育を重視していますので、当学科でも積極的に企業との共同研究を行っています。企業との研究によって社会に役立っているという実感を持つことができ、グループで協力しあいながら企業への提案を行うことで、自分で考えて実践する力を身につけることができます」

就職先は食品・化学系メーカーが多い

長尾さんは大学卒業後、高校の教員になることが決まっています。

「私が高校生の時に担任の先生から応用生命化学科のことを教えてもらったように、生徒の将来の選択肢を広げてあげられるような教師になりたいです。私の研究テーマである微生物の面白さについても伝えていきたいです」

奈良キャンパスにある多目的ホール

応用生命化学科の卒業生の就職先として多いのは食品メーカーで、最近は製薬会社への就職も増えています。また、研究職を目指して大学院に進学する学生も増えています。

「応用生命化学科は、発酵食品やお酒のほか、マツタケの人工栽培、食物アレルギー、農薬など、非常に幅広い分野の研究室があります。身近なテーマが多いので、化学が好きであれば興味・関心を持って学んでいけると思います」(上垣教授)

上垣教授に相談しながら研究を進める

応用生命化学科と似た学科として、応用生命科学科があります。どちらも農学部の中にあることが多く、国立大学では応用生命科学科として、北海道大学、東京大学(応用生命科学課程)、静岡大学、名古屋大学、京都大学などに設置されています。応用生命化学科は化学を基本としているのに対して、応用生命科学科は生命科学を基礎と実学の両面から学んでいきます。

北海道大学農学部応用生命科学科は、植物育種学、遺伝子制御学、応用分子昆虫学、分子生物学、分子酵素学、生態化学生物学、分子環境生物科学、ゲノム生化学といった分野を学び、3年次後期から所属する各研究室は、イネの品種改良や昆虫、植物など多岐にわたります。

私立大学では、東京農業大学(応用生物科学部)、名城大学(農学部応用生物化学科)などがあります

 応用生命化学科、応用生命科学科、応用生物化学科は、同じような名称でも、学ぶ分野が幅広く、研究室も大学によって特色があります。興味がある人は、その学科にどのような研究室があるのかというところまで、よく調べることをおすすめします。

(文=中寺暁子、写真=近畿大学提供)

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【写真】近畿大農学部が挑む“花のお酒” 学内の花々から酵母を採取する

農学部の入っている近畿大学奈良キャンパス(奈良市)周辺は、豊かな自然に恵まれている
農学部の入っている近畿大学奈良キャンパス(奈良市)周辺は、豊かな自然に恵まれている

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