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2024年10月、イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」が「世界大学ランキング2025」を公開しました。このランキングはいったい、どんなものなのでしょうか。また、世界の大学の中で、日本の大学はどのような位置にいるのでしょうか。日本の偏差値とは違うランキングが見えてきます。それはなぜなのか、専門家が解説します。(写真=Getty Images)

世界中の大学をランク付け

世界の主要大学をひとまとめに評価する、大学ランキングと呼ばれるものがあります。前身から数えれば20年以上の歴史を持つ3つのランキング、イギリスの高等教育専門誌「Times Higher Education(THE)」による「World University Rankings(THEランキング)」、中国の上海交通大学が始めた「世界学術ランキング」、2010年にTHEと袂を分かったQS社による「QS World University Rankings(QSランキング)」が、よく知られています。

その中で、日本で特に注目されているのが、「THE世界大学ランキング」です。ランキングを作成・発表する各機関は、それぞれ独自の手法(methodology)で大学を評価していますが、「THE世界大学ランキング」は、「教育」「研究環境」「研究の質」「産業界」「国際性」の5項目を柱に、各項目を細分化して重みと点数を付け、総合点で順位を決めています。

24年10月に公開された最新の「THE世界大学ランキング2025」では、1位が9年連続で英オックスフォード大学、2位は米マサチューセッツ工科大学(前年3位)、3位は米ハーバード大学(前年4位)、4位は米プリンストン大学(前年6位)、5位は英ケンブリッジ大学(前年5位)と、アメリカとイギリスの大学がトップ10を独占しました。

「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院の調(しらべ)麻佐志教授は、ランキングの見方について、このように語ります。

「大学の評価は、基準や分野によって大きく変動すべきものです。そのため、大学を総合的に判断すること自体が難しく、こうしたランキングはせいぜい目安と捉えておくのがいいでしょう。総合ランキングよりも、一つひとつの指標の評価や分野ごとの評価を見るほうが、どの項目やどの分野に強い大学なのかがある程度わかるので有用です。ただ、世界的に見て、たとえば200位までに入っている大学なら、まず間違いなく良い大学と言えるのではないでしょうか」

順位は算出によって変わる

日本の大学は、28位の東京大学がトップで、55位に京都大学が入り、100位以内に入っているのは、この2大学だけです。

「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成、東京工業大学と東京医科歯科大学は2024年10月に統合して東京科学大学

25年版は前年と大きな変動はなく、表のような順位です。しかし、24年版では東京大学が前年の39位から29位、京都大学が68位から55位、東北大学が201~250位から130位、大阪大学が251~300位から175位など、日本の大学が順位を上げました。その理由を調教授は、次のように話します。

「残念ながら日本の大学が大きく進化したわけではなく、評価の手法が変わったための躍進です。24年版から研究の質の計算方法が変更され、論文1本あたりの引用回数(FWCI)の比重が下がり、3つの指標と、産業界分野で特許に引用された論文数が新しく導入されました。この新しい指標が、日本の大学が相対的には得意な内容だったので、得点が高くなりました」

注目の日本の大学は?

日本の大学に注目すると、25年版では120位に東北大学、162位に大阪大学、195位に東京工業大学(現・東京科学大学)が入っています。201位以下には名古屋大学、九州大学、北海道大学、筑波大学、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)と国立大学が続いています。

「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成

公立大学は601~800位に会津大学がランクインしています。

「国際性豊かな大学で、研究力のある教員がいろいろな国から集まっています。日本にありながら多くの教員が国際的な研究ネットワークに組み込まれている点が評価につながったのでしょう。情報系の分野を専門的に学びたい学生にとって、面白い選択となる大学だと思います」

私立大学は601~800位に順天堂大学慶應義塾大学、801~1000位に東京医科大学早稲田大学がランクインしています。

「医学部を併設していると、研究面での評価が高く、結果として大学全体のランキングが上位になる傾向が国内では見られます。また、影響力の高い論文を書く教員が少数でも所属していたり、国際的な大規模研究プロジェクトに継続的に参加する研究者がいたりすると、ランキングが押し上げられるケースがしばしば見られます」

「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成

1001~1200位には千葉大学藤田医科大学浜松医科大学などがランクインしています。

「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成

関西では、近畿大学が私立でトップ

1201~1500位にランクインしている近畿大学は、関西エリアの総合大学(医科大学を除く)の中では55位の京都大学、162位の大阪大学、601~800位の神戸大学に次ぎ、私立大学ではトップになっています。近畿大学の世耕石弘・経営戦略本部長は「このグローバルな指標は、大学として強く意識している。これからは海外でのランキングを劇的に上げていきたい」と話します。

「THE世界大学ランキングは、世界基準で大学の教育・研究力を客観的に評価しているもので、大学の国際競争力の根拠となります。国内でしか通用しない偏差値などの物差しとは全く違います。近畿大学は、私大では関西トップであることを、受験生や一般の方にもっと知ってもらいたいですね」

関西の私立大をグルーピングして言われている「関関同立」「産近甲龍」というランク付けは、THEの世界ランキングの順位とは大きく異なっているのです。

アジアトップを明け渡している現状

日本の大学も健闘しているとはいえ、世界に水をあけられているのも事実です。英米はもとより、アジアでも12位の清華大学(中国)、13位の北京大学(中国)、17位のシンガポール国立大学(シンガポール)に上位の座を明け渡しています。その理由を調教授は「かける資金が圧倒的に違い、それが研究や人材確保の差になって表れている」と話します。

もう一つ問題なのは、日本は大学院に進む学生が諸外国に比べて少ないことです。今まで企業が高度な専門性を身につけた博士人材を欲していなかったため、博士課程まで進む学生はそれほど多くありませんでした。ただ、近年、情報系では博士号を持った高度な専門性を備えた人材が求められ、この傾向も変わってきています。日本の大学が国際競争力をつけるためには、産学一体となって高度な博士人材を育成し、活用する土壌をつくることが重要です」

大学を選ぶ際は、さまざまな面から検討する必要がありますが、「偏差値一択」の時代は終わりつつあります。「世界ランキング」だからといって鵜呑みにするのは危険ですが、大学にも多様な視点が求められています。大学をグローバルな観点から測る物差しの一つとして、世界大学ランキングを眺めてみるのも一考の余地があると言えます。

プロフィル
調 麻佐志(しらべ まさし)/東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授。東京大学理学部数学科卒、同大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程単位取得退学。博士(学術)。信州大学人文学部講師・助教授、東京農工大学大学教育センター准教授、東京工業大学大学院理工学研究科准教授などを経て、16年から現職。専門は科学計量学、科学技術社会論。

(文=柿崎明子)

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【写真】「THE世界大学ランキング2025」日本の偏差値とは違う結果 国内トップは28位東大、他の大学は?

「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成
「THE世界大学ランキング2025」 (https://www.timeshighereducation.com/)から抜粋、編集部作成

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