「優秀な学生を確保したい」 討論やプレゼン型の年内入試、「伸びる」学生、大学はどう評価?

2024/09/02

■特集:多様化する年内入試

大学入試では、大学側に「早期に優秀な学生を確保したい」という思惑があり、受験生と保護者には「早く合格して進路を決めたい」という思いがあります。両者の思いが一致して、総合型選抜や学校推薦型選抜といった「年内入試」が拡大の一途をたどっています。多様化する入試方法を通じて、大学は受験生のどのような部分を評価しているのでしょうか。(写真=創価大学「PASCAL入試」の体験会の様子(左)とプレゼン方式でのスライド資料イメージ画面、創価大学提供)

討論やプレゼン型の入試

創価大学は、「PASCAL入試」という総合型選抜を実施しています(全学部対象)。書類による1次選考を経て、2次選考では4~6人のグループでオンライン形式のグループワークを行います。1次選考合格者には「予習教材」が与えられ、受験生は予習教材を読んだうえで、LTD (Learning Through Discussion= 話し合い学習法)に臨みます。事前に、大学ホームページで公開している「LTDガイダンス映像」を参考に「予習ノート」を作成することが求められます。

また理工学部を対象に、このほかにプレゼンテーション方式の選考もあり、原則4人1グループで各自が発表した後、受験生相互で質疑応答を行います。

実際に使われる予習ノート(一部)。自分の経験や知識とテーマを結びつけて考えることも求められる

PASCAL入試とは「Performance Assessment of Students’ Competency for Active Learning」の頭文字を取ったもの。アクティブラーニングの要素を選考に取り入れて、2018年度入試からスタートしました。アドミッションズセンター長を務める中山雅司・法学部教授は、こう話します。
「創価大学では、2000年ごろからLTDを授業に取り入れてきました。この取り組みにより、本学の目指す力が伸ばせている手応えがあったので、入試方法にも導入することにしました。グローバルな社会を生きるための積極性や、高い協調性を持つ人に来てほしいと考えています」

2次選考では、LTD形式のグループワークやプレゼンテーション(理工学部のみ)のほかに、受験者の資質や経験を掘り下げて聞く面接があります。2次選考自体は1日で終わりますが、PASCAL入試の特徴は、その前段階にあります。

「23年度入試から、高3生を対象にした『PASCAL入試チャレンジプログラム』を導入しました。これは3月から8月にかけて行われるオンラインイベントで、いわばグループワークの事前体験です。受講はPASCAL入試の出願条件ではないものの、毎年多くの受験生が積極的に参加しています。10回を超える体験会すべてを受ける熱心な受験生もいます。さらにオンデマンドでの自己分析講座や現役大学生とのオンライン面談を実施し、大学入学に際してのマインドも育成するのが特徴です」

中山教授は、「チャレンジプログラム」も含めて、PASCAL入試を「育成型入試」と説明します。
「育成型入試」とは、入試に先駆けてセミナーや体験授業などを実施し、早い段階から志望校を意識させるもの。いま、こうした入試を導入する大学が増えています。
例えば、桜美林大学の「ディスカバ!育成型」入試は7月からプレゼミやキャンプを実施しており、九州産業大学では6月から模擬授業への参加を受け付けています。お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」でも、高2から参加できる「プレゼミナール」を開催しており、これも広義での育成型入試と言えるでしょう。

入学後に「伸びる」学生が集まる

創価大の、半年間に及ぶ「チャレンジプログラム」では、ほかの受験生の様子もよくわかり、連帯感も生まれます。同プログラムの受講やオープンキャンパスへの参加などいくつかの条件を満たせば、PLASCAL入試出願時に求められる評定平均が3.2以上から3.0以上に緩和されます。こうした例はやはり各大学に広がっており、例えば嘉悦大学でも、オープンキャンパスへの参加で指定の入学検定料を無償とするなどしています。

チャレンジプログラムの様子。「予備校にも負けない手厚い内容です」(中山教授)

PASCAL入試を導入した18年度の募集人員は、100人でした。それを志願者増加に合わせて徐々に増やし、現在の募集人員は233人にまで増えました。PASCAL入試への関心の高さがうかがえます。

大学側はどう見ているのでしょうか。中山教授は、次のように話します。
「他の年内入試と同様にこの方式も専願ですし、事前のチャレンジプログラムに参加する受験生は、かなり強く本学を志望してくれている方が多いです。入試の前に志願度の高さがわかるので、私たちも期待しています」

PASCAL入試で入学した学生たちには、共通した特長があると言います。
「この合格者たちは入学後の学びにも積極的で、ほかの入試方式の合格者に比べてGPA(成績評価)が高い傾向にあります。さらに『異文化理解力』『リーダーシップ力』『コミュニケーション力』など、入学後の成長実感に関する学生への調査で学力以外のすべての評価ポイントでも平均値を上回っています。
PASCAL入試では、単に今どれだけ勉強ができるかということだけでなく、伸びしろや意欲もしっかり評価しています。また、試験当日のディスカッションや質疑応答では、チームプレーの力や傾聴力なども見ることができます。この方式は相対評価ではないので、同じグループの全員が一緒に合格することもできます。だれかを蹴落とすためでなく、話し合いをよりよくするためにどんな役割を果たせるかを、複数の教員で丁寧に見ています。そうしたことが、入学後の傾向にもつながっているのでしょう」

高校生活も大切にできた

PASCAL入試に合格して20年度に法学部法律学科に入学した伊藤海咲さん(留学時期などの兼ね合いで現在4年生)は、中学時代から保育園や老人ホームでのボランティア、海外でのプロジェクトへの参加など、さまざまな経験を積んできました。
「創価大学は留学先の選択肢が多いことや、スーパーグローバル大学の一つでもあることから、受験したいとは思っていました。そんな時に大学のパンフレットで、これまでの活動を評価してくれる入試方式があると知りました」

当時はまだ「PASCAL入試チャレンジプログラム」はありませんでしたが、8月のオープンキャンパスでLTDの体験会が開催されており、伊藤さんはこれに参加しました。

「まだ学部を絞り込めていなかったのですが、オープンキャンパスで先輩が親身に相談に乗ってくれて、『海外に興味があるなら法学部でも国際関係が学べるよ』と教えてくれました。思いもよらない進路を知って、体に電気が走ったような気がしました」

伊藤さんはさっそく自分なりの受験対策を始めます。LTD体験会で友達になった受験生とグループディスカッションの練習をしたり、多様な意見を出す訓練を繰り返し、高校の国語の先生に添削してもらったりしました。

そして迎えた試験当日、与えられたテーマは「ヤバい」という言葉をめぐるエッセイでした。
「私たちが頻繁に使う『ヤバい』という言葉は、便利ですが無個性な語彙です。試験当日は、多様な表現や幅広く伝わる言葉の大切さなどについて、グループで話し合うことになりました。緊張しましたが、和気あいあいとした雰囲気で、不安はありませんでした。議論はだれか一人が仕切るような形ではなく、話しやすい空気をみんなで作り上げることができたと思います」

入学後はベトナムへの留学も果たし、充実した学生生活を送っています。早くから大学側と接したことで、大学が目指すことや学び方を深く理解することができたと振り返ります。
「LTDの基本を身に付けて入学したことで、ごく自然にスタートダッシュが切れました。語学習得やコミュニケーションに重要なスキルを、PASCAL入試を通じて伸ばすことができたと思います。学科の受験勉強に時間を割く必要がなかったので、高校生活の一日一日も大切に過ごせました。年内入試を選んで本当によかったと思っています」

>>【特集】多様化する年内入試

(文=鈴木絢子)

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