■特集:大学の人気ゼミ・研究室
心理学の学びを生かす仕事というとカウンセラーや心理療法を思い浮かべますが、それは心理学の一部にすぎません。昭和女子大学人間社会学部心理学科の池上真平准教授のゼミでは、認知心理学の領域を基本にさまざまな実験を通して、心をデータで捉え、研究で得た結果を社会に生かすことを学んでいます。「心をデータで捉える」とは、いったいどんなことなのでしょうか。(写真=ゼミ風景)
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■研究室データ■
昭和女子大学人間社会学部心理学科
池上真平ゼミ
研究分野:認知心理学
ゼミ生:19人(2024年4月時点)
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趣味から出発したテーマ選び
2024年度で6年目を迎える池上ゼミには、これまでさまざまな興味・関心を持った学生たちが集まりました。研究テーマは、音楽、ダンス、ファッション、アートなど多岐にわたります。ユニークなところでは、お笑いをテーマにした学生もいます。同じネタでも、漫才師の体の角度やツッコミの方向によって面白さが変わってくるのではないか、という仮説を立てて研究を行いました。一見するとテーマはバラバラに見えても、「根底に共通するのは『感性』」と池上真平准教授は言います。
ゼミ生の一人、川村真緒さん(4年)は、趣味の舞台観劇に関する卒業論文を執筆したいという思いから、池上ゼミを志望しました。
「池上先生は認知心理学の領域で主に音楽を研究対象にされているのですが、ゼミ説明会で演劇にも興味があると聞き、私のやりたいことと近いので、充実した研究ができそうだと思いました。池上先生の講義をいくつか受けたことがあり、わかりやすい授業でいい先生だと思っていたことも志望理由の一つです。ゼミは先生と深く関わるものなので、信頼できる先生のもとで研究を進めていけば、自分がやりたいことを実現できると思いました」

川村さんが卒論のテーマに選んだのは、舞台観劇における「見切れ」です。前の席に座る観客の頭部に遮られて起こる「見切れ」が、観劇時の心理にどんな影響を及ぼすのかを、実験を通して検証していくことを計画しています。
「自分自身が観劇しているときに感じていることを観客の視点から探ろうと考えました。私は『テニスの王子様』のミュージカルが大好きで何度も見ています。その際に自分より前に座っている人の頭の陰でよく見えない部分があると、少し残念な気持ちになります。それをテーマにしてみようと思いました」

求められるのは主体性
3年次からのゼミは、各自が研究テーマに関連する論文を読み、要約して発表することから始まります。それぞれが疑問点をぶつけ合い、論文を読む力を高めたうえで、研究テーマと向き合い、考えを深めていきます。後期には具体的な研究計画を立て、池上准教授のアドバイスや他のゼミ生からの意見をもとにブラッシュアップし、川村さんは計画を固めました。
「論文の要約や研究計画を発表する機会が定期的にあったことで、考え抜く力と、自分の考えをわかりやすく伝える力が身についたと感じています。迷ったり悩んだりした際も、池上先生は学生の考えを第一に、知りたいことややりたいことを深掘りするように指導してくださるので、心置きなく相談できました。でも、いくら先生がいいアドバイスをくれても、自分が動かなければ計画は進まないし、実験にも至りません。全員共通の課題提出などが少ない分、主体性を持って取り組むことが求められます」
ゼミの先輩から学ぶこともあります。川村さんが池上ゼミで印象に残っているのが、電車の発車メロディーと駆け込み乗車の関係を検証した先輩の実験です。ホームへの階段を上って電車に乗り込む映像に、テンポや短調・長調が異なる発車メロディーがついており、どれだけ気持ちが急かされたか、駆け込み乗車をしたくなったかを評定しました。
「自分の生活に身近で、興味深かったです。先輩方の実験や卒論発表会に参加することで、いろんな実験方法や研究へのアプローチの仕方があることを知りました」
4年になった今年度は、実験を重ねてデータを取り、研究を進めていきます。川村さんは実験で使うために、春休みのうちにさまざまな条件の見切れ映像を試作しました。これから本格的に始まる研究を、将来にどのようにつなげていこうと考えているのでしょうか。
「研究としては何らかの答えや結果を出せたらうれしいですが、自分が今一番気になることという観点からテーマを選んだので、直接的に将来の進路につながるものではないかもしれません。でも、ゼミや研究を通して、自分自身が抱いた疑問を言語化し、一つの研究を組み立てていくことは、社会人になっても生きる力になると思っています」
池上真平准教授からのメッセージ
心燃やせる学問を見つけて主体的であれ
ゼミで一番大切にしていることは、学生一人ひとりの「やりたい」という思いです。明確にやりたいことがある学生についてはその思いを尊重し、自分の興味や疑問がはっきりと は言語化できていない学生に対しては、さまざまなやり取りや問いかけを通して、本当に興味があること、知りたいことを引き出すようにしています。学生自身のやりたいことがわかったら、研究の成果を社会にどう生かしていけるのか、研究と実社会をつなげて考えられるような形で具体的な研究計画に落とし込めるようサポートしています。
心理学では、まず心を捉えるために数値化することをよくやります。データにして分析し、客観的な結果から何が導き出せるかを検証する。まさに今注目のデータサイエンスとも親和性が高い学問です。一見、つかみどころがなさそうな心というものをデータとして扱い、客観的に物事を見る力が養えます。心理学科の卒業生の進路は、職種も業種も多岐にわたっていて、特徴がないのが特徴です。心理専門職はもちろん、娯楽施設やクリエーティブ系のディレクター職、広報、福祉系、SE、外食産業などさまざまです。それだけ心理学という学問が多様なフィールドで生かせることを物語っているといえます。
大学は社会に出る前の仕上げの場です。そこでどれくらい濃い経験をして成長できるかは、主体的であるかどうかにかかっています。そのためには、自分自身が心から面白いと感じ、心を燃やして夢中になってしまう学問を見つけることが大事です。大学を選ぶ際には、どんなカリキュラムや科目があるのか、どんなことを研究している教員がいるのかということにも目を向けていくと、さらに深まると思います。

池上真平(いけがみ・しんぺい)准教授/青山学院大学大学院教育人間科学研究科(心理学専攻)博士後期課程修了。青山学院大学教育人間科学部助教などを経て、2019年4月に昭和女子大学に着任。専門は認知心理学、音楽心理学、実験心理学。
(文=岩本恵美、写真=「Thinkキャンパス」編集部)
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