■先輩パパ・ママの受験体験記
私立中高一貫校から1浪を経て、東京大学理科一類に進学した森田聖子さん(仮名)の息子さん。模試ではA判定をもらって自信があった現役時代、思わぬ失敗をしてしまい、浪人することになりました。その後、どのような戦略を立てて再挑戦したのでしょうか。浪人時代にうまくいったこと、支えとなったのは、どんなことなのか。近くで見守った聖子さんに、母の立場から振り返ってもらいました。(写真=びっしり書き込まれた東大入試実戦模試の問題用紙、本人提供)
まさかの現役不合格
東大を目指す息子の大学受験は順風満帆のように思えました。慎重派の夫は心配していましたが、息子はなんでも一人で決めるタイプで、親にはいつも事後報告です。東大模試で3回連続でA判定が出るなど、いたって順調だったので、実際に受けたのは東大の理科一類と慶應義塾大学理工学部だけ。しかも、合格をもらった慶應義塾大学理工学部に入学金も入れませんでした。
しかし、配点の8割を占める東大の2次試験を終えた後、息子は「五分五分かな」と珍しく弱気な感想を漏らしました。というのも、「英語のリスニングがうまくいかなかった」と言うのです。2次試験のリスニングはスピーカーから音声が流れますが、教室によって聞こえ方が違うらしく、息子がいた地下の大教室は、2つのスピーカーがハウリングするうえに、音が壁に反射して聞こえづらく、「これはもう無理。当てずっぽうで答えるしかない」と負けを覚悟したそうです。「教室」ガチャに当たってしまった、ということでした。
それだけが原因だとは思いませんが、残念ながら東大は不合格。覚悟は決めていたようですが、中高6年間、東大だけを目指してきたので、相当ショックだったと思います。こうして息子の浪人生活がスタートしました。
トラブルメーカーだった小学生時代
振り返ると、息子は小さい時からとにかく好奇心の塊で、猪突猛進のタイプ。何かに夢中になるとそれしか見えず、自分のやりたいことばかり優先してしまうので、幼稚園でも小学校でもトラブルメーカーでした。小学校の卒業式の後も担任の先生から呼び出され、両親そろって注意を受けたほどです。
しかし、中学受験して入った中高一貫の男子校は、おおらかな指導で、個性あふれる生徒がのびのびと才能を伸ばせる学校で、息子にはぴったりでした。切磋琢磨できる友人とたくさん出会い、そうした周りの環境に触発されたのでしょう。中学に入学した直後から、「東大に行きたい」と言い始めました。東大は研究の宝庫とも言える環境があり、いろいろな研究を深く広くできます。しかも、入学後の1、2年間はどの分野に進むかを考えながら学べるということを知って、好奇心を刺激されたようです。
残念ながら現役での合格はかないませんでしたが、持ち前の切り替えの早さで、翌日には同じく浪人を決めた友だちと予備校の説明会へ行きました。「すぐに友達と旅行に行く予定だったから、その前に予備校を決めておきたかったんだ」と聞いて、相変わらず前向きな性格に笑ってしまうと同時に、救われた気持ちになりました。
夏までは「体力づくり」
東大の試験結果を開示請求してみると、勉強時間の半分以上を費やした物理と化学は合格点に達していた一方で、国語(特に古典)と、得意だったためにほぼ自学で終わらせていた数学が、思うように得点できていなかったことがわかりました。
1回受験したことで、自分に何が足りなかったのか、逆にもう十分力がついている科目が何かわかり、浪人の1年間のペース配分は計画しやすかったようです。現役時の受験勉強を通して息子が感じたのは、「最初から頑張りすぎると、体や気持ちが持たない」ということ。そのため、夏休みまでは古文や漢文など不足していたところを埋める程度のペースで勉強し、本格的なスタートは秋からでも十分間に合うと考えたようです。夏までは友だちとスポーツをしたり、散歩やランニングをしたりと、後半の追い込みに耐えられる体力づくりを意識した生活を送っていました。
予備校では、物理の解法がこれまでの塾とは違い、最初はとまどいもあったようですが、数学はきっちり記述テクニックを学べて減点が少なくなりました。そういった気づきを予備校で得られたのはプラスだったと思います。
「共テ利用入試」をうまく使う
そして、受験本番。現役時代に感じた不安を払拭するために、息子が考え出した裏技がありました。
一つは、大学入学共通テストの活用方法です。共通テストは、あくまでも自己採点をもとに、2次試験に出願します。共通テストで記入する解答欄が一つずつずれていて、自己採点と実際の点数が全く違ったという話を聞いたこともあったので、息子は現役の時、「本当に自己採点通りに共通テストの点数を取れているのか、ずっと不安だった」と振り返っていました。
そこで、浪人時に活用したのが、志望学部が全く異なる早稲田大学政治経済学部の共通テスト利用入試でした。これは共通テストの結果だけで合否が決まるため、受験会場に行って風邪などをうつされる心配がないうえに、同学部は私立のなかでも最難関として知られているので、共通テスト利用入試で合格できれば、共通テストでほぼ9割得点できていることが立証されるということのようでした。
もう一つの対策は、これ以上の浪人はできないということで、早稲田大学の基幹理工学部を一般選抜で受験しました。こうして早稲田大学で2つの合格を勝ち取り、満を持して東大の2次試験へ突入しました。
2次試験に駆けつけてくれた友だち
2次試験当日の朝、試験会場に向かう駅に行くと、先に現役で東大に受かっていた友人が立っていたそうです。「案内してやるよ」と受験会場まで付き合ってくれ、受験2日目も同じように駅で待っていたと聞きました。受験も2回目だから試験会場はもうわかっているのに、応援に駆けつけたことへの照れ隠しだったのでしょう(笑)。
合格発表はオンラインで確認しました。高校からの親友7、8人がLINEでつながっていて、一緒に見たようです。浪人して東大を受験したのは、その中で息子を含めて2人。どちらも合格がわかった瞬間、「おめでとう!!」と祝福する声が、たくさん聞こえてきました。
中学・高校と切磋琢磨した友人たちが、浪人の1年間を支えてくれたからこそ、頑張れたのでしょう。後日、「もし2人のうち、どちらかが不合格だったらどうしたの?」といじわるな質問をしたところ、「もし僕だけが落ちたとしても、頑張ったことに変わりはないから関係ない。友だちの合格は喜べるよ」と答えたのです。そういう友人がいるのは素敵だな、息子は本当に幸せ者だと改めて感じました。
何から何まで一人で突っ走ってしまう息子ですが、まだ2年生になったばかりなので、将来は模索中です。最近は「司法試験を受けたい」とも言い始めて……(笑)。好奇心旺盛な息子が、自分で面白い、楽しいと思える道が見つかればいい。親の願いはそれだけです。
>>【連載】先輩パパ・ママの受験体験記
(文=山本知美)
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