【大学トレンド】値上がりする学費、30年前と比べると? 授業料「無償化」方針の一方で

2024/04/09

■話題・トレンド

政府が2023年12月に発表した、子ども3人以上の多子世帯を対象とする「大学授業料の無償化」が話題になっています。2025年度から所得制限がなく実施する方針ですが、果たして実現するのでしょうか。そもそも大学の学費はどの程度かかり、最低限でどの程度用意しておけばいいのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの藤川太さんが解説します。(写真=Getty Images)

授業料は約30年前の1.5倍

政府は少子化対策の一つとして、2025年度から3人以上の子どもがいる世帯は、大学の授業料と入学金を無償化する方針を発表しています。現行の制度では、世帯収入によっては支援がありますが、新たな方針では所得制限がなくなります。藤川さんは、次のように話します。

「扶養する子どもが3人以上いる場合に対象となるので、第3子が大学に入学する段階で第1子が就職して扶養から外れていると、対象にはなりません。所得制限がないとはいえ、限定的な無償化と言えるでしょう」

そもそも大学の学費は、どの程度かかるのでしょうか。藤川さんによると、「大学の学費は値上がりし続けている費目の一つ」です。大学志願者数がピークだった1992年度と2021年度の年間授業料、入学料を比べると、次の通りになっています。授業料が特に値上がりしており、約30年で1.5倍くらいに上がっています

大学の年間授業料と入学料

文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」をもとに作成
※国立大学は2004年度以降国が定めた標準額、公立大学、私立大学は平均額
※公立大学の入学料は地域外からの入学者の平均

理工・芸術・実技系は学費が上がりやすい

学費は、大学が国立か公立か私立か、学部によって異なります。国立大学の場合は、標準額が定められており、その額は2005年から変わっていません。ただし、国立大学は04年度から独立行政法人化しているので、授業料は独自に定めることができます。上限が決められているため標準額である53万5800円から大幅に上がることはありませんが、例えば東京芸術大学は年間約64万円(2019年度以降の入学生)です。実技系の大学は、標準額より高くなる傾向があります。

公立大学は、大学ごとに異なりますが、授業料は国立大学と大きな差はありません。入学料は、多くの場合、大学がある地域の出身者か、地域外の出身者かによって異なり、地域外は地域内の出身者より10万~20万円程度高く設定されています。

私立大学は、大学、学部によって異なり、授業料、入学料のほかに施設設備費などがかかります。学部系統別の4年間(医歯薬、獣医は6年間)の学費(入学料、授業料、施設設備費)の平均額は次のようになっています。

文部科学省「令和3年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)」をもとに、藤川さんが算出

文系に比べて理工系、芸術系、保健系は、学費が高いです。私立の医学部や歯学部の学費の高さは突出しています。最近はデータサイエンス学部など、文理融合系の学部が増え、学費についても単純に文系、理系と分けづらくなっています。文理融合系は実技が多かったり、理工系の要素が強かったりすると、学費が高くなる傾向があり、平均額は参考にならないことが多くなっています

また、同じ学部でも学科によって授業料が異なることもあります。

約半数が奨学金を利用

入学後にかかる費用は学費だけではありません。交通費や教材費のほか、実家を出て生活する場合は、家賃、食費、光熱費などの生活費がかかります。

「交通費や教材費は高校でもかかるので見逃しやすいのですが、通うのが遠くなる大学だと、それだけ交通費がかかりますし、教材もより専門的なものが必要になるので費用が高くなりやすく、意外とかかるという印象を持つ人が多いようです」

現在、大学生の約半数は何らかの奨学金を利用しています。自宅外生の場合、親からの仕送り額は以前に比べて減少しています。つまり、以前に比べ経済的に余裕がなくなっている家庭が多いというのが現状です。

大学受験前や受験時にも、お金がかかります。
「予備校や塾に通う場合、塾代も値上がりしています。予備校や科目数にもよりますが、20年ほど前は家計分析をする際に塾代として年間100万円くらいの見積もりが多かったのですが、今は年間150万円程度になることも珍しくありません」
受験料は近年大幅な値上がりはありませんが、一般選抜での受験の場合、併願校が多くなりやすく、まとまった額が必要になります。

大学受験料の目安

藤川さんへの取材をもとに編集部で作成

学費について家族で共有を

浪人することになった場合は、さらに費用がかかります。入学してからも海外留学や留年などによって、想定外の費用がかかることも考えられます。どれだけの費用を準備しておけばいいのかを考えると際限がないようで不安になりますが、藤川さんは高校生の段階で準備しておいたほうがいい額について「最低200万円」と言います。

「足りない分は収入から回しつつ、それでも足りなければ教育ローンや奨学金を利用する方法があります。大学でかかる費用は、基本的には4年間と限られているので、そこをどう乗り切るかを考えれば、気持ちは楽になるのではないでしょうか」

藤川さんは以前、大学生の子どもをもつ父親から、次のような相談を受けたそうです。

「お子さんが米国に留学して学位を取得したいと言うので、年間600万円程度の学費を出してあげたそうです。2年で取得できるはずだったのに、4年目に突入することになり、その方は借金を重ねてほぼ破綻状態となり、相談に来られました。お金のことは、子どもにはもちろん、妻にも相談していなかったと言うのです。妻は一生懸命、子どものことを応援しているので、言い出しにくかったようですが、このケースの問題点は、本来は家族で乗り切るべきことを、夫一人で抱えてしまったことです」

このような事態を避けるためにも、藤川さんは「お金の話は家族で共有したほうがいい」と話します。

親がどれくらいの学費を負担しているのか、どれほどの苦労をして学費を捻出しているのか、子どもは知っておくべきだと思います。ライフプランについてしっかり考えるようになりますし、将来、お金の失敗もしにくくなるはずです」

保護者としては、子どもにお金の心配はさせたくないと考えがちですしかし、大学進学について家族で話し合うなかで、お金の話もできると、大学で学ぶことへの意識もより高くなるのではないでしょうか。

藤川太/生活デザイン代表取締役社長。ファイナンシャルプランナーCFP®認定者、宅地建物取引士。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、自動車会社で燃料電池自動車の研究開発に従事。1998年にファイナンシャルプランナーとして独立。家計の個人相談の普及を目指し、2001年に「家計の見直し相談センター」を設立。3万世帯を超える家計診断を行っている。著書に『やっぱりサラリーマンは2度破産する』(朝日新聞出版)、『年収が上がらなくてもお金が増える生き方』(プレジデント社)など多数。

(文=中寺暁子)

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