東大大学院「メタバース工学部」は女子中高生も関心? 「アバター」連帯感、大学で広がる

2023/12/06

■大学トレンド

メタバースとは、インターネット上の仮想空間のこと。大学の教育現場でもメタバースをさまざまな形で活用するようになってきました。理系分野の学びですが、中高生の女子生徒の関心が高いことが特徴です。時代の最先端を走る大学の姿を紹介します。

ディスカッションや国際交流などに活用

全国でいち早くメタバースを教育現場に採り入れたのが、金沢工業大学(石川県野々市市)です。2021年度から試験的にメタバース上に学習センターを構築し、学生たちが自身の分身であるアバターを操ってグループディスカッションやプレゼンテーションができる環境を整え、22年度から実用化しています。

羽衣国際大学(大阪府堺市)では、英会話レッスンや国際交流の場としてメタバースを活用しています。21年12月には、3Dメタバース内でVRゴーグルを用いた英会話レッスンを行い、フィリピン人の英語講師と学生らが英語でクリスマスの過ごし方についてディスカッションしました。3Dメタバース内では実際に隣にいるような感覚を体感できるため、学生たちからも「アバターを使うことで緊張感が和らぎ、話しやすい」と好評だったといいます。

産学連携の取り組みにメタバースを活用する事例も増えています。順天堂大学(東京都文京区)は、22年4月に日本IBMと共同で順天堂医院を模した「順天堂バーチャルホスピタル」を設置し、医師や患者、家族らがアバターでアクセスしてコミュニケーションできるようになっています。入院や治療の内容をメタバース上で体験できたり、診療や事務手続きがオンラインで実行できたりと、患者の満足度を上げるとともに、医療従事者の働き方改革にもつながる取り組みを進めています。

東大大学院にメタバースの名を冠した“学部”も登場

東京大学大学院工学系研究科(東京都文京区)では、22年9月に「メタバース工学部」を開設しました。これは正式な学部ではなく、メタバースをはじめとするデジタル技術を活用し、年齢やジェンダー、立場などの属性にかかわらず、だれもが最新の工学や情報を学べる場です。プログラムは、一部の演習や実習を除いてオンラインで受講できます。

メタバース工学部の柱は3つあります。1つ目は、中高生や保護者、教師を対象とするジュニア工学教育プログラム(ジュニア講座)、2つ目は社会人や大学生を対象とするリスキリング工学教育プログラム(リスキリング講座)、3つ目が若者に向けた工学に関する情報発信です。開設の背景には、先端テクノロジーが次々と生まれるなかで、データやテクノロジーを活用して未来の社会を担っていける人材が不足していることがあったといいます。

「メタバース工学部には、DX人材の間口を広げていくというミッションがあります。そのためには、学び直しによる人材育成と工学人材の拡大が必要でした」と、メタバース工学部の石原直事務局長は話します。

バーチャル空間でも「人との連帯感が得られた」

メタバース工学部の設立記念式典は、東大の安田講堂を模したメタバース上で行われました。受講者や登壇者がアバターで参加し、参加者からは「バーチャル空間の中に東大が引っ越してきたかのようだ」「共有している空間への帰属感、人との連帯感が得られた」という声が寄せられました。

東大は中高生をメインターゲットにしたジュニア講座でもメタバースを活用しています。「起業入門」の講座では、バーチャル東大の安田講堂で成果発表会を行いました。すべての講義をメタバース上でも受けられる「バーチャル教室でディジタル回路を学ぼう」は、工学部電子情報工学科の授業で実際に使われているバーチャル教室での講義を体験することができ、中高生から「すごい」「楽しかった」と好評だったといいます。

メタバースを用いた授業の様子。

講義でのメタバース効果を、石原事務局長は次のように語ります。

「メタバースを使った講座の担当教員からは、『オンラインの講義と対面の講義の中間程度の対面感や帰属感、没入感がある』と報告を受けています。これらの感覚の数値化は今後の課題であり、積極的にメタバースを試行していくなかで評価していくつもりです。また、教員に直接質問することはできなくても、アバターを介すことで受講生が質問しやすくなるという効果もあるようです」

中高生のVRやAIへの興味に男女差はない

開講初年度の冬学期のジュニア講座の中で一番人気だったのは「メタバースを作ろう」。全5回にわたる授業で、VRの最先端の研究に触れ、自分好みのVR空間やメタバース空間を作る講座でした。

講座で作成されたメタバース。

「この講座では小中高生の受講生の男女比は4対3程度。若い世代のVRやAIといった先端技術に対する興味に男女差はないことが統計からも見てとれます。また、2番目に人気だった『デザイン✕工学 Part 2』では、最後の授業は東大に来て、実験室を見学してもらいましたが、集まった中高生のうち女子が7割ほどを占め、非常に多かったのは予想外でした」(石原事務局長)

2022年度に開催された中高生向けデザイン工学ワークショップの様子。

ダイバーシティの推進はイノベーションの源泉ともいわれています。東大工学部の学生の女性比率は11.7%(22年)と低く、以前から女子学生を増やすことが大きな課題でした。東大工学部では全国の女子中高を対象に出前講義を実施するなど、工学の魅力を発信し続けており、メタバース工学部はその活動をさらに推し進めていく取り組みでもあります。今後は講座の数をさらに増やし、受講生を増やすことに力を入れていく予定です。

「メタバース技術を積極的に活用し、学びの場をリアル空間からバーチャル空間に拡張していく予定です」(石原事務局長)

大学でのメタバース活用はますます増えていくと予想されます。バーチャル教室での授業が広がると、学びのスタイルにも大きな変化が出てきそうです。

(文=岩本恵美、写真=東京大学メタバース工学部事務局提供)

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