■大学生・大学院生の起業
大学発のスタートアップ(ベンチャー)企業が増えています。大学生や大学院生が起業するケースも少なくありません。学生の起業を支援する取り組みをする大学も増えて、大学発のビジネスコンテストやベンチャーキャピタルも数多くあります。学生の起業熱が高まっている背景について探りました。(写真=ガイアックス提供)
起業の相談が毎日のように来る
「アイデアがあって起業をしたいのですが、何から始めていいのかわからなくて」「資金調達はどうすればいいんですか」
起業のサポートを幅広く展開するガイアックスが運営する相談窓口「STARTUP CAFÉ」には、毎日のように大学生や大学院生から起業に関する相談が寄せられます。スタートアップスタジオ事業部・起業家教育事業責任者の吉川佳佑さんは、「近年、大学生の起業意欲が高まっています」として、次のように話します。
「私たち民間企業だけでなく、多くの大学が学生の起業を支援する部門をつくるなど、起業しやすい環境が整ってきています。起業家教育を授業に取り入れたり、起業や経営相談の窓口を設置したり、ビジネスコンテストを開催したりしています。ベンチャーキャピタルを設立し、自分たちの大学の学生が設立したスタートアップに投資する大学もあります」
大学で起業関連の部活やサークルが増加
起業について興味を持つ学生が集まる「起業部」などのサークルも増えています。ガイアックスの調査によると、「起業部」は43大学で設置され、2018年に比べて2倍以上(215%)に増えています。「さまざまなサポートを受けられるようになっている現在は、まさに起業のチャンスといえます」(吉川さん)
(資料=ガイアックス提供)
政府による新事業の創出促進がきっかけ
起業への環境が整ってきた背景の一つには、文部科学省が2014年からスタートした「グローバルアントレプレナー育成促進事業」があります。日本のイノベーション創出を活性化するため、大学などの研究開発成果を基にしたスタートアップの創業や、企業の新事業創出を促進する人材の育成などを目的としています。
経済産業省の調査によれば、2022年度10月末現在で設立されている大学発ベンチャーの累計数は3782社で、17年ごろから急速に増えています。この中には、学生が立ち上げた事業のほかに、大学の研究成果に基づく特許や新たな技術・ビジネス手法の事業化、大学と共同研究を行ったベンチャーなどが含まれます。過去5年間で見ると毎年約300社近くが設立されています。
(「令和4年度産業技術調査事業 大学発ベンチャーの実態等に関する調査」東京商工リサーチから抜粋)
特別な人が起業する時代ではない
吉川さんは「学生の起業が増えることによる社会的なメリットは大きい」と言います。
「かつては学生起業家というと、才能あふれる一部の人という印象が強かったかもしれません。しかし、前述の通り、今は起業のハードルが本当に低くなっています。一般にスタートアップは成功率が7%だと言われていますが、海外のように成功するスタートアップを生み出すには、チャレンジの総数を増やすことが重要だと考えています」
AI(人工知能)などを活用した新しい技術を使ってビジネスを生み出すことにも期待がかかっています。
周囲の応援が得られる 失敗してもリスクは小さい
起業することは、学生にとっても多くのメリットがあります。
「一つは周囲のサポートが得やすいことです。大人は若い学生たちが頑張っている姿を見ると、応援したくなるものです。当社は小中高生向けにも起業家セミナーを開いていますが、小中高生がSNSで有名企業の社長に『起業を目指しているので話を聞きたいです』などと連絡すると、『オフィスに遊びに来てください』と直接、返信が来ることも珍しくありません」
もう一つは、「たとえ起業して失敗しても、失うものがないこと」だといいます。
「社会経験のない学生が起業するのですから、失敗することもあります。しかし、それは生きていく上で貴重な経験となります。最近は企業の人事の方から、『起業経験のある学生を紹介してほしい』と言われることも増えています。変化のスピードが速いこの時代に、既存の企業の中でもさまざまな経験をした社会人基礎力のある人材が求められているということです」
まずは大学のイベントに参加
とはいえ、「起業に興味はあるけど、何をしたらいいかわからない」という学生も多いでしょう。吉川さんはまず、大学や自治体などが開いているセミナーやプログラムなどに参加することからスタートすることを勧めています。
「最近は大学や自治体でも起業について体系的に学べるイベントがたくさん開催されています。イベントに参加すれば起業の知識が身につくだけでなく、一緒に活動を行う仲間も見つかるかもしれません。民間企業や個人が行っているイベントには一定数、怪しいものもあるため、何をしていいかわからないという方はまず、ご自身の大学・自治体でどのような勉強会やプログラムが開催されているかを調べるといいでしょう」
大学のベンチャーキャピタルから資金提供
資金についてはどうでしょうか。吉川さんは「起業の最初の一歩目を踏み出すのに多額の資金が必要になることはまずないので、あまり心配はいりません」と言います。「日本政策金融公庫のデータなどを見ると、学生に限らず、起業家の8割くらいは100万円未満でスタートしていますし、50万円以下で起業しているケースも多いです」
その上で、足りない資金はベンチャーキャピタルから投資してもらうのも一つの方法です。
「投資は借り入れとは違い、事業に失敗したとしても、返済義務は発生しません。資金調達も含め、必要以上に失敗を恐れなくていいと思います。現在は起業の成功事例や失敗事例が蓄積され、『こうすれば大きな失敗はしない』といったことが知られるようになっています。個人的には、最初は自分のできる範囲から少しずつビジネスを始めて、うまくいったら大きくしていくというやり方がいいと考えています。ボランティアのような形から始めるのもありだと思います」
(文=狩生聖子)
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