■親のための学部・学科講座
かつて大学における建築の学びは、工学系の学部内にある建築学科が主流でした。しかし、ここ10年余の間に、建築学部に改組する大学が増えています。学部にしたことで女子学生が増えるなど、さまざまな変化が起きています。(写真=近畿大学提供。ペットボトルで制作した茶室)
工学系学部を離れ、建築学部を設置する動きが加速
日本初の建築学部が誕生したのは、2011年4月に開設した工学院大学と近畿大学です。工学院大学は工学部建築学科などを改組、近畿大学は理工学部建築学科を改組して、学部にしました。近畿大学建築学部の阿波野昌幸学部長はこう話します。
「日本の大学では、工学系学部の中に建築系学科が設置されているのが一般的でした。しかし、建築はまちづくりのような分野や、建物をデザインすること自体が作品を生むといった芸術的な面もあります。さらに建築史、保存再生、不動産のマネジメントなど、理学や工学の枠にとどまらない広範囲な分野を含んだ総合学問です。多様な分野を体系的に学ぶには、建築学部として独立することが不可欠でした」
この2大学を皮切りに、全国の大学に建築学部が誕生しました。17年に芝浦工業大学が工学部とデザイン工学部の建築系学科を統合・再編して建築学部を設置。18年に日本工業大学と金沢工業大学、20年に東北工業大学、明星大学、武庫川女子大学、21年に関西学院大学、22年には京都美術工芸大学と神奈川大学が設置しています。関東学院大学の建築・環境学部(13年)、東京都市大学の建築都市デザイン学部(20年)、東海大学の建築都市学部(22年)など、類似の学部も次々に誕生するなど人気を集めています。
学部化で、工学にとらわれない学びが実現
建築には幅広い学びの分野があり、近畿大学では専攻を決めずにスタートします。学生たちは学んでいく中で、建築の幅の広さや奥深さ、建築に関わる様々な職業があることを理解し、段階的に自分が進みたい道を選んでいきます。阿波野学部長はこう話します。
「高校生の段階で建築の全体像を理解するのは難しく、建築に関心はあっても将来何を専門にしていくかまではなかなか決めきれないのではないでしょうか。実際、本学部のほとんどの学生は、建築という言葉が持つイメージや、建築家に憧れて入学してきます。このため、少しずつ建築学の理解を深め、どのような将来の選択肢があるのかを知った上で、自分が本当は何をしたいのか、じっくり考えて決められるカリキュラムを組んでいます」
3年次からはそれぞれの関心に応じて、建築工学専攻、建築デザイン専攻、住宅建築専攻、企画マネジメント専攻の4専攻に分かれます。建築工学専攻は工学的な要素が強く、計画、構造、環境の基本3分野を包括的に学び、建築技術者を目指します。建築デザイン専攻は、国内外で建築家として活躍できるような高度な設計能力の習得に重点を置いています。住宅建築専攻は、身近な住まいに焦点を絞り、時代に合った住まいを追究します。企画マネジメント専攻は、建築の企画から完成後の維持管理、不動産管理までのマネジメントの意義と手法を学びます。
阿波野学部長は、特に住宅建築専攻と企画マネジメント専攻が、従来の建築学科との違いだと語ります。
「住宅建築専攻はデザインや工学的な技術だけでなく、家族のあり方など社会学・心理学的側面についても学びます。企画マネジメント専攻では、設計した建物でどういう運営をするとどういう収支が出るかなど、建物を一つの材料としてとらえ、経営的なことを含めて建築を考えます。いずれも工学の枠を超えた建築学部だからこそ実現した横断的な学びと言えるでしょう」(阿波野学部長)

在学中から資格取得の勉強
建築の実務では、資格が重視されることも少なくありません。近畿大学では卒業後を見据え、在学中から資格取得の勉強ができるようにしています。特に難関資格である一級建築士は卒業後の受験となりますが、希望者には、外部の資格予備校と連携した受験対策講座や、授業内での実技試験対策実習を提供しています。22年度一級建築士試験の近畿大学卒業生の合格者数は74人で、学校別合格者数では全国5位、西日本ではトップでした。
「卒業後に働きながら受験勉強をするのは時間もお金もかかって大変です。合格した卒業生からは、『在学中に資格取得の勉強ができたので本当によかった』という声をよく聞きます。また『合格は大学での学びの成果として大きな自信になった』『就職先の企業から高く評価されている』と話す卒業生も少なくありません。在学中から実務に近い経験をさせるなど、実学教育に力を入れています」(阿波野学部長)
建築学部では多様な学びを実現できることから、就職先は多岐にわたっています。ハウスメーカーやゼネコンに設計職や施工管理職として就職するほか、まちづくりや都市計画に取り組むディベロッパーや不動産会社で企画運営に携わる人、技術系の公務員になる人、建築家や大工を目指す人もいます。
近畿大学では女子が4割近く増加
全国の建築学部では、より多くの学生に建築を学ぶ機会を提供するため、文系型科目でも受験可能な入試方式を導入しているところが少なくなく、2~3割は文系型入試を利用して入学しています。文系学生の存在は、他の学生にも良い刺激となっているそうです。また、近畿大学では理工学部建築学科だった頃に比べて女子学生が4割近く増えました。
「建築学部になったことで、女子も挑戦しやすくなったのかもしれません。多様な学生が集まるようになって、キャンパスが活性化しています。建築に少しでも興味があれば、ぜひ建築学部を目指してほしい。幅広い学びがある建築学部の中で、それぞれの興味がどう花開くのか、積極的に学んで将来を切り開いていってほしいと思います」(阿波野学部長)
(文=熊谷わこ)

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