■知りたい!年内入試
女子が少ない理工系の学部を中心に、大学入試で「女子枠」を設ける動きが広まりつつあります。女子の割合を増やし、多様性を確保することを目的としていますが、利用した学生はどのようなことを感じているのでしょうか。芝浦工業大学に女子枠を利用して入学した学生に話を聞いてみました。(写真=芝浦工業大学デザイン工学部におけるデザインワークの様子/芝浦工業大学提供)
入学直後に感じた男女差は……
「いざ入学してキャンパスに行くと、歩いているのは男子ばかりで、『やはり』という感じでした」
と言うのは、女子枠を利用して2023年に入学した、芝浦工業大学デザイン工学部デザイン工学科1年の林美空さん(仮名)です。しかし、授業に出てみると、そんな“理系”のイメージはいい意味で裏切られました。
「高校の理系クラスも女子が数人しかいなかったので、覚悟はしていたのですが、教室に入ってみると半分近くが女子だったんです。女子が多いというだけで雰囲気が明るく感じられてうれしかったし、女子トークも弾んで大学生活が楽しいです。男女差については、女子のほうが絵の上手な人が多い気がするかな。でも男子だって上手な人はいるし、女子で絵が苦手な人もいます。つまり人それぞれなので、男女差はあまり感じないですね」(林さん)
一方、最初は男女差に驚いたというのが、同大学工学部応用化学科2年の富田薫子さん(仮名)です。
「入学直後のパソコンを使った授業で、男子がスピーディーに課題をこなすのを見て、焦りました。でも、授業を受けていくうちに気づいたのは、女子は地道に努力をして確実に力をつけていく人が多いということです。そのせいか、2年生になった今では男子も女子も同じように技能が身についていて、あまり男女差を感じることはありません。それに、自分よりもできるところがある人に会うことは、『自分も頑張ろう』と自分を高めるきっかけになります。『女子枠』というチャンスを生かして、好きな有機化学を学べる工学部に進むことができてよかったと思っています」(富田さん)
「女子枠」で多様な理工系学部に
芝浦工業大学では2018年度入試から「女子枠」を設けています。17年には大学全体でわずか16.4%だった女子の割合はじわじわと増え続け、23年には19.8%にまで上昇しています。学科別に見ると3割を超えているところもあり、効果が出ていることがわかります。

芝浦工業大学入試課の土屋公平さんはこう話します。
「『女子枠』を導入したのは、女性の比率が国際水準よりも低いという危機意識があった一方、企業からは女性エンジニア候補を求める声が増えていたことがきっかけでした。『なぜ女子にだけ枠を設けるのか、逆差別ではないのか』といった声もありましたが、まずは理工系学部における男女のバランスを正常化することが第一と考えました。27年度までに学内の女子の割合を30%にまで高めることを目標に、特に女子が少ない工学部4学科の公募制推薦型入学者選抜からスタートし、22年度からは工学部全9学科に枠を拡大し、23年度入試では全4学部に広げています。
その結果、学科によっては女子が3割以上を占めるようになり、男子が圧倒的に多かったときに比べて授業ではより幅広いアイデアが飛び交っていて、多様性の大切さを実感しているところです。最近は、大学説明会のブースに来る高校生の半分以上が女子という、少し前までは考えられないような状況にもなっています。女子高校生からの問い合わせも増えていて、取り組みの手応えを感じています」

女子枠の合否は総合型選抜と同様に、書類審査や面接試験、基礎学力調査などをもとに判定されますが、基礎学力調査の数学には「数Ⅲ」が課されておらず、一般選抜で入ってくる学生よりもやや間口を広げているのが特徴です。
面接時に学習状況を確認したうえで、合格者には学科に応じたeラーニングの課題を提供してフォローしていますが、「総合型選抜を通過した学生は『ここで学びたい』という目標や意欲が明確で強く、入学後にぐんと伸びる傾向があります。入学後に困らない学力レベルは担保しつつ、意欲を大切にしています」と土屋さんは話します。意欲的な女子が入ることも、授業の活性化につながっています。
理工系学部の女子の割合は世界最低水準
「女子枠」については、名古屋工業大学が1994年に電気・機械工学科(当時は機械工学科)に女子向けの推薦制度を設置したのを皮切りに、神奈川大学が2011年から、兵庫県立大学が2016年からと、長く続けている大学もあります。それだけ効果を実感できているということかもしれません。

ただし、文部科学省の「学校基本調査」(2022年)によると、日本の大学では、理学部で学ぶ女子の割合は約27.8%です。同じく工学部も約15.8%と少なく、OECD(経済協力開発機構)加盟国のなかではまだまだ最低水準だというデータもあります。
「女子枠」が今後、変化をもたらすことができるのか、注目していきたいところです。
(文=竹倉玲子)

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