コンサートのチケットはすぐに完売し、“Cateen(かてぃん)”名義のYouTubeチャンネルの登録者数も126万人(2023年9月現在)を超えるピアニスト・角野隼斗(すみの・はやと)さんは、ピアニストにして東京大学大学院(情報理工学系研究科創造情報学専攻)出身という異色の経歴でも知られています。角野さんはどのように進路選択をしてきたのか、朝日新聞Thinkキャンパス・平岡妙子編集長が聞きました。
好きな数学で「AI×音楽」を研究した東大時代
ーー小さな頃からピアノコンクールで受賞を重ね、中学時代には「ショパン国際ピアノコンクール in ASIA」の金賞にも輝いた角野さん。音楽大学に進むという選択肢はなかったのですか。
「東京藝術大学でピアノを本格的に学んでみたい」という思いもあり、高校2年生くらいまでは、東大か藝大かで迷っていたところがありました。でも、ピアノは音大に進まなくても弾けますよね。それに、ジャズやポップスなど様々なジャンルの音楽に興味があった僕には、音大生になってひたすらクラシック曲を練習する日常もイメージしづらかった。一方で、数学ならいくら勉強しても苦にならないくらい好きだったので、東京大学に進んで、数学を究めるほうを選びました。
ーーピアノだけをやるよりも、ピアノも数学もできる東京大学を選ばれたのですね。数学を使ってどんなことを研究したのですか。
大学3年生になる頃、AI(人工知能)技術がどんどん発展していた時期です。「音楽に関する工学的な研究ができたらいいな」と思っていたので、工学部計数工学科を選びました。いろいろな音の中から人の声やノイズだけを聞き分けたり、オーケストラのサウンドからピアノの音だけを抽出したりする「音源分離」という研究をしました。
ーー時代の最先端の分野で、「数学」と「音楽」という、好きなことを掛け合わせた研究をしたのですか。
大学院では情報理工学系研究科へ進みました。自分がポップスや環境音などをいわゆる「耳コピ*」してピアノ演奏することから、「自動採譜」という研究に取り組むことにしたんです。例えば、オーケストラの演奏をAIが“耳コピ”して自動的に楽譜にできるのか? ピアノ譜に変換できるか? といったイメージです。
*聴いた音や曲を楽譜なしに楽器などで再現したり、楽譜に起こしたりすること
ーー大学院ではフランスにも留学されたのですね。
教授から、「フランス国立音響音楽研究所でAIを使った音楽の研究をしているけれど興味ある?」と声をかけてもらいました。もちろんドンピシャだったので、交換留学生としてフランスに4カ月半の留学をして、自動採譜の研究をより深めることができて楽しかったですね。将来的に使えるものができるようになって、どんな曲を入れても自分のアレンジになるような、自動で楽譜が作れるところまでいったら面白い世界になるだろうなと思っています。
サークル活動で音楽の幅も広がった
ーー大学時代はサークルにも入っていたそうですね。
クラシックピアノを弾くサークルと、バンドサークルの2つをかけ持ちしていました。とくにバンドサークルでは、ジャズのセッションやファンクのカバーなど好きなジャンルにどんどん挑戦できたので、音楽の幅が広がりました。音大にはそのようなジャンルのサークルはあまりないようなので、音大に行っていたら、そこまでいろいろなことに挑戦できなかったかもしれません。
ーー幅広いジャンルの音楽を演奏できるところが、角野さんの魅力ですよね。東京大学に行ったことによって、音楽にいい影響を与えたところもあるのですね。
音大に行かなかったぶん、「音楽関係のつながりをつくらなきゃ」と意識して行動していた時期もありました。でも、それは心配することではありませんでした。大学院時代に国内最大級のピアノコンペティションでグランプリを受賞したのをきっかけに、本格的に音楽活動をはじめたら自然と音楽関係の人とのつながりができ、そのつながりがまた新しいつながりになり……と広がっていきました。
つまりは、どこにいようと、自分がどう行動するかということが大事なんですよね。大学・大学院時代は、好きなことをとことんやって、音楽の幅やつながりも広げられた時期だったように思います。
角野隼斗(すみの・はやと)/1995年生まれ。2018年、東京大学大学院在学中にピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ受賞。21年、ショパン国際ピアノコンクールセミファイナリスト。“Cateen(かてぃん)”名義で活動する YouTube チャンネルは登録者数が 126 万人超、総再生回数は1億回を突破するなど、新時代のピアニストとして注目を集めている。
(文=竹倉玲子、写真=山本倫子、ヘアメイク=MAIMI)

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