■大学受験の基礎知識

新しい大学として2019年に制度がスタートした「専門職大学」「専門職短期大学」。特定の職業のプロフェッショナルになるために、実践的な教育を受けられるところです。一般的な大学とはどのような点が異なるのでしょうか。教育内容の特色について解説します。(写真=東京国際工科専門職大学提供)

2019年に制度がスタートした新しい大学

2023年8月現在、全国の専門職大学は私立17校、公立2校、専門職短期大学は私立2校、公立1校が設置されています

専門職大学が誕生した背景にあるのは、加速する技術革新や産業構造の変化です。従来の大学のように学術研究をもとにした教育だけでなく、より実践的な職業教育が求められるようになりました。専門職大学を卒業後は専門職として即戦力になることや、現場の最前線に立つリーダーとして活躍することが期待されています。

文部科学省が定めている専門職大学の設置基準には、次のような特色が挙げられています。

・授業の約3分の1以上が実習・実技

・企業などでの実習は通算600時間以上(4年制の場合)

・教員の4割以上は実務経験がある実務家教員

・原則40人以下の少人数授業

・産業界や地域が求める人材を育てる

 

特定の職業に就くために学ぶ学校には、専門学校がありますが、専門職大学の場合は卒業すると「学士(専門職)」という学位が付与されるので、職業に限定されることなく、大学卒の人材として、就職活動や大学院進学、留学などもできます。なりたい職業が決まっている学生、大学は卒業してほしいと考える保護者の両者の思いを実現できるのも、専門職大学のメリットといえるかもしれません。

どんな専門職大学がある? 増える「手に職」大学

特定の職業とは、具体的にどのような職業を指すのでしょうか。現在のところ、専門職大学で最も多いのが、理学療法士や作業療法士などリハビリの専門職を育成する大学です。アール医療専門職大学(茨城県)、東京保健医療専門職大学、びわこリハビリテーション専門職大学(滋賀県)、和歌山リハビリテーション専門職大学、岡山医療専門職大学、高知リハビリテーション専門職大学があります。

そのほか東京、大阪、名古屋にキャンパスがあり、ファッションビジネスを学べる国際ファッション専門職大学、フードビジネスを学べるかなざわ食マネジメント専門職大学(石川県)、電気自動車や自動運転について学べる電動モビリティシステム専門職大学(山形県)などもあります。

上記はすべて私立の専門職大学ですが、公立では農林業経営のプロフェッショナルを目指す静岡県立農林環境専門職大学、芸術文化と観光の2つの視点から地域活性化を学ぶ芸術文化観光専門職大学(兵庫県)があります。

専門職大学の新設のピークは20年度の7校で、23年度は4校が開設されています。

デジタル社会で即戦力となる人材を育成

先進的な建物が特徴の東京国際工科専門職大学(写真=東京国際工科専門職大学提供)

最近は一般的な大学でもデジタル系学部が増加していますが、ICT(情報通信技術)やデジタルコンテンツ技術など情報工学のプロフェッショナルを目指す専門職大学も複数あります。

その一つで日本初となるのが、東京国際工科専門職大学です。情報工学科のほかに、ゲーム開発などについて学べるデジタルエンタテインメント学科があります。冨山哲男副学長はこう話します。

「本学は卒業後の進路が多様です。入学してくる学生の目的は『一般企業に就職してDX担当として活躍したい』『デジタルサイエンスの知識を使ってeコマースを刷新していきたい』など、さまざまです。なりたい職業は決まっていなくとも、デジタル社会で活躍したいという学生に向いています

副学長でもある情報工学科の冨山哲男教授。東京大学人工物工学研究センター教授、オランダ・デルフト工科大学教授、イギリス・クランフィールド大学教授などを務め、工学博士として世界的に活躍(写真=東京国際工科専門職大学提供)

一般的な大学のデジタル系学部とはどのような点が異なるのでしょうか。

「最大の特徴が企業での実習時間の長さです。一般的な大学でもインターンシップに参加しますが、本学の場合、企業内実習の総期間は16週間以上(同専門職大学の特色)、実働時間は600時間以上(専門職大学全般)です。一般の大学に比べて教養教育の時間が若干少ないのですが、その分を実習の時間に充てています。ビジネスの場で自分にどのような仕事ができるのかが、長期間の実習を通じて明確にイメージできるようです」(冨山副学長)

東京国際工科専門職大学では、2年次の後期(1~2月)、3年次の後期(10~11月)、4年次の前期(6~9月)に企業内研修を実施しています。20年度開学のため、24年3月に初めての卒業生を出しますが、実習先の企業に就職が決まった学生が多数です。

実習から理論の順で学ぶ 興味が広がる

大学での実習・実技の授業も充実しています。冨山副学長の情報工学科の授業では、入学後にまず、デスクトップのプリンターを学生たちで分解します。

「プリンターを分解することで、モーターがプリントヘッドをどのように動かしているのかなど、プリンターが作動する仕組みがわかります。分解した後、元に戻せる学生は少ないですが」

一般的な大学では、まず理論を学んで、その後実践を身につけていくことが多いですが、実践、理論の順に学ぶことで、学生が興味を持ちやすく、その後の理論が頭に入ってきやすいという面もあるようです。

産業用ロボットや移動型ロボットを導入し、実践的なロボット教育・研究を行っています(写真=東京国際工科専門職大学提供)

専門職大学の入試は、一般の大学と同様に一般選抜、学校推薦型選抜、総合型選抜があります。試験科目は、専門職大学によって異なります。同大学の一般選抜は書類審査、集団面接・グループディスカッションのほか、高校卒業程度の基礎学力をみたり、思考力や判断力などを確認したりする適性診断が行われます。

「数学や英語に関しては入学後、レベル別のクラス編成をしています。一定レベルに達していない学生は補習でサポートします。大事なのは、やる気とチャレンジ精神です。情報技術を使って企業や社会をよりよくしたいと考える学生に来てもらいたいです」(冨山副学長)

専門職大学の授業は少人数制で、さらに東京国際工科専門職大学では授業科目とは別に担任がつくなど、サポートが手厚く、アットホームな雰囲気もあります。将来、就きたい仕事が決まっている、または実践的なスキルを身につけ社会で活躍したい高校生は、志望校選びの選択肢の一つに入れるといいでしょう。

(文=中寺暁子)

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