■大学いまむかし
大学の新学期が始まって、真っ先にするのは履修する授業を選ぶことです。親の世代の時には分厚いシラバスとにらめっこして、コマを埋めて……という記憶があるかもしれませんが、今はそれを手助けしてくれるアプリが登場しています。その代表格が大学生専用の学習管理アプリ「Penmark(ペンマーク)」です。開発の資金は、実業家の前澤友作さんの「前澤ファンド」から、10億円を調達しました。このアプリを開発した横山直明さんに聞きました。(写真=ペンマークの最高経営責任者<CEO>、横山直明さん。株式会社ペンマーク提供)
ぼっち学生の「困った」から生まれたアプリ

慶應義塾大学の学生の約8割のスマートフォンに入っているという「Penmark(ペンマーク)」。学生専用のSNSアプリで、時間割作成、履修管理、出席記録、授業のレビュー、学生同士の情報交換まで、大学生活全般をサポートしています。現在は同大学のみならず、全国4000校(2023年3月現在、短大・専門学校を含む)に対応する仕様になっていて、数多くの学生たちが利用しています。
このアプリを開発したのが、運営会社であるペンマークの最高経営責任者(CEO)、横山直明さん(慶應義塾大学4年生、現在休学中)。開発のきっかけは、自身の経験によるものだったと振り返ります。
「2015年に慶應義塾大学に入学したのですが、大学2年のときに留年してしまいました。出席必須の必修授業に出席せず、単位を落としてしまったのです。僕は小さなサークルに所属していたので、大規模なコミュニティーに所属する学生が得られる授業や試験の情報がなかなか回ってきませんでした。留年したことは完全に僕自身の過失ですが、例えばこれを就職活動で考えたときに、サークルに所属していなかったり、学費を稼ぐためにアルバイトを頑張っていたりする学生は、OB・OGとのつながりもなく、情報収集に苦労することが多いです。つまり、学生の間に情報格差があるのです。これをどうにかできないかと思いました」
横山さんは、学内のさまざまな情報や口コミにアクセスでき、情報交換をしたり、コミュニケーションを取ったりできる場を作ろうと考え、アプリの開発に着手しました。初めに慶大生向けメディア「Penmark News」を立ち上げ、ツイッターなどを通じて学生生活に役立つ情報や学生インタビューなどを発信しました。そして少しずつフォロワーを増やし、土台を固めていきました。
19年3月に慶大生向けにベータ版アプリをリリースしたところ、1カ月で利用者が1万人を突破しました。
「リリース当時、このメディアのツイッターフォロワー数が約8000人だったので、機能の便利さもさることながら、受け入れられやすい環境は整っていたと思います」
時間割管理や授業の情報交換も可能

「Penmark」の代表的な機能は、時間割管理です。アプリ上の「月曜1限」のコマをタップするだけで、該当する授業の一覧が表示されます。さらに各情報をタップすると、履修者一覧(アプリ登録者)や、口コミ情報などが表示されるため、こうしたものを参考にしながら授業を選択できます。また、履修登録後もアプリ上で課題提出や出欠情報まで一括管理。
さらには、履修者同士が「授業トーク」でつながることができるため、ここで情報交換が行えます。コロナ禍で授業がオンラインになったときも、この機能が役立ったといいます。
「オンライン授業では学生同士の交流が難しくなっていましたが、アプリ上でつながり、本来は教室で行われるような会話ができました」

コロナ禍での危機 「前澤ファンド」から資金調達

アプリの拡大に手応えを感じ、他大学への展開を考えていた矢先、新型コロナウイルスの感染が拡大。すでに法人化していたため、資金調達の問題も重くのしかかっていましたが、19年冬に申請していた前澤ファンドの審査に通過しました。これは実業家の前澤友作さんによるファンドで、10人の起業家に10億円ずつ出資するというものでした。
「通るわけがないと思っていたのですが、思いがけず2次、3次と通過。そのたびに前澤さんとの質疑応答があり、難度の高い宿題を課されました。毎年、新しい大学生が何万人も流入することや、このアプリの集客力、ユーザーリストの価値についても一定の評価をもらえました。『大学生活のDXを推進する』という、会社が実現したいことも明確になっていきました」
22年7月時点で、前澤ファンドからの累計調達額は約10億円(増資、融資合わせて)となりました。今後は学業に役立つ機能を拡大させていくほか、教科書の購入や資格取得のための学校紹介など、さらに便利な機能を充実させていく予定です。
「Penmark」のほかにも、大学生自身が、大学生活を便利にするアプリを開発する例は増えています。22年3月には「九州大学アプリ」(大学非公認)がSNSで話題になりました。「コロナ禍の学生が情報過少で悩むことをなくしたい」という思いから九州大の学生個人が開発し、22年4月時点で九大生の25%以上がインストールしています。
学生自身の困りごとを解決するために開発されたアプリは、使い方がどんどん広がり、情報格差の解消に役立っています。また、大学での友だち作りや孤独に悩む「ぼっち」学生にとっても、アプリでのつながりは新しい友人関係を築くきっかけともなってくれます。上手に活用すれば、大学生活の強い味方になってくれそうです。
(文=𠮷川明子)

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