■特集:文系、理系…どっち?「文理選択」を考える

日本では理工系に進む女子が少なく、政府や各大学が女子を増やす取り組みを進めています。女子は理数系が苦手なのでしょうか? IT分野のジェンダーギャップの解消を目指すNPO法人「Waffle」の代表・田中沙弥果さんに、日本の現状や女子の進路選択について聞きました。(写真=中高生向けのイベント「Technovation Girls 2023」日本公式ピッチイベントの様子、Waffle提供)

科学・工学系女子はOECDで最下位

田中さんは、理工系の女子の現状を次のように話します。

「日本の大学で工学部に在籍する女子の割合は14.5%で、データを公表している世界116カ国の中では109位という低さです。しかも、その割合は昔も今もあまり変わっておらず、Waffle独自の調査では、このままでは工学部の女子の割合が50%に達するまでに77年もかかるという結果が出ています。さらに15歳を対象にした国際的な調査学習到達度(PISA)によると、『科学・工学分野の専門職に就きたい』という女子は日本ではわずかに3.4%で、評価対象となった63カ国・地域で最下位というのが現状です」

(『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』Waffle著、リトルモア刊から抜粋)

では、日本の女子は理数系が苦手なのでしょうか。日本の女子の学力は、PISAによると、数学で世界7位、科学で6位と、他国と比較してもトップレベルといえます。また、下のグラフを見てもわかる通り、PISAにおける日本の女子の成績はIT大国のアメリカの男子と比べても、ずっと成績がいいことがわかります。

(『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』Waffle著、リトルモア刊から抜粋)

まだまだ根強い偏見

それにもかかわらず、理工系に進む女子が少ないのはなぜでしょうか。田中さんは、さまざまな原因が考えられると言います。

「まず理工系学部にそもそも女子が少なく、ロールモデルがいないことがあります。入試の数学は難しいと思い込んでいる女子も少なからずいます。さらに身近な大人たちの影響が考えられます。先生や保護者が『女子は数学が苦手』『理工系は研究を長時間やるので大変』などと何げなく言った言葉が、生徒の進路選択に影響することもあります」

また、「女性も手に職を」と言うものの、その職として思い浮かべるのは医師や看護師、薬剤師などで、ITのような新しい分野は不安定というイメージを持たれがちです。しかし、今はあらゆるものにIT技術が使われており、「ITエンジニアこそ、令和版の『手に職』だと思っています」と田中さんは言います。

まずは理系の楽しさを広める

こうした状況を受けて、女子の意識を変えたり、理系進学を後押ししたりしようという取り組みが、高校や大学で増えています。例えば、昭和女子大学附属昭和中学校・高等学校では、小学生向けに実験イベントを開催しているほか、在校生向けに大学と連携してデータサイエンスのシンポジウムを開いたり、理系の大学の学生にメンターとして授業のサポートに入ってもらったりしています。この結果、理系に進学する生徒が増えています。

大学側も、理工系に進む女子を増やそうとする動きが広がっています。東京工業大学では、2024年度入試から学校推薦型選抜と総合型選抜で「女子枠」を導入します。芝浦工業大学では、18年度入試から公募制推薦に「女子枠」を設け、22年度入試からは一般選抜で成績優秀な約100人に入学金相当額(28万円)を奨学金として支給しています。

23年5月には、東京大学や京都大学など国立10 大学の理学部がタッグを組み、ポータルサイト「理学ナビ」を開設しました。理学部での大学生活や卒業後のキャリアの情報を提供するなどしています。

昭和女子大学附属昭和中学校・昭和高等学校で行われた理工系分野を学ぶ大切さを紹介するシンポジウム会場(写真=同校提供)

文系の知識×理系の技術で課題解決

女子が理工系に進むメリットは何でしょうか。田中さんは「例えば、今はあらゆるところにIT技術が使われていますが、その作り手の多くは男性です。そこに男性以外のマイノリティーが入ることで、広い視点で世の中の課題を解決できる可能性が広がります。また、IT技術職は人材が足りていないため、高収入である確率も高く、働き方も柔軟な企業が増えてきていて、結婚や出産などのライフイベントの影響が比較的少なく、長期的に働き続けることができます」と言います。

これは、IT業界に限りません。女性がメンバーに入ることで商品開発や企業経営に新しい視点が加わり、管理職に女性が多い企業は業績が伸びるという調査結果もあります。工学系の中でも特に女子学生が少ない電気や機械の業界は、新卒の女子に対して企業から引く手あまたの状況です。さらに企業側は入社した女性が働きやすいよう、さまざまな対応をしつつあります。ところが、このような現状はあまり知られていません。

ここに来て理工系の大学の女子の志願者は増えつつあります。女子校と理系大学との高大連携や、高校での探究学習などを通じて女子が理系分野に興味を持つようになっているという指摘もあります。

一方の文系はどうでしょうか。

「社会を見渡してみると、テクノロジーがいたるところで活用されていることがわかります。今、ITとかけ合わせて課題解決する力が必要とされています。つまり、文系の知識を究めつつ、ITの技術も学んでおくことが、これからの社会で活躍するためには大事なことではないかと思います」(田中さん)

例えば、津田塾大学総合政策学部のように、文系学部でもデータサイエンスを学ぶところがあります。逆に言えば、理系に進んでも専門分野だけを究めればいいわけではなく、幅広い知識が必要とされるのです。

田中さん自身、高1で理系クラスを選んだものの、短期留学をきっかけに外国語学部に進学しました。ところが留学先でテクノロジーの祭典に参加したことをきっかけにIT技術の面白さを知り、「この世界で働きたい」とプログラミングを学んだ経緯があります。

ChatGPTをはじめ、AI(人工知能)の進歩が連日のようにニュースで取り上げられたり、2025年1月実施の大学入学共通テストから新しい教科「情報」が追加されたりするなど、よりテクノロジーが身近な存在になりつつあります。

保護者の方も、女子の理工系進学の状況が変わりつつあることを知り、「女子は文系がいい」などといった先入観にとらわれないことが大切です。そして、我が子が好きな分野を究められるよう、応援してあげたいものです。

(写真=Waffle提供)

田中沙弥果(たなか・さやか)/NPO法人Waffle 理事長。1991年生まれ。2017年、NPO法人みんなのコード入職。19年にIT分野のジェンダーギャップを埋めるために一般社団法人Waffleを設立。20年Forbes JAPAN誌「世界を変える30歳未満30人」受賞。内閣府若者円卓会議委員、経済産業省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」委員。Waffleの著書に『わたし×IT=最強説 女子&ジェンダーマイノリティがITで活躍するための手引書』(リトルモア刊)。

(文=竹倉玲子)

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