■特集:文系、理系…どっち?「文理選択」を考える
数学が苦手だから、文系に進もう。そう考える高校生は少なくないかもしれません。しかし、データサイエンスやAI(人工知能)が重要視されている現在、そのような考え方だと大学に入って困ることになりかねません。数学とは、どのように付き合っていったら良いのでしょうか。(写真=昭和女子大学附属昭和中学校・昭和高等学校提供)
国公立大を受験するなら文系でも数学は必須
高校の数学は、「数Ⅰ」「数A」「数Ⅱ」「数B」「数Ⅲ」「数C」の6科目で構成されています。このうち必修科目は「数Ⅰ」のみ。残る科目の扱いは高校ごとに異なりますが、私立大の文系学部は数学を使わずに受験できるところが多いため、私立文系志望のクラスでは、数学の授業は「数Ⅰ」「数A」のみという高校もあります。
例えば、東京都内のある私立女子高校の私立大を目指すコースでは、1年の時に「数Ⅰ」「数A」を学習したのち、2年で文系、理系に分かれます。文系を選んだ場合は、2年以降は数学の授業がなく、国語や地歴公民、英語に力を入れるカリキュラムになっています。
国公立大を受験する場合、大学入学共通テストでは、文系、理系ともに「数Ⅰ」「数ⅠA」から1科目、「数Ⅱ」「数B」「数C」から2科目を選択します。「数Ⅲ」については、国公立大の理系学部の2次試験や、私立大の理系学部の一般選抜の出題範囲になるのが一般的です。
つまり、文系でも「数Ⅱ」「数B」までは履修しておかないと、国公立大は受験できません。しかし、「数学が苦手」という高校生は少なくなく、学研教育総合研究所が2021年に高校生600人に行った学習に関する調査でも、数学は「嫌いな教科」のトップで、全体の22.3%にのぼっています。そのため、「数学を捨てて、英語、国語、地歴公民の3教科で勝負できる私立文系を選ぼう」という生徒が出てくるのです。
※学研教育総合研究所「高校生の日常生活・学習に関する調査」(2021年)をもとに編集部で作成
高校の数学は入試のためだけではない
では、「数学を勉強しない」という選択は、ありなのでしょうか。スーパーサイエンスコースを設置し、理系教育に力を入れる昭和女子大学附属昭和中学校・昭和高等学校の真下峯子校長の見解はこうです。
「数学をやるかやらないかというのは、大学入試での選択肢にすぎません。現実には、文系である経済学部でも数字を扱いますし、現代社会を生きていくうえで、目の前のデータが本物かどうかを見極められなければ、数字にだまされてしまうこともあるでしょう。ましてや社会で活躍するためには、文系に進む場合も、関数や統計といった分野の基礎が学べる『数Ⅱ』『数B』まではやるべきだと思います。
もちろん、数学が苦手な生徒もいますし、『女子は数字に弱い』と言う人もいます。でも、男子でも数学が苦手な人はいるし、生徒を見ていると、それは先入観でしかないと感じています。だれでもコツコツと勉強すればできるようになります」
同校では、文系、理系を問わず、「数Ⅱ」「数B」は必修科目です。その効果もあってか、最近は約3割の生徒が理系学部に進学しています。
また、真下校長がかつて教頭を務めた埼玉県立川越女子高校では、高2までは数Ⅱ、数Bを全員が学習し、文系、理系に分かれるのは高3になってからのカリキュラム編成に変更し、現在もそのカリキュラム編成になっています。一部の私立中高一貫校では同様の傾向にあります。
できるところまではやってみる
真下校長はこうも話します。
「数学をどこまで履修するかで受験できる大学が変わってくるのは現実です。数学が苦手というだけで、大学選びの選択肢を狭めないで、と言いたいです。それだけで人生を簡単に決めないでほしい。少しでも迷いがあったら、全部にチャレンジするつもりで、数学も頑張ってみてほしいです。ただ、数学をいかに楽しく学べるかは、私たち学校側の責任でもあります」
代々木ゼミナール教育事業管理本部の佐藤雄太郎本部長も数学について、「まずは高1の時点から、授業をしっかりと聞いてしっかり勉強するように心がけることです。数学が少しくらい苦手でも、他の得意科目でカバーして、バランスを取ることもできます」と言います。
全国の高校で、文理選択をはじめとするキャリア教育の講演を行っているリクルートのキャリア教育専門誌『キャリアガイダンス』編集長の赤土豪一(しゃくど・ごういち)さんも、数学が苦手だからという理由だけで、数学を“捨てる”ことには否定的です。
「文理を選択する前に、卒業後の進路についても少し考えてみることをおすすめします。『自分は今後何を学んでいきたいか』、もし数学が苦手だとしても、その学びに必要ならば、数学に向き合うモチベーションになります」と、やりたいことから考えるアプローチも重要だとしています。
大学受験を考えて、苦手科目を避けたくなる気持ちはわかります。しかし、文系、理系にかかわらず、高校時代に数学の基礎力を養うことは、情報化が進む最近の社会では後々、役に立ちます。安易に「数学を捨てる」選択をするのは得策ではないようです。
(文=竹倉玲子)

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