■ランキングまるわかり
子どもから「医学部を目指したい」と言われたとき、頭をよぎるのは学費のことかもしれません。国公立大学と違って、私立大学の医学部は学費が高いことで知られています。実際いくらくらいかかるのでしょうか。また、学費を抑える方法はあるのでしょうか。学費の安い私立大医学部と高い大学の上位10校のランキングを紹介します。(写真=順天堂大学、2019年 朝日新聞社撮影)
私大医学部の学費に大きな差
医系専門予備校メディカルラボがまとめた全国31校の「私立大学医学部学納金ランキング(6年間総額)」(2023年9月初旬時点)によると、学費が安い私立大学医学部は以下の10校です。

最も安いのが、国際医療福祉大学の1850万円です。2位は順天堂大学の2080万円、3位は関西医科大学の2144万円で、以下、上位10校まで2000万円台になっています。
次に、学費が高い私立大学の上位10校を見てみましょう。

最も高いのが、川崎医科大学で4740万円です。次いで東京女子医科大学、金沢医科大学も4000万円台となっています。医学部のある31校の私立大学のうち、約3分の2(31大学中20大学)が3000万円以上となっており、私立大学医学部の学費が高いことがわかります。31校の平均は約3200万円です。
なお、国立大学は学部にかかわらず、学費の標準額は授業料が年間53万5800円、入学金が28万2000円と決められており、医学部の6年間の学費は349万6800円となり、公立大学もこれに準じています(一部大学を除く)。
メディカルラボ情報研究所の山本雄三所長は、「私立大学の医学部は昔、多くの大学が運営費用の一部を寄付金でまかなっていた歴史があります。このことが学費の高さにつながっていると考えられます」と言い、その歴史を次のように解説します。
私立大学医学部が続々と新設されるようになったのは、1961年に国民皆保険がスタートしたことがきっかけです。医療機関を受診する人が急激に増え、医師不足が大きな社会問題となり、医学部を設立しようという機運が高まりました。
その際、国は財政支出の増大を避けるため、国公立大学よりも私立大学を増やす政策を取り、1970年以降に私立大学医学部が続々と開設されました。医学部をつくる際には、付属病院や研究施設が必要で莫大な資金を要するため、寄付金が非常に大事な要素になりました。
しかし、入学者の選考に寄付金がからんでいるのではないかという「裏口入学」の疑惑が問題になったことから、文部省(当時)は1977年、入学を条件とした寄付金を一切取らないように要請する通達を出しました。その結果、翌年から授業料のほか実験実習費、施設充実費などを含めた年間の学費が多くの私立大学で約4倍に上昇しました。
一方、大学による学費の差は当時からありました。メディカルラボの資料によれば、1981年度の初年度納付金(入学金を含む)は最も安い慶應義塾大学の161万円から、最も高い金沢医科大学の1530万円まで10倍近い差がありました。「慶應義塾大学の医学部は、昔から学費が安いことで知られていました」と山本所長は言います。
2024年度用のランキングでは、慶應義塾大学の初年度納付金は387万3350円(2023年度)で、当時に比べれば倍以上に上がっているものの、私立大学31校(同)4番目に安くなっています。最も高いのは、川崎医科大学の1225万円です。その差は大きく変わっていないといえるでしょう。
国からの補助金が少ない私大医学部
山本所長は次のように話します。
「私立大学医学部の運営に高いコストがかかるのは現在も同じです。医学部の教育は少人数制で行われ、学生1人当たり3~4人の教員が必要で、人件費がかかります。実習に使うシミュレーターなど、最新鋭の医療機器も必要です。近年はさらに高額の機器が増えているので、ほかの理系学部と比較しても高いコストがかかります。また、私立大学は国公立大学とは異なり、国からの補助金が少ないことも、学費を高くせざるを得ない理由でしょう」
2000年代後半から広まったのが、私立大学医学部の学費を下げる動きでした。
2008年に順天堂大学が6年間の学費を約900万円も大幅に下げたのが皮切りで、その結果、志願者が増えるなど医学部受験に大きな変化をもたらしました。
山本所長はこう話します。
「順天堂大学は学費を下げた結果、志願者が急増し、優秀な学生が集まることで偏差値が上がりました。立地が東京・お茶の水とよく、心臓外科医の天野篤医師など著名な医師がいることなども、人気に拍車をかけました。現在は受験生の人気、難度ともに、慶應義塾大学、東京慈恵会医科大学、日本医科大学の『私立医学部御三家』と肩を並べるまでになっています」
山本所長によれば、学費を下げても志願者が増えれば、受験料で補うことができます。私立大学医学部の受験料は平均6万円、人気のある大学には3000人を超える志願者が集まるためです。
「日本医科大学、東邦大学、帝京大学なども学費を下げました。この傾向は続いており、2023年度入学生からは関西医科大学が6年間で670万円引き下げ、それまでの2770万円から2100万円になりました。この結果、関西医科大学は国際医療福祉大学、順天堂大学に次いで学費の安い大学になっています」
学費を下げることで、優秀な学生を集め、ボーダーライン偏差値の上昇とともに人気が上がっていくことを意図している動きです。
「修学資金貸与制度」に注目
それでも、一般家庭にとって私立大学医学部の学費は安くありません。山本所長は学費に悩む保護者に、次のようにアドバイスをします。
「学費が免除される修学資金貸与制度のある大学を検討する手があります。自治医科大学は、入学者全員に学費が減免される修学資金貸与制度があります。これは大学卒業後、医師となり、その後に指定された臨床研修病院などで一定期間勤務した場合に返還が免除されるものです」
修学資金貸与制度のある大学にはほかに、東北医科薬科大学、産業医科大学があります(いずれも学費の一部を減免)。
地域医療に従事する医師を養成することを目的とした「地域枠入試」を活用する手もあります。
主体となる地域の自治体が大学と連携して募集を行っており、修学資金を貸与してくれます。全国の都道府県で地域枠での募集区分が設けられており、各大学のホームページに詳しい情報が掲載されています。
地域枠入試には、地元の出身者や地元の高校の卒業生であるなど出願条件があるものと、出身地を問わず、どの地域からでも受験できるものがあります。後者を選択肢に入れると、医学部受験のチャンスは広がります。
また、意外に知られていないのが、医学生を対象にした修学資金貸与制度です。例えば、「長野県医学生修学資金貸与制度」では、将来、長野県内の公立・公的病院等に従事する意欲のある1~2年次の医学生を対象に募集し、月額20万円を貸与しています。また、新潟県村上市では、同市内の病院で医師の業務に従事しようとする医学生に対して、修学に必要な資金を貸与しています(私立大学は月額30万円)。
このほか、病院が独自に行っている修学資金貸与制度もあります。医師になった後、その病院に勤務することを条件に学費を貸与する制度です。例えば、徳洲会グループは医学部入学予定または医学部に在学する学生を対象に、卒業後に徳洲会グループ病院で勤務を希望する人に月額15万円の資金を貸与しています(名称は奨学金制度)。
ただ、修学資金貸与制度の利用には、注意点があります。それは、勤務を途中でやめてしまうなど、返還免除の条件が満たされなかった場合、貸与額に利子が加わった金額を返還しなければならない決まりがあるということです。
医学部の高額な学費は悩ましい問題ですが、地域枠や修学資金貸与制度を利用する場合には、医師になった後にどのような場所で、どのような働き方をしたいかを考えることが大事です。なぜ医師を目指すのか、どんな医師になりたいのかなどを含めて、家族でよく話し合うことが大切です。
(文=狩生聖子)

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