大学選び、行きたい学校が「仏教系」だった どんな「必修科目」がある?

2024/04/22

■令和の大学を考える

私立大学は、それぞれに建学の精神があり、さまざまな特徴を持っています。その中には「キリスト教系」「仏教系」など、宗教を起源に持つ大学が多くあり、大学の成り立ちや学びにも影響しています。教育ジャーナリストの小林哲夫さんが、宗教系大学について解説します。(写真=龍谷大学、2023年朝日新聞社撮影 本文中の学生数、就職先採用人数は『大学ランキング2024』から、2022年の数字)

歴史あるルーツを持つ仏教系大学

大学を選ぶにあたって、受験生は学びたい分野、将来への道筋、難易度、大学の所在地、通学の利便性、校風などを考えるだろう。その大学がキリスト教系、仏教系といった宗教系の場合はどうか。受験生にとっても大学選びで大きなポイントとなるだろうが、学びたい分野、難易度のほうが優先順位は高いのが現実だ。もっとも受験生にすれば、そもそも宗教系大学にはどんな特徴があるのか、知りたいところだろう。

宗教系大学をいくつか紹介しよう。仏教系、キリスト教系の大学の沿革や教育理念から、歴史のダイナミズム、人間の生き方について知ることができる。

まず仏教系から見てみよう。

四天王寺大(大阪)は、593(推古元)年に聖徳太子が設立した四天王寺敬田院がルーツとなっている。種智院大(京都)は、828(天長5)年、弘法大師空海が創設した綡芸種智院からはじまった。同校の学長はこんなメッセージを送っている。

「現代社会は、とかく物質的繁栄を最優先の目標に進んでいるようにみえます。しかし一方で、人びとの『こころ』には、言い知れぬ『すき間』が生まれています。密教は、この空虚感を克服する可能性を秘めています。本学をめざす受験生のみなさんは、本学で真言密教の智慧を通した学びを積むことによって、自分が探しているものを、きっと見つけることができると期待しています」(大学ウェブサイト)

この2校は規模が大きくない。学生数1万人以上の仏教系を紹介しよう。

立正大(東京)は、1580(天正8)年に日蓮宗の教育機関として設立された「檀林」が源流となっている。2022年5月時点で、学生数1万90人。駒澤大(東京)は、1592(文禄元)年に曹洞宗が仏教の研究、漢学の振興を目的として設立した「学林」からはじまっている。学生数1万3464人。龍谷大(京都)は、1639(寛永16)年、浄土真宗の西本願寺に寺院子弟教育のために設立した学寮がルーツだ。学生数1万9959人。古代そして中世から近世にかけての日本史をのぞくことができる。

ジェンダー平等、グローバル化も実現

駒澤大は2021年に各務洋子学長が就任した。同大学初の女性学長で、仏教系では特に珍しい。各務学長はこう話している。

「駒澤大学の根幹をなす仏教のもつ“智慧と慈悲”の精神は、コロナ禍で疲弊した我々の心のまさに“よりどころ”となります。ここに本学の存在意義があることを再確認したいと思います。坐禅の体験は、本学の重要な学習経験と人格陶冶の基礎となります。この上に、人類の英知の結果である先端技術を最大限に活かすことにより、教育・研究の在り方を再定義し、授業の進め方の多様化を考えています。と同時に、デジタル・トランスフォーメーション(DX)によって、組織の在り方や大学運営の効率化を促進してまいります」(大学ウェブサイト)。DXに取り組んでいる仏教系、じつに頼もしい。

グローバル化に力を入れているのが、龍谷大だ。『大学ランキング』の指標をみると、2022年度の外国人留学生401人(35位)、外国人教員31人(52位)、また、コロナ禍以前で2019年度の海外への留学生派遣143人(16位)となっている。なかでも国際学部グローバルスタディーズ学科では「TOEIC® TEST 730点、TOEFL®(PBT)550点または(iBT)80点、IELTS™ 6.0を卒業要件化。卒業時の英語力を保証します」「授業の約80%は英語または英語+日本語。専門分野を英語で学びます」を謳っている(大学ウェブサイト)。

大学のグローバル化では仏教系ゆえの強みを発揮している、という大学関係者の話を多く聞くことができた。海外に留学した際、外国人に仏教をしっかり語ることができる。それによって文化交流が盛んに行われ、語学力はアップする。仏教系でない大学では難しい
――という理由からだった。

龍谷大の母体である浄土真宗本願寺派は19世紀末、女子高等教育の必要性を訴えた。1899(明治32)年に顕道女学院を創立する。これが京都女子大(京都)の起源であり、仏教系初の女子大学となった。学生寮では、毎朝、仏を拝むことから1日が始まる。女子大学設立趣意書には「つらつら現今教育の施設を見るに、男子に厚くして女子に薄きことなきや」を掲げており、いわばジェンダーを先取りした形だ。2011年に女子大で初めて法学部を設置、23年にはデータサイエンス学部を開設した。竹安栄子学長は大学のグランド・ビジョンをこう掲げている。

「第1項目は、ジェンダー平等の実現に貢献する人材の養成、第2は、SDGs達成に貢献する大学、第3は多様性の実現と女性の生涯にわたる学びの支援、第4は世界の大学との連携、第5は新たな価値の創造です」(大学ウェブサイト)

仏教の教えは、考え方に影響する

進路はどうだろうか。

警察官採用ランキングは次のとおり。龍谷大8位(63人)、駒澤大13位(46人)、立正大20位(37人)、愛知学院大(愛知)21位(36人)。愛知学院大駒澤大と同じ曹洞宗系である。2022年に同校を卒業して愛知県警察本部に採用されたOBがこう話す。

「剣道で鍛えた精神力や体力、そしてゼミや講義で得た『相手の立場で考える視点』は、どちらも必ず警察官として生かせるはず。小さな問題点や気づきを見逃さず、信頼される警察官になりたいです」(大学ウェブサイト)

仏教系大学のほとんどは仏教関連科目が必須となっている。駒澤大はこう誇る。

「駒澤大学の建学のもとになった仏教と禅の教えを中心に、人間について考える科目です。必修科目『仏教と人間』を手がかりとして、あくまでも学問的に仏教や禅の考え方を参照しつつ、人生の意味や社会のありかたについて自ら考える科目です。選択科目の『坐禅』の授業も、とても人気があります」(大学ウェブサイト)

かつて、仏教系大学なのに大学パンフレットで仏教色を表に出さないところがあった。キリスト教系に比べるとどこか地味で特に女子から敬遠されるのではないかと恐れたからだ。考えすぎである。大学選びで仏教をネガティブに捉える受験生はいない。逆に興味津々の受験生がいる。仏教系大学もこのあたりを十分にわかってきたようで、仏教の教えを積極的にアピールするようになった。

後編では、キリスト教系大学について解説する。

 >>宗教系大学を知る【後編】 立教、青学… キリスト教系大学の歴史と学びは?

>>【連載】令和の大学を考える

(文=小林哲夫)

プロフィール

小林哲夫(こばやし・てつお)/1960年、神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。大学や教育にまつわる問題を雑誌、ウェブなどに執筆。『大学ランキング』(朝日新聞出版)編集統括。『日本の「学歴」 偏差値では見えない大学の姿』(朝日新聞出版・共著)ほか著書多数。

 

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