文系と理系を「掛け合わせる力」が大事 スプツニ子!さんが考えるAIの行方

2023/07/12

■【特集:文系、理系…どっち?「文理選択」を考える】インタビュー(後編)

大学進学を前にした高校生は、文系、理系のクラス分けのとき、どちらに進めばいいのか迷う人も多いと思います。イギリスの大学で数学とコンピューター・サイエンスを専攻した、東京藝術大学准教授のアーティスト、スプツニ子!さんに、テクノロジーやAI(人工知能)が発達していく社会ではどんな力が求められるのかを聞きました。(写真=MAMI ARAI)

スプツニ子!さんが語る「文理選択」 女性の理系分野への進出がイノベーションを起こす

テクノロジーと他分野の掛け合わせがイノベーションを生む

――高校で文系と理系のどちらに進むか選択するとき、数学が得意だから理系、苦手だから文系という単純な理由で決める人も多いようです。

数学が苦手だから理系に向いていないと考えるのは、少しもったいないと思います。今、生成AIのChatGPTが話題になっていますが、これからはプログラミングのあり方もかなり変わると言われています。例えば、従来のプログラミングはそれなりに数学的知識が必要になる場面もありますが、これからはAIがプログラムを書けるような時代になると言われています。

新しいAIで重要になるのは、いかに良い質問や指示ができるかということです。良きコラボレーターになってAIに的確な質問や指示をすれば、いいアウトプットを引き出すことができます。ですから、数学ができることが必ずしもエンジニアの条件ではなくなり、コミュニケーション(質問や指示出しのスキル)でカバーできる部分も増えてきます

――となると、文系とか理系とかいう捉え方を変える必要がありそうです。

現代はテクノロジーやサイエンスが社会の隅々に浸透し、私たちの生活や教育、仕事などを変革しています。そうした状況では、テクノロジーやサイエンスのことをきちんと理解して、どうすれば既存の分野にイノベーションを起こせるか考えられることが重要になってきます。

今、アメリカで盛り上がっているのが「AI×倫理」「AI×社会学」「AI×教育」など文系分野との組み合わせです。両方の知識があり、二つを掛け算して課題解決を考えられる人が求められていますが、そういった人材が圧倒的に不足しているのが現状です。アメリカにはニューヨークのAI Now研究所やスタンフォード大などAIと倫理や政治、社会学などの関係を考える研究所があり、それらの研究員が政府のアドバイザーをしたり、企業の活動に問題提起をしたりしています。

――逆に文系出身でAIの知識がある人も必要になるのでしょうか。

足りていない実感があります。倫理、教育、経済、社会、政治などのほか、ファッション、アート、デザインもテクノロジーとの掛け合わせによって変わっていくと思います。

――今後はデザインなどの分野でも掛け合わせが重要になっていくのでしょうか。

日本のデザインの歴史は長いですし、素晴らしいデザイナーもいます。テクノロジー×デザインでは、かつてソニーがウォークマンで大きな影響を与えました。戦後の高度成長期は若い世代が新しいものを次々と作りましたが、この30年ほど、企業は年功序列や縦割りのヒエラルキー、同質性の高さなど、組織づくりに失敗したためにイノベーションが起きにくくなり、停滞しています。

組織の同質性については、アメリカの心理学者、アーヴィング・ジャニスが「グループシンク」という概念を提唱しています。集団の同質性が高いと、自分たちの判断は正しいと過剰に思い込んでしまうのです。自分たちを過大評価して異論を唱える人を抑圧するから、イノベーションが生まれにくい組織になるわけです。

――理系の人はデザインや人文学を学び、芸術系の人はテクノロジーを取り入れるような掛け合わせが必要なのですね。

今、社会で大きな変革が起きているのは、すべてテクノロジーが掛け合わされた分野です。例えば、インターネットで音楽業界は変化し、私たちはストリーミングで音楽を聴くようになりましたし、アートとブロックチェーンが掛け合わさってNFTアートが生まれました。アメリカは特にこの掛け算が発展していて、さまざまなイノベーションが起きています。テクノロジーを理解して、ポジティブに使っていくことが重要です。

スプツニ子!さんがAIで生成したプロフィール写真。「AIの利用でデザイン分野にも今後、イノベーションが起こるのではないでしょうか」

文系×理系×芸術系で可能性が拡大

――「掛け合わせ人材」になれると、可能性が大きく広がりますね。

今後も掛け合わせは本当に重要になってくると思います。テクノロジーにはいろいろな変化が起きていて、すごく面白い分野です。大事なのはテクノロジーという道具を何に使うかです。例えば、包丁という道具を作るのがいくらうまくても、どう使うのか、何を切るのかが分からないと、その道具で新しい料理を生み出すことはできません。掛け合わせで未来をつくっていくわけです。

――スプツニ子!さんは数学科、情報工学科を卒業してエンジニアとして働き、その後、アーティストとしても活動しています。活動の原動力はなんですか。

私は日本で育ってアメリカンスクールに通っていましたが、その頃からジェンダーギャップは感じていたし、外国人差別を受けたこともあります。「世界を良い方向に変えられたら」と思う気持ちはその頃から強かったと思います。その後、イギリスの理系大学でもジェンダーギャップを感じ、リサーチをはじめ、女性のロールモデルが少ないことに危機感を抱き、意思決定層やテクノロジーの分野が男性に偏っていることに気づきました。

アートによってコミュニケーションをうながし、問題提起をすれば社会が変わるかもしれないと思い、大学院はロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術学院)というイギリスの美大に入り、当時の卒業制作が世界中に広がりました。

――それで今の活動があるのですね。最後に、これから大学生になる人たちに、どんな力をつけてほしいですか。

将来は自分の知識をベースに、AIにいろんな質問や指示をしながらコラボレーションして仕事をしていくことになると思います。問いを立てる力、自分の意見を伝える力、議論する力、調べる力、満遍なくコンテンツを学び、応用する力を育てていってほしいです。

 

スプツニ子!/アーティスト。株式会社Cradle代表取締役社長。東京都生まれ。06年ロンドン大学インペリアル・カレッジの数学科と情報工学科を卒業。08年英国王立芸術学院入学、卒業制作で「生理マシーン、タカシの場合。」などを制作。マサチューセッツ工科大(MIT)メディアラボ助教、東京大学大学院特任准教授を経て、現在、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。17年世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダー」選出。第11回「ロレアル‐ユネスコ女性科学者 日本特別賞」など、受賞多数。

(構成=仲宇佐ゆり)

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