「数学が苦手な理系」だった元日テレアナ桝太一さん もう一つ苦手だったことは?

2023/06/16

■特集:文系、理系…どっち?「文理選択」を考える【インタビュー:前編】

日本では高校の早い段階で文系、理系にクラスが分かれるのが一般的です。一方、AI(人工知能)の普及などを背景に、文理融合教育が求められるようになっています。文系、理系の選択や、大学での学びをどう考えればいいのでしょうか。日本テレビのアナウンサーだった枡太一さんは、2022年に退社した後、同志社大学ハリス理化学研究所で研究者としての活動を始めました。東京大学理科二類に現役合格した経歴ながら、受験勉強で最も苦しんだ科目は数学だったという桝さんに、理系に決めた経緯や、研究者になって感じたことなどを、平岡妙子編集長が聞きました。

――中高時代の得意科目は、生物と国語だったそうですね。

その2つの科目は大好きでした。自主的に勉強していたので、学校での成績も良かったです。一方、苦手だったのが数学。中学に入学して最初の中間テストがいきなり赤点で、ショックでした。

――生物は理系科目で、国語は文系科目ですから、文系、理系の選択は迷ったのではないですか。

そうですね。好きな国語と生物を組み合わせた勉強を大学でしたかったのですが、当時、私が知る範囲では、そうした学部はありませんでした。それでいろいろと考えた結果、ひとまず理系を選んでおこうと思いました。文系クラスから理系の学部を受験するのは難しいけど、理系クラスを選んでおけば文系の学部も受験できるという話を、どこかで聞いたんですね。だから理系クラスに入ってからも、もしかしたら文系学部を受験するかもしれないという気持ちがありました。

最終的に理系でいこうと腹をくくったのは、高3になってからです。でも、自分の中では仲良く共存していた国語と生物という2つの科目が、大学受験のシステムによって引き裂かれてしまい、なんだかモヤッとした気持ちが残りました。

――理系クラスに入ってからも、数学は苦手だったのですか。

赤点を取った時点で奮起していれば、苦手意識を克服できたかもしれませんが、中学・高校とずっと生物部の活動に没頭していて、数学の勉強どころではありませんでした。高2の時点では、中学レベルの数学もよくわかりませんでした。

――そこまで数学が苦手でありながら、最終的に理系でいくと腹をくくったこと、さらには東京大学を志望校に選んだのは、なぜでしょうか。

理系でいくことを決意したのは、数学への苦手意識よりも、生物が好きだと思う気持ちが上回ったからです。国立大学を受験したのは、受験科目が理系科目に限定されていなかったからで、もし理系科目だけで合否が決まる私立大学だったら、合格できなかったと思います。

――受験勉強はどのように進めましたか。

高2、高3のときは、ほぼすべての勉強時間を数学に充てました。理科は生物・化学を選択したおかげで、数学以外は極端に苦手な科目はありませんでしたし、生物は教科書を読むのも楽しくて、高1で大学受験の範囲はすべて終えていました。でも結局、数学は最後まで克服できませんでした。

高3の東大模試の数学は、120点満点中6点。でもかつての私からすれば点数を取れた問題があっただけでも上出来でしたし、数学がこの点数でもC判定が取れたので、「生物と国語で点数をこれくらい取れば、数学で取れない分をぎりぎりカバーできる」という、自分なりの勝算がありました。

――その結果、東大に合格しましたが、大学での数学の勉強は大丈夫でしたか。

いえ、まったく大丈夫ではありませんでした(笑)。授業もそうですが、卒論でも修士論文でも数学は必要だったので、泣きそうになりながら勉強しました。でもそのおかげで、今、サイエンスの話をなんとか理解できるし、勉強すれば語ることもできます。

もし、大学受験のときに数学から逃げていたら、今の自分はなかったと思います。苦手だと思っていた数学を大学受験と研究を通して最低限つぶしておいたので、自分の世界は確実に広がったと思います。

――数学から逃げなかったことが、結果的に桝さんの人生にプラスに働いたんですね。

最近実感するのは、最低限の数学は、何を学ぶにしても必要だということです。分野によって必要な知識の範囲は異なっても、数学的な考え方が不要な学問はほとんどないのではないですか。ですから数学が苦手でも、自分の将来が見えない、本当にやりたいことがわからないという場合は、可能性の幅を広く残しておくためにも、数学から逃げないことをお勧めします。

――数学を学ぶことで、可能性の幅を広く残すというのは、どういうことでしょうか。

国語を含む語学と数学は、文系、理系に関係なく、あらゆる学問のベースだと私は考えています。語学と数学で築いたベースの上に、自分の好きな分野を組み合わせたり、積み重ねたりしていくことが真の学びではないかと思います。

例えば、現在、私が取り組んでいるのはメディアとサイエンスをつなげるための研究で、学問分類上は文系の社会学に当たりますが、大量のデータ収集や分析には、どうしても統計の手法が必要になります。私は本当に恥ずかしながら、大学時代に統計の授業の単位を落としてしまったくらい苦手だったので、今さらながら高校生が読むような統計学のテキストを読んでいます。

――文系でも理系でも、どこかで数学が必要になるのなら、数学が苦手という理由で理系をあきらめるのは、もったいないですね。

多くの受験生が、数学が得意か不得意かで自分の進路を決めてしまいがちなのは、ゴールを大学合格に設定しているからだと思います。大学合格をゴールに設定して、そこから逆算するから「数学の配点が高い理系は無理だ」という結論になる。もちろんそれぞれご家庭の事情などもあるとは思うのですが、私は高校時代、自分のゴールは「大学で生物学を学ぶ」ことだと思っていたので、合否の可能性にこだわりすぎずに理系を選択したし、生物学を学ぶために必要と思ったので苦手な数学から逃げずにすみました。

――ゴールから逆算して、苦手を克服したんですね。

ちなみにもう一つ、苦手だったことをあげるなら、もともと人とのコミュニケーションが苦手でした。だから大学院を修了後、アナウンサーになったときは、学生時代の同級生や先生からは驚かれました。

――えっ、それは意外ですね。

アナウンサーになった理由の一つは、自分が持っている理系の知識を社会に伝えたいと思ったからです。自分が文理選択に困った経験から、文系と理系の懸け橋になりたいという希望は大学入学当初から持っていました。でも能力的には、けっしてアナウンサーに向いていたとはいえません。新人のころ、アナウンス部の研修で「コメントにユーモアが足りない」と言われて、「なぜアナウンサーが笑いを取る必要があるんですか」と言い返したこともあるほどです(笑)。

それでも入社1年目でバラエティー番組の前説担当になったときは、どうすれば笑いを取れるのかを懸命に考えました。どんな話をしたときにウケて、どんな話をしたときにスベったのか、実際に起きた現象を分解して仮説を立てるという、ある意味で理系の研究の手法を使って分析しました。その結果、私の場合は、何か予想外のことを振られてあたふたとする姿が一番笑いにつながるという結論でしたけども(笑)。

――そうやって苦手な状況の中でも、力を発揮できる方法を探していったのですね。

アナウンサーという苦手分野に飛び込んでみてわかったことは、ほかにもたくさんあります。例えば、サイエンスの話を広く多くの層に届けるためには、正論を言うだけではダメだということ。また、「何を」伝えるかだけではなく、「誰が」伝えるのかも大事だということも、テレビに出たからこそ得られたものです。これらの気づきは今の研究にもつながっています。

数学を学んだからこそ、大好きな生き物の研究ができたように、人前で話す仕事に取り組んだからこそ、そこでの経験が自分の求めていた分野の研究に生かされました。思い切って苦手分野と向き合ったら、自分の得意分野にもいい影響があったという話は、実は結構あります。だから苦手分野があることをネガティブに考える必要はないと思います。

【後編】進路選びは理系、文系ではなく、「やりたい系」で 桝太一さんが語る理想の学びとは?

(朝日新聞Thinkキャンパス・平岡妙子編集長[写真左]と桝太一さん)

桝太一(ます・たいち)/1981年、千葉県生まれ。麻布中学校・高等学校から東京大学理科二類、農学部に進学。同大学院修了後、日本テレビに入社。入社6年目から朝の情報番組「ZIP!」の初代総合司会を務める。2022年に同社を退社し、現在は同志社大学ハリス理化学研究所専任研究所員として、サイエンスコミュニケーションの研究に携わる。

(構成=木下昌子)
(写真=篠塚ようこ)

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