東大の地方出身者への授業料免除は、必要か? 新入生2870人へのアンケートから見えた現実【後編】

2025/08/11

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 東京大学は、2025年度の入学者から授業料を約10万円値上げして年間64万2960円に改定しました。授業料改定にあわせて、学費免除や減額の措置を拡充し、学生支援を行っています。当事者の学生たちは、東大の動きをどう評価しているのでしょうか。25年度に東大に入学した学生2870人へのアンケートから、前編に続いて見ていきます。(写真=朝日新聞社撮影)

地方出身者への授業料一部免除「十分」が最多

東大は2025年度入学者からの授業料値上げにあわせて、世帯年収600万円以下(従来は世帯年収400万円以下)の日本人学生の授業料を全額免除し、さらに世帯年収600万円以上900万円以下の地方出身学生(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県以外)については授業料の4分の1を減免することを発表しています。

現役東大生が執筆・運営する東京大学新聞は、25年4月の入学式に出席した新入生にアンケートを配布し、全新入生(3122人)のうち2870人からオンラインで回答を得ました。その中で、上記の地方出身者への授業料減免についても聞いています。2870人の回答からリアルな評価を見てみましょう。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

今回の東大の対応については「十分だ」(44.9%)と答えた人が最も多く、「地方出身学生の免除額は引き上げるべきだ」(32.1%)、「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ」(17.1%)と続きました。

「地方出身学生に対して特別な配慮は不要だ」「地方出身学生の免除額は減らすべきだ」「免除の対象にならない地域を増やすべきだ」といった否定的な意見はいずれも少数でした。また、個別の意見では、「年収による制限をなくすべきだ」「元の授業料に戻すべきだ」「授業料の値上げによって一部学生の学費を免除するより、全学生の学費を低い水準で保つべきだ」といった意見もありました。

地方出身学生と首都圏の学生で授業料免除の有無が異なる点については、以下のようにさまざまな意見がありました。

・地方出身学生の免除額は引き上げるべきだが、意図が不明瞭。下宿者向けの政策なら下宿者対象の手当を出すべきだ(理科Ⅰ類、神奈川県の高校出身)

・1都3県の学生には少額の免除を行うべきだ(理科Ⅰ類、神奈川県の高校出身)

・地方出身学生に対して特別な配慮は不要だ。世帯収入に基づいて、出身を問わず免除するべきだ(理科Ⅱ類、新潟県の高校出身)

・地方から東大に進出する層がどんな感じなのか知らないため、なんとも言いようがない。浪人中にいた地方出身の人は地主出身だったため、そういう人が多いならば限定をかけるべきだと思う。しかし、そうでないのならば現状維持で良いと思う(文科Ⅱ類、東京都の高校出身)

地方出身学生の意見は二極化

 では、免除の対象となる地方出身者と、免除の対象にならない1都3県出身者では、評価はどう違うのでしょうか。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

 地方出身者は、「地方出身学生の免除額は引き上げるべきだ」(47.7%)が最も多く「十分だ」(40.8%)が次いでいます。「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ」はわずか7.5%でしたが、中には「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ。地方出身学生に対して特別な配慮は不要。男女比と同様、地理的不利は個人単位で対策すべきであり、大学が介入する必要はない」という意見もありました。

1都3県学生の約7割が肯定的

 一方、1都3県出身者は、「十分だ」(48.0%)が半数近くを占め、「地方出身学生の免除額は引き上げるべきだ」(20.1%)は、地方出身者の回答に比べて半分にとどまりました。逆に「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ」(24.6%)は地方出身者の回答に比べて3倍以上の割合になりました。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

過半数が世帯年収「900万円以上」

次に回答した東大生の世帯年収を見てみましょう。「わからない」(30.3%)を除くと、「1200万円以上」(28.4%)が最も多く、これに「900万円以上1200万円未満」(22.6%)が続き、900万円以上の高所得層が多いことがわかります。地方出身者の授業料減免の対象になる「600万円以上900万円未満」は12.4%、出身地を問わず授業料免除になる600万円未満は6.2%です。

このうち地方出身者がどれくらいいるのかはわかりませんが、東大合格者の過半数が1都3県出身であることを含めると、授業料減免の対象になる地方出身者はそれほど多くないと推測されます。東大生の世帯年収は、前編で紹介した東大の学生生活実態調査の結果ともおおむね符合しています。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

今回のアンケートから、保護者の世帯年収によって意見が変わることや、減免措置の対象になっている世帯の学生は肯定的に受け止める人が多いこともわかりました。東大の授業料値上げ後、追随する国立大学はあまり見られませんが、授業料値上げ問題はどの大学にとっても直面することであり、さらなる国民的議論が求められます。

>>東大の新入生2870人にアンケート【前編】 授業料値上げに賛成か反対か?その意外な結果とは

(文=大石純平)

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【表】東大の地方出身者への授業料免除は、必要か?新入生2870人へのアンケート結果

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)
(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

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