■話題・トレンド
東京大学は、2025年度の入学者から授業料を約10万円値上げして年間64万2960円に改定しました。授業料改定にあわせて、学費免除や減額の措置を拡充し、学生支援を行っています。当事者の学生たちは、東大の動きをどう評価しているのでしょうか。25年度に東大に入学した学生2870人へのアンケートから、前編に続いて見ていきます。(写真=朝日新聞社撮影)
地方出身者への授業料一部免除「十分」が最多
東大は2025年度入学者からの授業料値上げにあわせて、世帯年収600万円以下(従来は世帯年収400万円以下)の日本人学生の授業料を全額免除し、さらに世帯年収600万円以上900万円以下の地方出身学生(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県以外)については授業料の4分の1を減免することを発表しています。
現役東大生が執筆・運営する東京大学新聞は、25年4月の入学式に出席した新入生にアンケートを配布し、全新入生(3122人)のうち2870人からオンラインで回答を得ました。その中で、上記の地方出身者への授業料減免についても聞いています。2870人の回答からリアルな評価を見てみましょう。

今回の東大の対応については「十分だ」(44.9%)と答えた人が最も多く、「地方出身学生の免除額は引き上げるべきだ」(32.1%)、「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ」(17.1%)と続きました。
「地方出身学生に対して特別な配慮は不要だ」「地方出身学生の免除額は減らすべきだ」「免除の対象にならない地域を増やすべきだ」といった否定的な意見はいずれも少数でした。また、個別の意見では、「年収による制限をなくすべきだ」「元の授業料に戻すべきだ」「授業料の値上げによって一部学生の学費を免除するより、全学生の学費を低い水準で保つべきだ」といった意見もありました。
地方出身学生と首都圏の学生で授業料免除の有無が異なる点については、以下のようにさまざまな意見がありました。
・地方出身学生の免除額は引き上げるべきだが、意図が不明瞭。下宿者向けの政策なら下宿者対象の手当を出すべきだ(理科Ⅰ類、神奈川県の高校出身)
・1都3県の学生には少額の免除を行うべきだ(理科Ⅰ類、神奈川県の高校出身)
・地方出身学生に対して特別な配慮は不要だ。世帯収入に基づいて、出身を問わず免除するべきだ(理科Ⅱ類、新潟県の高校出身)
・地方から東大に進出する層がどんな感じなのか知らないため、なんとも言いようがない。浪人中にいた地方出身の人は地主出身だったため、そういう人が多いならば限定をかけるべきだと思う。しかし、そうでないのならば現状維持で良いと思う(文科Ⅱ類、東京都の高校出身)
地方出身学生の意見は二極化
では、免除の対象となる地方出身者と、免除の対象にならない1都3県出身者では、評価はどう違うのでしょうか。

地方出身者は、「地方出身学生の免除額は引き上げるべきだ」(47.7%)が最も多く、「十分だ」(40.8%)が次いでいます。「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ」はわずか7.5%でしたが、中には「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ。地方出身学生に対して特別な配慮は不要。男女比と同様、地理的不利は個人単位で対策すべきであり、大学が介入する必要はない」という意見もありました。
1都3県学生の約7割が肯定的
一方、1都3県出身者は、「十分だ」(48.0%)が半数近くを占め、「地方出身学生の免除額は引き上げるべきだ」(20.1%)は、地方出身者の回答に比べて半分にとどまりました。逆に「1都3県の学生にも免除の対象を拡充すべきだ」(24.6%)は地方出身者の回答に比べて3倍以上の割合になりました。

過半数が世帯年収「900万円以上」
次に回答した東大生の世帯年収を見てみましょう。「わからない」(30.3%)を除くと、「1200万円以上」(28.4%)が最も多く、これに「900万円以上1200万円未満」(22.6%)が続き、900万円以上の高所得層が多いことがわかります。地方出身者の授業料減免の対象になる「600万円以上900万円未満」は12.4%、出身地を問わず授業料免除になる600万円未満は6.2%です。
このうち地方出身者がどれくらいいるのかはわかりませんが、東大合格者の過半数が1都3県出身であることを含めると、授業料減免の対象になる地方出身者はそれほど多くないと推測されます。東大生の世帯年収は、前編で紹介した東大の学生生活実態調査の結果ともおおむね符合しています。

今回のアンケートから、保護者の世帯年収によって意見が変わることや、減免措置の対象になっている世帯の学生は肯定的に受け止める人が多いこともわかりました。東大の授業料値上げ後、追随する国立大学はあまり見られませんが、授業料値上げ問題はどの大学にとっても直面することであり、さらなる国民的議論が求められます。
>>東大の新入生2870人にアンケート【前編】 授業料値上げに賛成か反対か?その意外な結果とは
(文=大石純平)

【表】東大の地方出身者への授業料免除は、必要か?新入生2870人へのアンケート結果
あわせて読む
記事のご感想
記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします
今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。
関連記事
注目コンテンツ
-
「人間性重視」の教育で、AIにも負けない作業療法士を養成――文京学院大学・作業療法学科
一人ひとりの個性に合わせてリハビリテーションを行う作業療法士。対象者に寄り添い、懇切丁寧な応対が求められる作業療法士...
2025/07/18
PR
-
甲南女子大学はなぜ就職に強いのか?~大学全体で取り組む「誰一人取り残さない手厚い就職サポート」の実践
兵庫県神戸市の中心部近く、海と街並みを見渡す高台に佇む甲南女子大学は、手厚いキャリア支援と高い就職実績で、近年注目を...
2025/07/18
PR
-
社会が求める女性のデジタル人材を育成―― 昭和女子大学が初の理工系学部「総合情報学部(※1)」を2026年4月開設予定
大学通信が調査した「2024年 進路指導教諭が評価する大学」で、実に6項目にわたって「全国の女子大学1位」を獲得した...
2025/07/15
PR
キャンパスライフ
-
郊外の大学が、都心の近くへ移転 新しい学食・トイレ…東洋大の学生が語るメリットとデメリット
■特集:キャンパスと大学選び 郊外にあったキャンパスを、都心に近い場所に移転する「都心回帰」の大学が増えています。大...
2024/09/08
マネー
-
【大学生活とお金】朝夕2食つきの女子寮でひとり暮らし 長期休暇に週6日まとめてバイト
■学生生活 お金のリアル(長崎県長崎市) 長崎県佐世保市出身の本多唯さん(仮名)は、小学校教諭一種免許状を取得するた...
2024/07/14
-
【大学生活とお金】「子どもから元気もらえる」時給1230円の学童保育でバイト 夢は教員、学生の一人暮らし
■学生生活 お金のリアル(神奈川県横浜市) 学校教員の志願者は減少傾向にありますが、教員になることを目指して頑張る大...
2024/04/15
-
【高校生のお悩み解決!!】文系・理系で就職に有利なのは?向いてる人は?
大学進学や受験について知りたいこと、悩んでることなどあったらぜひコメント欄やメールにて送ってください!土佐兄弟の2人...
2023/05/11
-
おすすめ動画
大学発信の動画を紹介します。
大学一覧
NEWS
教育最新ニュース
- 津波注意報、離島の子はどう行動したか 学校のない時期の自主的避難 2025年 08月 13日
- 最速1年で教員免許、大学院に課程新設へ 社会人→教員を増やす狙い 2025年 08月 10日
- 東京独自の「チャレンジクラス」1年 公立中に分教室、続く試行錯誤 2025年 08月 09日
- 日本国籍なのに外国籍とされた少年 サッカー協会が「帰化」書類要求 2025年 08月 09日
- 科学力ランキング13位、過去最低3年連続 資材高騰も研究費増えず 2025年 08月 08日
Powered by 朝日新聞