東大の新入生2870人にアンケート 授業料値上げに賛成か反対か?その意外な結果とは【前編】

2025/08/11

■話題・トレンド

国立大学の授業料値上げが注目されています。東京大学は2025年度の入学者から(修士課程は29 年度入学者から)授業料を約10万円値上げして、年間64万2960円に改定しました。学生はこの授業料値上げの動きをどう感じているのでしょうか。25年度に東大に入学した学生2870人へのアンケートから、リアルな声を紹介します。(写真=朝日新聞社撮影)

「やむを得ない」が最多

現役東大生が執筆・運営する東京大学新聞は、2025年4月、25年度の入学式に出席した新入生にアンケートを配布し、全新入生(3122人)のうち2870人からオンラインで回答を得ました。さまざまな項目について質問しましたが、授業料値上げについても聞いています。2870人の回答からリアルな評価を見てみましょう。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

授業料値上げ等に対し、「評価しないが、やむを得ない」(47.0%)と答えた人が最も多く、5割近くを占めました。「どちらかというと評価する」(34.8%)と答えた人も3分の1を占め、「高く評価する」(7.0%)と合わせると、授業料値上げを肯定的に捉えている人が4割以上いることがわかりました。上記の「評価しないが、やむを得ない」を含めると、おおむね容認している学生が大多数と言えます。

一方で、「全く評価しない」(10.4%)とした人もおり、「評価しないが、やむを得ない」を否定的な声と捉えると、授業料値上げの評価に関しては意見が分かれているとも言えそうです

自由記述を見ると、肯定派・否定派でさまざまな意見が出ています。
「前もって発表されていれば高く評価できた」「値上げはいいが、その決定のプロセスを評価しない」「国からの予算が足りていないように思う。よって東大の対応については評価しないが、やむを得ない」「授業料値上げは全く評価しないが、値上げが前提であれば減免措置は評価する」などの声がありました。

また、この回答を大学院への進学の意思がある人とない人に分けて見ると、「博士課程までの進学を考えている」人は、「高く評価する」「どちらかというと評価する」を合わせて48.1%にのぼりました。今回の授業料値上げで博士課程のみ授業料が据え置かれたことも、一つの要因と考えられます。

世帯年収別に見ると、意外な結果に

東大は今回の授業料改定にあわせ、25年度入学者から世帯年収600万円以下(従来は世帯年収400万円以下)の日本人学生の授業料を全額免除しています。また、世帯年収が900万円以下で、1都3県(東京、埼玉、神奈川、千葉)以外の出身者に対しては、授業料を25%減額する拡充措置を1月中旬に発表しました。
アンケートの結果を世帯年収別に見ると、どうなっているのでしょうか。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

調査結果を見ると、世帯年収が低い学生のほうが授業料値上げを評価し、「全く評価しない」は世帯年収が高い学生のほうが多いという意外な結果になっています。

世帯年収400万円未満では、「高く評価する」(18.8%)の割合が年収別で最も多く、「どちらかというと評価する」(32.3%)と合わせると半数を超えています。25年度から新たに授業料全額免除の対象となった400万円以上600万円未満では、「どちらかというと評価する」(42.9%)が年収別で最も多く、年収別で唯一、「評価しないが、やむを得ない」(40.6%)を超えていました。

一方、「全く評価しない」が最も多かったのは年収900万円以上1200万円未満の13.5%、次いで1200万円以上の11.7%でした。400万円未満、400万円以上600万円未満はいずれも7%台にとどまっていました。「全く評価しない」「評価しないが、やむを得ない」という、値上げに否定的な評価を合わせると、最も多いのは900万円以上1200万円未満の61%で、1200万円以上と600万円以上900万円未満が57%で次いでいました。600万円未満の層では、いずれも半数に達していません。

この結果には、東大が授業料の値上げに合わせて、世帯年収が600万円以下の家庭や、1都3県以外で年収900万円以下の家庭に対して、授業料の減免措置を導入したことが大きいと考えられます。

ただし、東大の学生生活実態調査(23年度)によれば、世帯年収は1050万円以上44.7%、950万円以上1050万円未満12.7%、750万円以上950万円未満16.7%となっており、950万円以上の家庭が6割近くを占めています。450万円未満は12.7%です。

今回の調査でも、「わからない」が3割いるものの、世帯年収900万円以上が半数を超え、600万円未満はわずか6.2%。世帯年収の高い家庭が多く、この年収別の評価もこうした要素を合わせて見たほうがいいでしょう。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

「授業料値上げ」を知っていた?

では、学生たちは東大を受験する前に授業料値上げについて知っていたのでしょうか。値上げ自体は大半が知っていたようですが、積極的に情報を調べたか否かで見ると、授業料値上げを「高く評価する」、逆に「全く評価しない」と自分の意見を明快に答えた人は、「積極的に情報を調べていた」割合が多いことがわかります。「評価しないが、やむを得ない」と答えた人は、約8割が「知っていたが、積極的に情報を調べてはいなかった」と回答しており、その比率が最も高くなっています。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

こうしたことから、授業料値上げの情報を積極的に調べていた学生ほど、「私はこう思う」とはっきりとした評価を下す傾向があるようです。反対に、値上げを知っていても積極的に情報を調べていなかった人は、評価があいまいになった傾向があると言えそうです。

「現状のままでよい」が最多

東大に限らず、国公立大学の学費はどうあるべきなのかについても聞いています。

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

「現状のままでよい」(32.1%)が最も多く、「学費はそのままでよいが、減免措置や奨学金制度は拡充すべきだ」(24.0%)と続いています。一方、「世帯年収の高い世帯が今より多く学費を負担すべきだ」(9.7%)、「今よりも一律で学費を上げるべきだ」(2.1%)の学費値上げ派閥は両方合わせても1割余りにとどまり、現状維持派が大半でした。

また、「今よりも学費を安くすべきだ」(20.7%)、「学費は世帯年収にかかわらず無償にすべきだ」(10.9%)という回答も合わせて約3割を占めています。

個別の意見を見ると、「国がもっと大学を金銭的に支援することで、学費を安くすべきだ」という意見が複数あったほか、「学生の学習の習熟度などを大学が公表し、一定の基準を満たすところは国の支援を拡充すべき」「学費は安価であるべきで、大学の運営費は国が出すべきであり、奨学金も給付型を増やすべき」などがありました。

今後、国公立大学だけでなく、私立大学を含めて、大学の授業料はどうあるべきか、誰が負担すべきなのかという議論が活発化することが予想されます。東大の授業料値上げをきっかけに、日本社会の未来を担う学生をどう育成していくのかという観点から、授業料問題を議論する必要があります。

>>東大の地方出身者への授業料免除は、必要か? 新入生2870人へのアンケートから見えた現実【後編】

(文=大石純平)

1pxの透明画像

【表】東大の新入生2870人へのアンケート結果

(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)
(グラフ=アンケート結果をもとに編集部作成)

記事はこちら

1 / 5

記事のご感想

記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします

今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。

関連記事

注目コンテンツ

キャンパスライフ

マネー

NEWS