■親のための学部・学科講座

いまのデータ社会を研究する「社会情報学」は、比較的新しい学問分野です。文系、理系の枠にとらわれない「文理融合」の学問分野で、組み合わせ方次第で多様な学びが実現できます。ただ大学によって、学問領域がかなり異なります。数学でついていけるかどうかなど、ミスマッチが起きる可能性もありますので、入学前によく調べる必要があります。(写真=青山学院大学提供)

1990年代から誕生

大学に「社会情報学」を冠した学部や学科が登場したのは1990年代のこと。学部としては1991年に札幌学院大学が日本で初めて社会情報学部を設立しました(2014年に募集停止)。現在は、国公立では群馬大学、私立では青山学院大学、大妻女子大学、大阪経済大学(名称は情報社会学部)などに設置されています。小樽商科大学商学部社会情報学科、中央大学文学部人文社会学科社会情報学専攻など、学科や専攻で社会情報学を学べる大学もあります。

文系寄りか理系寄りかは大学ごとに異なる

そもそも社会情報学とは、どのような学問なのでしょうか。各大学のウェブサイトで社会情報学部(学科)の概要を見ると、「社会事象を情報(データ)で読み解く」「情報が人間の社会生活に与える影響を研究する」などさまざまで、受験生にはわかりづらいかもしれません。

青山学院大学社会情報学部長の宮川裕之教授はこう話します。「社会情報学は、体系的に確立された学問領域ではありません。経済学や法学のように学問体系がまずあってそれを学部の中で教えようという枠組みではなく、各大学が自由に解釈し、カリキュラムを設定しています。つまり、学ぶ内容は大学によって違いがあります」

各大学の社会情報学部をカテゴリー分けすると、文系寄りか、理系寄りかに分けることができます。

経済学部など文系学部を改組して設立したり、現代社会における情報技術の役割など社会学的な研究テーマを掲げたりしている場合は、文系の学びに重点が置かれています。

一方、工学部や理学部のコンピューター、情報処理、通信を扱う学部・学科から派生した社会情報学部は、理系の要素が強くなります。

どこの大学も同じと考えて入学すると、ミスマッチを起こしやすいです。明らかに文系の受験生なのに、理系色の強いところに入ってしまうと苦労することがあり得ます。受験校を決める際に、大学でどのようなことを学ぶのか、大学が求めている人物像などをきちんと調べたうえで自分に合った大学を選ぶことが大事です」(宮川教授)

変革の時代に必要な「文理融合」の学びを提供

08年に開設された青山学院大学の社会情報学部は、文系、理系の枠にとらわれない「文理融合」の学びが特徴です。宮川教授はこう説明します。

「変革が著しい社会では、多角的な視点で問題解決を図る人材の育成が不可欠ですが、従来の学問分野別のカリキュラムでは横断的に学ぶのは難しい。そこで文系、理系関係なく、複数の専門領域の学びをつないで新しい価値を生み出す学部として、社会情報学部を設立しました。それ以前に社会情報系学部を設立していた他大学の状況をリサーチできる立場だったので、未来の社会で必要とされる人材にターゲットを絞った特徴ある学部をつくれたと考えています」

多角的な視点と問題解決力を養う

カリキュラムは、全員が英語、コンピューター、数学、統計学といった「基礎科目」を履修した上で、各自の関心に応じて専門領域の学びを深めていくスタイルです。専門領域では、経済・経営・社会学などの「社会」、心理学などの「人間」、プログラミング・データ分析などの「情報」の3ジャンルから少なくとも2領域を学びます。

社会情報学部のカリキュラム

(出典:青山学院大学 社会情報学部ウェブサイト)

「複数の領域を学ぶだけでなく、それを結びつけることが大事です。領域を融合させるための授業(リエゾン科目)にも力を入れています」と宮川教授。「合理的思考と社会行動」もその一つで、人間系、社会系、情報系の3人の教員が一つのテーマについてディスカッションするユニークな授業です。学生たちは各分野の教員が専門的な立場から意見を述べたり、他分野の教員の意見を取り入れながら解決策を導き出していったりする様子を見て、多角的な視点を持つことの大切さを実感します。

「合理的思考と社会行動」の授業の様子(写真=青山学院大学提供)

自治体や企業の実際の課題に取り組むプロジェクト型学習でも、複数の視点から解決策を考えるよう指導するほか、ゼミなどいろいろな場面で学びの融合が進められる工夫をしています。

文系でも安心、「数学質問部屋」で徹底支援

社会情報学部の入試は文系型、理系型のどちらでも受験が可能で、入学者の7割を文系が占めています。必修の基礎科目には数学も含まれますが、文系の学生はついていけるのでしょうか。

文系タイプでも理系の素養をつけられるところが、私たちの学部の特徴です」

と宮川教授。授業を工夫するだけでなく、気軽に先輩に質問できる「数学質問部屋」を設けるなど、さまざまな学習支援をしています。

「数式を見るのも嫌という人には向きませんが、『数学は嫌いじゃない』『コンピューターに興味がある』という人であれば、ミスマッチは少ないでしょう。過去に理系科目をクリアできずに卒業できなかった学生は一人もいません」(宮川教授)

20年先の社会で活躍できる人材に

文理融合型の社会情報学部は、多様な学びができることが大きなメリットです。

卒業後の進路も、おのずと幅が広がります。就職先の業種は情報通信系のほか、製造、金融・保険、不動産など多岐にわたっています。情報システムのスペシャリストとして活躍したり、データ分析を行ったり、インターネットを利用した次世代ビジネスを提案したりするなど、仕事内容もさまざまです。

「情報化のスピードはますます速くなってきています。大学や学部を選ぶ際には、『20年先の世の中でどのような人材が求められるのか』といった視点も必要だと思います」(宮川教授)

(文=熊谷わこ)

女子大でも新設される「社会情報学部」 データを扱う業界で仕事を(後編)はこちらから

 

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