大学通信が調査した「2024年 進路指導教諭が評価する大学」で、実に6項目にわたって「全国の女子大学1位」を獲得した昭和女子大学(※2)。来年4月には、当大学初の本格的理工系学部である「総合情報学部データサイエンス学科、デジタルイノベーション学科(※1)」を開設する。新学部が育成を目指す、社会に求められる女性のデジタル人材とはどういうものか? 新学部を牽引するお二人の教授と、エンジニア採用コンサルティング・デジタル人材育成・DX研修などの事業を手掛けるワミィ株式会社・伊藤和歌子代表取締役に鼎談していただいた(写真は左から木村琢磨教授、山中健太郎新学部準備室長、伊藤和歌子氏)。
(※1)本文を含め、総合情報学部、データサイエンス学科、デジタルイノベーション学科については文部科学省に設置認可申請中であり、学部・学科名を含む記載内容は変更される可能性があります
(※2)全国約3000の進学校の進路指導教諭を対象にアンケートを行い、766校から回答。昭和女子大学は「教育力が高い大学」「グローバル教育に力を入れている大学」「改革力が高い大学」「入学後、生徒を伸ばしてくれる大学」「面倒見が良い大学」「就職に力を入れている大学」の6項目で、全国の女子大学(国立、公立、私立含む)で1位を獲得した

◆使う先の知識がなければ、収集したデータを正しく活用することはできない
―はじめに自己紹介を兼ねて、皆さまのご経歴をお聞かせください。
伊藤和歌子・ワミィ株式会社代表取締役(以下、伊藤) 私の大学時代が、ちょうど日本でインターネットの普及が進みはじめた頃だったんです。それで興味を持ち、留学先のアメリカで自分の生活ぶりを家族に知ってもらうためにホームページを立ち上げ、発信していました。大学(経済学部)を卒業後、ニフティ株式会社に入社。約9年間、エンジニアの業務を下流から上流までひと通り経験しました。その後、夫の転勤を機に、京セラ関連のIT企業に転職、人事責任者として採用や人材育成に携わりました。当時、エンジニア出身の人事職は珍しかったものの、今後必ずニーズが高まると思い、2016年にワミィ株式会社を設立しました。

木村琢磨・全学共通教育センター教授(以下、木村) 私は大学卒業後、複数の企業での職務経験を経て、営業や人事・経営の改革に携わっていました。その後、大学院に通って人事管理の研究をし、博士号を取得しました。その後に組織行動の研究を始め、さらにAIの学位も取りました。新設を予定している「総合情報学部」では、データサイエンス学科の「データサイエンス入門」、「統計学」、機械学習の手法を用いた「予測アナリティクス」などの講義を担当します。この学部が目指すのは、社会で真に求められているデジタル人材の育成であり、テクノロジーの知識に加え、“活用する力”を重視しています。想定されるデジタル技術の活用領域(ドメイン)として「ビジネス」「健康」「心理」を柱に据えていますが、そのうち私は「ビジネス」領域を担当する予定です。

山中健太郎・新学部準備室長(以下、山中) 私の専攻は身体教育学・スポーツ科学です。ですから木村先生も私も、文系出身者ということになります。大学院ではモーションキャプチャーに始まり、生体信号や脳波などの膨大なデータを扱っていました。昭和女子大学では主に運動と食と健康の関わりについて講義していますが、私の研究は生理、心理、運動力学、行動科学など多岐にわたり、そのいずれにおいてもデータの活用が必須となります。データというのは、使う先の知識がなければ、せっかく収集したデータを正しく活用することができません。しかし多くのエンジニアはドメイン(データが活用される領域、分野)について知らないんですね。伊藤さんのようにエンジニアでありながら、人事というドメインも熟知しているケースは少ないと感じます。
伊藤 ありがとうございます。その珍しさが、弊社の強みのひとつです。

◆テクノロジーを活用する力を育成。ポイントはスキルの“掛け合わせ”
山中 データサイエンスの知識を持ったうえで、何を提案するのか。提案先のことを知らなければ、的確なマッチングができません。この学部では、ドメインとデータを結び付け、具体的な価値を生み出せる人材の育成を目指しています。
木村 人間の行動や心理というのは、どうしても自分の経験から語りがちですよね。でも、エビデンスに基づいて判断するほうが賢明であり、効率的です。例えば、仕切りのない「オープンオフィス」が欧米から導入されて日本でも人気ですが、これは本当に生産性を向上させていると言えるのでしょうか? 一見すると「活気がありそう」ですが、本当のところは社員の集中度や業績がどう変化したかを測ってみないとわからない。まずはそうしたデータを取ってみようと発想できる人材になってほしいのです。
―来年4月に開設予定の総合情報学部は、昭和女子大学初の本格的理工系学部ということですが、どのような特徴があるのでしょうか。
木村 私は新学部で身につけるべき必須の要素が四つあると考えています。まずは先ほどから話に出ている「ドメイン」です。3年次以降は、デジタル技術をドメインに活用する演習やプロジェクトに取り組み、高度な実装力を習得します。その次が、「アナリティクス」。機械学習やAI生成だけでなく、統計学、数学といった基礎もきちんと体系立てて学びます。こうした伝統的な統計分析も押さえておくと、予測の手段にバリエーションが生まれます。三つ目は「ソフトスキル」。これからのデジタル人材は、多様な職種・年代の人々と協働していくことになるため、円滑なコミュニケーションを可能にする対人スキルが非常に重要です。そのため、3、4年次の演習ではチームワークにも重点を置きます。そして、最後は「英語力」です。ここでいう英語力とは自分の専門について情報収集をし、説明ができる力を指します。
山中 何かを調べるときに、日本語以外の文献やリソースにアクセスできるかどうかで、得られる情報量は格段に変わります。専門領域に関して、英文を読むのが億劫にならないことが大切なんですね。そしてその習慣はデジタル人材として社会に出てからも絶対に必要な、「学び続ける」不可欠な要素となります。
伊藤 今おっしゃられた四つの要素は、実社会に必要な領域だと感じます。機械学習の知識だけがあっても、それを例えば不動産業界の課題にどう活用するのか、先生方のおっしゃる「ドメイン」の知識がなければ提案はできません。また先日、未経験からデジタル人材を目指す方向けのセミナーに講師として参加したのですが、そこでちょうどソフトスキルの大切さを強調したところでした。本当に多様な職種の方と協働する機会が増えており、チームをうまく調和させながらプロジェクトを進めていく力量を持ったエンジニアは、とても重宝されます。そして英語に限りませんが、社会の要請に応え続けるためには「学び続ける」姿勢が不可欠です。厚生労働省や経済産業省もリスキリング(※3)を推奨していますね。
山中 エンジニアの場合はリスキリングというより、アップスキリング(※4)でしょうか。既存の知識をレベルアップさせるスピードが非常に速いですよね。
(※3)キャリアアップやキャリアチェンジのために新しいスキルや知識を習得し、自身の能力をアップデートすること
(※4)現在の業務に必要な知識やスキルを向上させるために、学習やトレーニングを行うこと

◆ライフステージの影響が大きい女性にとって、デジタル系の職種は自由度の高い選択肢
木村 伊藤さんは社会人になってからデジタル人材になられたんですよね。当時はデジタルの黎明期で、今のように学べる機会が多かったわけでもなく、いろいろと大変だったのではないですか?
伊藤 私は幼い頃、父の影響でパソコン通信(※5)を楽しんでいたこともあるので、もともとデジタル技術というものが好きだったんだと思います。社会人になってから本格的にデジタル領域のことを学びましたが、当時は新しい技術が次々に出てきて、大変さよりも楽しさが勝っていました。デジタル分野は性別に関係なく、純粋に結果で評価されるフェアなところも魅力でした。
木村 確かに、デジタル分野は成果がわかりやすい領域ですね。
(※5) インターネットが登場する以前、1980年代後半から90年代にかけて、パソコンユーザーの間で利用された通信サービス。パソコンを電話回線につなぎ、情報交換やコミュニケーションを行っていた
山中 起業に至るまでにはさまざまな試行錯誤があったと思うのですが、どうやって現在のポジションにたどり着いたのでしょうか。学生の参考にしたいため、伺ってもよろしいですか?
伊藤 そうですね、女性は結婚や出産といったライフステージによる仕事への影響が、男性よりも大きいですよね。しかし、その中で自分がコントロールできる部分が多いほど、人生を主体的に生きることができると思うのです。それが、会社に依存せずとも働けるエンジニアのような専門職にたどり着いた大きな理由でしょうか。エンジニアという職業は、具体的な目標を立てて一つずつキャリアアップする道筋が見えやすい職種だと思っています。
山中 木村先生が挙げられた四つの要素を身につけて卒業すれば、業界・業種を問わず、あらゆる企業から「欲しい」と求められる人材になれると、自信を持って言えます。
伊藤 おっしゃる通りで、企業に「技術者に何を求めるか」というアンケートを取ると、1位が「コミュニケーション能力」、次いで「顧客との折衝力」という回答が得られます。今は一人で課題を解決できる時代ではなく、他者と協働するためのソフトスキルが不可欠ということですね。

―逆に、社会とは違う大学ならではの視点はありますか?
木村 演習ではソフトスキルの向上はもちろんですが、まずはインプットを正しくアウトプットできるようになることが第一目標です。たとえばデジタルイノベーション学科で学生がアプリを開発したとしましょう。企業であれば、どんなアプリであっても、売れれば評価されます。しかし大学では、そのアプリを制作する過程で、大学で学んだ知識を正しく活用できているかを評価します。実際に売れるかどうかが評価基準ではありません。大学では運に左右される単発のヒットではなく、学んだことを実際に活用できるかどうかを重視しているのです。そのほうが、成果を継続的に出していける「再現性」の評価になるからです。
伊藤 お話を伺っていて、新学部への期待がさらに高まりました。どんな企業でも欲しがる人材を目指すというお話がありましたが、そのためには「スキルの掛け合わせ」がポイントになると思います。たとえば英語とエンジニアリングを掛け合わせた「英語を話せるエンジニア」は、実は意外と少ないんですよ。先ほど挙げられた四つの要素は、どれとどれを掛け合わせても、将来的な強みになると思います。
山中 新学部は、昭和女子大学がこれまで注力してきた「人にフォーカスする学問領域」を中心に据えています。
木村 ドメインやソフトスキルの教育基盤には既存の専門学部が関わっており、本学ならではの情報学へのアプローチと言えるでしょう。通常、データを扱う情報学部は工学系から派生するケースが多いのですが、そうした成り立ちとは一線を画すものだと考えています。
―最後に、受験生の皆さんにメッセージをいただけますか?
伊藤 デジタル人材のニーズは、今後も必ず伸び続けます。女性にとって有望な選択肢として、ぜひお勧めしたいですね。
木村 データサイエンスはどの業界・業種でも通用する学問です。そのため、卒業後の選択肢が非常に広い。「将来は働きたいけど、何をしたいのかわからない」という人でも、この新学部で自分の進みたい道がきっと見つかると思いますよ。
山中 この学部には、文理両面の力が求められます。今はどちらかが苦手でも、入学後に勉強して克服することができますから、少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひ挑戦してほしいと思います。コツコツと努力を重ね、自身の能力を高めていける、意欲のある人をお待ちしています。
―総合情報学部の登場によって、昭和女子大学の評価がまた一段と高まりそうですね。本日はありがとうございました。
<詳しくはこちらへ>
昭和女子大学 総合情報学部 特設サイト
https://www.swu.ac.jp/faculty/informatics/
取材・文/武田洋子 撮影/大野洋介 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ

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