今から22年前、他大学に先駆けてゲームの学際的研究や制作技術の修得を目指す学科(総合情報学部デジタルゲーム学科)を設置した大阪電気通信大学。2026年4月からは新たに「ゲーム・社会デザイン専攻」を加え、同学科を刷新(※)、「世の中のシリアスな課題をゲームの力で解決できる人材」の育成を目指す。そのねらいと展望について、同大学副学長の渡部隆志教授と、デジタルゲーム学科で学生の指導にあたる稲浦綾講師に話を聞いた(写真はモーションキャプチャースタジオでの実習の様子。提供:大阪電気通信大学)
(※)仮称・設置構想中
◆技術革新と市場のグローバル化に対応
大阪電気通信大学は、2003年に日本の大学で初めて「ゲーム」の名前を学科名に冠したデジタルゲーム学科を総合情報学部に設置した。それから22年を経た今日、ゲーム産業は世界で30兆円規模の巨大市場に成長し、日本の他大学でもゲームについて学べる学部学科が次々に設置されるようになった。この間のデジタルゲーム学科の歩みについて、副学長の渡部教授は次のように語る。
「私たちが22年前にデジタルゲーム学科を開設した背景には、長年にわたるゲーム開発企業との共同研究など、さまざまな蓄積がありました。その知見を資産に、デジタルゲームづくりを通して情報技術について学び、エンターテインメントで生活文化を豊かにすることをコンセプトに学科がスタートしたのです」(渡部教授、以下同)

学科開設当時、ゲームは家庭用ビデオゲーム機が中心だったが、その後スマートフォンの登場によってユーザーの裾野は爆発的に広がった。さらには高速大容量通信の環境が普及したことで、多人数でのオンラインプレイが身近になり、デジタルゲームの文化そのものが大きく様変わりした。大阪電気通信大学のデジタルゲーム学科のカリキュラムは、そうした環境変化に対応して常にブラッシュアップを重ねてきた。そして、その間に劇的に進行したのが、ゲーム市場のグローバル化である。
「漫画、アニメに加え、今日ではゲームも世界市場でのセールスを念頭に置いて開発することが普通になり、欧米、中国、韓国などのメーカーと市場獲得にしのぎを削っています。日本のメーカーも国内だけではビジネスが成立しなくなり、国際的な視野を持ったクリエイターが求められるようになりました」
そうした変化は、大阪電気通信大学を卒業したゲームの作り手たちに対しても、以前には想像もできなかった「果実」をもたらすようにもなった。
「ある卒業生は新卒で大手ゲーム会社に就職後、経験を積んで独立し、自らゲーム制作会社を立ち上げました。彼の会社が作ったあるゲームは、現在までに全世界で500万ダウンロードを超えるメガヒット作品となっています。その他にも、在学中にスマホのアプリを開発したところ大ヒットし、卒業前に数千万円の収入を手にした学生もいます。大手メーカーではなく、数人規模の会社や個人でも、世界を相手にビジネスできる土壌が広がった今、ゲームクリエイターの未来には非常に大きな可能性が広がっていると言えます」
◆次なるステージは、ゲームを用いた社会課題の解決
このように20年以上にわたってゲームを学問・研究対象とし、多数の人材をゲーム業界に輩出してきた大阪電気通信大学では、2026年度から新たに「ゲーム・社会デザイン専攻」を加え、学科を刷新する予定だ(※)。そのねらいについて渡部副学長は、「ゲームの教育・研究の先陣を切った私たちとしては、ゲーム作りからさらにその一歩先、ゲームを用いて社会課題の解決ができる人材の育成を目標に設定しました」と語る。
「ゲーム関連分野の発展は目覚ましく、新しい技術が次々と生まれ、コンテンツのあり方や見せ方が多様になり、関連するメディアも多岐にわたるようになりました。また、ゲームは娯楽やエンターテインメントにとどまらず、社会課題の解決にも活用されるようになっています。こうした動向を背景に、デジタルゲーム学科に3つの専攻を置き、入学から卒業までのあらゆる場面で専攻間が柔軟に協力することで、学生たちがより幅広い視点でゲームに関する学びを得ることができる体制を整えました」

「ゲーム・社会デザイン専攻」のキャッチコピーは「ゲームで変える」。ゲームやエンターテインメント分野の企画・開発はもちろん、それらを活用して社会課題の解決や社会とのコミュニケーションをはかるためのコンテンツ制作の全般を学ぶことができる。
「ゲーム・社会デザイン専攻」の中心的な教員の一人で、カリキュラムの策定にも携わった稲浦綾講師は、同専攻の学びについてこう説明する。
「本専攻では、まず低年次にゲーム制作の演習を繰り返し、ゲームの企画と設計の基礎を学んだ後、ゲーム制作やアニメーション等の技術について実践的に学んでいきます。特徴的なのは、学年が上がるにつれ、社会課題の解決を目的とするシリアスゲームと呼ばれるゲームの可能性について学ぶことで、ゲームと社会をつなぐことができる人材を育成することです」

シリアスゲームとは、従来の娯楽・エンターテインメントを主目的とするゲームではなく、現実の世界で起こっているシリアス(深刻)な課題の解決を目的とするゲームのことだ。たとえば感染症対策の医療、教育格差の解決、環境汚染など、さまざまな深刻な問題について、シミュレーションゲームを通じて楽しみながら知識を得て、解決策を考えていくのである。
「以前から、認知機能の低下予防としてゲーム性のある『脳トレ』が一般化していますが、とくに医療や介護の分野でシリアスゲームの活用が進んでいます。その他にも、若者に政治参加を促したり、防災意識を持ってもらったりするなど、さまざまな分野への応用が期待されています」(稲浦講師)
「すでに本学では、シリアスゲームを通じて社会とつながる取り組みを始めています」と渡部副学長も解説する。
「昨年は本学四條畷キャンパスの地元、大阪府四條畷市の歴史や特色を楽しみながら学べるアナログゲームを8タイトル作成し、地域の小学生が参加するゲーム大会を開催しました。開発したゲームは四條畷市教育委員会に寄贈し、市内小学校の放課後子ども教室などで活用いただくことになっています。私もそのイベントに参加しましたが、ゲームづくりに取り組んだ学生たちとお子さんたちが、すごく盛り上がって交流するのを見て、あらためてゲームを通じたコミュニケーションの有用性を強く感じたところです」
◆最新の施設・設備と、注目のゲームイベントへの出展
従来あったデジタルゲーム学科、ゲーム&メディア学科は、そのまま「デジタルゲーム専攻」「ゲーム&メディア専攻」にスライドするが、こちらも充実したカリキュラムが用意されている。
「『ゲームを創る』をコンセプトとするデジタルゲーム専攻は、一人ひとりがコードを書いてプログラミングする情報工学を中心に、ソフトウェア開発やモーションキャプチャー、CGなどの専門的な知識・技術を学びます。ゲームおよびITシステムの開発技術を身につけ、魅力的なコンテンツを作り出すスペシャリストを養成します」(稲浦講師)
「ゲーム&メディア専攻は『ゲームを拡げる』をテーマに、ゲームの知識に加えてオリンピック競技化も検討されるeスポーツや動画配信の技術など、さまざまなメディアでの表現力を磨いていきます。ゲーム制作や多様なメディア表現に加え、ゲームを取り巻くさまざまなビジネスについて学ぶことで、ゲームを中心としたコンテンツ市場のプロデューサー役になれる人材を育成します」(渡部副学長)
大阪電気通信大学では、2007年から学生が実際に制作したゲーム作品を日本最大のゲームの展示会である「東京ゲームショウ」や、京都で開催されるインディーゲームの祭典「BitSummit」に出展する活動を継続してきた。加えて、ゲームを開発する施設・設備も充実している。学内にある「先端マルチメディア合同研究所(通称JIAMS:ジェイムス)」には、大学では日本の教育機関最大級のモーションキャプチャースタジオを設置。同施設はプロのスタッフが常駐・管理しており、国内の大手ゲームメーカーが実際のゲーム開発に利用することもあるという。学生たちは、アシスタントとして本物のゲームに使われる映像の撮影やデータ編集に携わり、早いうちからゲーム制作の実務を経験することができる。

2026年度以降、大手メーカーの大ヒットタイトルに携わったゲームディレクターやプログラマー、シリアスゲームの国際的研究者など、新たに7人が教員として加わることも決まっており、さらなる充実した教育環境が提供される。
「実践的なゲーム教育を続けてきたことで、本学では毎年、国内大手のゲームメーカーに人材を送り出し続けています。学科設立から20余年が経ち、最初の卒業生が40代なかばとなり、ゲーム業界の中核として活躍するようになりました。これからは、そうしたOB・OGとの連携も深めていく予定です。『目立つ大学より役立つ大学』。これは2021年の学校法人80周年に寄せて発信された本学からのメッセージです。自分と社会の両方に役立つことができる職業人になるための実学教育を、本学では創設以来、大事にしてきました。新設される『ゲーム・社会デザイン専攻』でも、その精神をもとに有為の人材を育成していきたいと思っています」(渡部副学長)
オランダの歴史学者、ヨハン・ホイジンガは、人間という存在を「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)であると定義した。人間のあらゆる営みの根底には「遊び」があり、遊ぶ精神を持っているからこそ、人は他の動物とは隔絶した巨大な文化を構築できたと指摘する。デジタルゲームという最新のツールについての知識と技術を学びながら、「遊び」という人間の本質についての洞察を深めた大阪電気通信大学の学生たちは、これからさらに多様な領域で活躍していくことだろう。

<詳しくはこちらへ>
総合情報学部デジタルゲーム学科
https://www.osakac.ac.jp/special/dg/
取材・文/大越 裕 制作/朝日新聞出版メディアプロデュース部ブランドスタジオ

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